E-8 テンゼルフィーの苦悩
森の守護者テンゼルフィーの苦悩
フーヴェルの手土産のパイがテーブルの上に残される中、
バスカー、ミレ、テンゼルフィーの3人は沈黙の中にいた。
テンゼルフィーが悔しさを滲ませる
「あの子に伝えないつもりですか?
黒い瘴気が精霊を食い殺してしまうこと」
「そうだ」
バスカーはカップのを手に持ちながら感情もなくこたえた
テンゼルフィーは声を荒げる
「フーヴェルに精霊は戯れを見せました
精霊繋ぎの才があります。
精霊との繋ぎは誰がするんです、
カスタジェ様にはもう出来ないんですよ?」
ミレはテンゼルフィーを見つめ、優しく諭す
「ランティアが戻れば、繋ぎはランティアがする。
テンゼルフィー、若い針樹よ、
もう自分を責めるな、里のために選んだだけだ。
必要なものを、選んだだけだ。
だからこそ、お前も賛成した」
「私は・・・」
テンゼルフィーは顔を下げた。
テーブルの上ではフーヴェルの持参したパイが栗の甘い匂いを漂わせていた。
ミレはそのパイを半分残して3等分に切り分けて、3枚の包み紙の上に載せた。
それをミレ自身の前、バスカーの前、テンゼルフィーの前に置いた。
ミレは一言
「頂こう」
とだけ言って、自分の前のパイを口に運んだ。
バスカーは黙ってそれに続き、
テンゼルフィーはそのパイを見つめたまま、動かなかった。
ミレは困ったようにテンゼルフィーに声を掛けた、
「食べないのかい?」
テンゼルフィーは暫く黙っていたが、皿をミレの方に押しやった。
「私には、食べる資格がありません・・・」
動いていたバスカーの手はその言葉で停止した。
ミレはその皿をテンゼルフィーに押し返し、
「ダメだ、食べな。フーヴェルが悲しむ。
私とバスカーは先に枯れる、お前がフーヴェルの思い出を連れていくんだ。
だから食べな」
テンゼルフィーの視界は既に濁りながらも、
そのパイを見つめ、そして
パイを手に取って口に入れた。
それを見てバスカーとミレは二人向き合って話を始めた。
「上手に焼くじゃないか、なあバスカー」
「ああ、中々のものだ」
「かぼちゃのパイも焼いてくれないかねぇ」
「かぼちゃは煮物かスープだろ、パイはちょっとな」
「これだから味オンチは話が通じないってんだよ」
「お前は酒の味のわからん酒オンチだろうが」
「苦酒のんで満足する馬鹿舌じゃないだけさ」
「苦いのが良いんだろうが!」
テンゼルフィーにはパイの味はわからなかったが、
きっと、とても美味しかったのだろうと思った。
(ああ、里がある限り思い出は私が連れていこう)
(フーヴェルも)
(喧嘩してる二人も)




