H-8 ヨーク 情報収集の指示と女の笑顔
やたらうるさくて目が覚めた。
俺は酒場の壁に寄り掛かって、そのまま寝ちまったらしい。
まぁ、覚えてねぇが。
とりあえず手も足も動くし、
股間を確認したらナニもついてたから騎士に報復されたとかは無さそうだ。
頭はいてぇし、壁に押し付けられてた首もビキビキ痛みやがる。
俺は酒場を出て井戸まで行って顔を洗った。
もちろん警戒しながらだ。
魔物どころか動物の気配もねぇ、鳴き声がねぇんだ。
朝だぜ?
違和感ありすぎて気持ちわりぃ。
犬なり鶏なら野鳥なり、普通はいるもんだろ。
俺は酒場に戻って、椅子に座って朝食を食ってた奴に声を掛けた。
そいつは収穫時期を過ぎた丸ナスみたいな奴だ。
丸顔で少し腹の出てる黒髪の短髪刈り上げの男、
「食ってる途中に悪いな、飯の後でいいんだが、
昨日ぶっ飛ばした騎士から話を聞いといてくれ。
俺が行くとまたぶん殴りそうだ」
そいつは食いかけのパンを齧ったまま、
パンくず飛ばしながらこたえた
「わかった、どこにいるかわかんねぇから
何人かで探して聞いとくよ」
「じゃあ頼む、よく聞いとけよ
特徴とか数とか出てきそうな時間とか
出来るだけ詳しく頼むぜ?」
そいつ丸ナスみたいな顔でこっちを見ながら表情が固まってた。
こりゃダメだ、だがまあこいつが悪いわけじゃねぇ。
俺は酒場を見回して、グリグリ女を見つけた。
グリグリはカウンターでスープを飲みながらマスターと喋ってた。
「おいグリグリ、ちょっとこっち来い」
声を掛けたが振り向きゃしねぇ、俺は舌打ちしながらそいつの隣まで歩いて行って
そいつの肩を引っ張った
「おい、無視すんじゃねぇよ」
そいつは頭をこっちに向け、俺を睨みながら言った
「気安く触んないでくれる?」
俺は手を離してやった
「わりぃがあの丸ナスたちと一緒にクソ騎士から
魔物の情報聞き出してくれ、
あいつじゃちょっと頭が足りてねぇ
おまえ生まれが良さそうだし、
読み書きとか出来んだろ?」
「まぁ、出来るけど。
あんたはどうすんの?
私にだけ働かせる気?」
睨んできたぜ、おい?
「俺はちょっと探りに村の奥を見てくるつもりだ、
じゃあ頼んたぞ?」
俺が踵を返したところで腕を掴まれた、
「私も行く」
そいつはなんかスッゲェ面白いもん見つけたような顔で言ってきた、
俺はもちろん却下するぜ?
「馬鹿言ってんじゃねぇ
クソ騎士から話聞いてこいって言ってんだろ」
グリグリは腕に力を込めて捻り上げて腕をキメやがった。
「グぁ、お前なぁ」
クソ女はさらに捻ってきやがった、
しかも笑顔満開でだ・・・俺はもちろん男らしく言ってやったさ。
「レディ、大変危ないので俺ひとりで行きたいと思うんだけど
お願いだから手を離して貰える?」
「ダメよ、私も行く」
クソ女は顔をマスターの方に向けた。
「マスター、レチカちゃん借りていい?
騎士さんから話聞いて欲しいんだけど、
ハンターって馬鹿ばかりだから
どうかな?」
マスターは頷いた。
近くで話を聞いてたらしく、
給仕の女はグリグリのとこに来て話を聞いてる。
俺は声を出した
「そろそろ離せ、憧れの先輩と一緒にいたいのはわかるが。
生憎俺みたいな高ランクハンターは色々忙しンだよ」
クソ女は給仕の子に向かって説明しながら俺の腕を更に捻った。
「ダァ、グガ。テメェほんとにやめろ?
スジ逝っちまうぞ?」
クソ女はこっちに顔向けてから、
まあ咲くような笑顔で言ったよ、
「一緒に行く、良いよね?」
笑顔なんてのは一瞬で消えて、凍るような目と声で女は続けた
「一緒に行って良いよね?」
俺に選択肢なんかなかったぜ?
「わかった、いい」
クソ女は手を離して「最初からそう言いなさいよ」とか言いやがった。
俺はスジ痛めてないか、マジで心配だったからさすりながら酒場を出て行こうとした。
突然目の前のドアにナイフが刺さったから立ち止まったがな・・・
振り返ると、クソ女は給仕の女に手を振ってからゆっくり俺の前まで歩いてきて、
クッソ寒い声で言った
「置いていくつもりだった?」
ゾッとしたぜ?
刺されると確信して一歩下がったくらいだ。
ドアがあって逃げ場はねぇんだがよ。
「外、で待つ、つもりだったぜ?」
女は表情を変えずに「そう、安心した」と言って
俺の耳元に顔を近づけた
「私の目は役に立つはず」
言い終わってそいつはドアを開けて外に出た。
俺はその場に立ちながら
まぁ、そうかもな、とも思った。
正直あいつにはあまりお近づきになりたくねぇが。
俺は外に出ると身振り手振りでクソ女と行く方向を相談した。
むかし、
女は守るものとか言ってた先輩がいたが、
ありゃ馬鹿だ。
クソ女はクソだぜ。
笑顔が可愛いとも言ってたな・・・
女の笑顔は脅迫と強要と誘導で出来てる、
先輩がチョロすぎなんだよ、ったく。




