E-7 カスタジェが祈る夜、長老の家で
カスタジェが祈りを始めるのを見届けてから、
フーヴェルは一度自宅に戻り、夜になるとお裾分けに用意した栗を混ぜ込んだパイを包んで
長老の家に向かった。
坂道を登るとすぐ長老の家に着いた。
見下ろすと里はすっかり秋も終わりが近いのだとわかる。
フーヴェルはドアを3回ノックした。
「空いているぞ」
中からバスカーの声がしたので、フーヴェルはドアから入った。
一礼して顔を上げるとバスカー、ミレ、テンゼルフィーの3人が一堂フーヴェルを見ていた。
「そこに座ってくれ」
バスカーの促すままにフーヴェルは腰を下ろすと
テーブルにパイを置いた。
「こちらは私が拾った山栗を使ったパイです。
宜しければ召し上がって下さい」
少し腰を上げてそのパイをバスカーの方に押しやってから、また座った。
バスカーが口を開いた。
「今日来てもらったのはカスタジェの件でだ、
ここに来ることはカスタジェには?」
「テンゼルフィーから内密にと聞いたので伝えていません」
横のテンゼルフィーは机を見つめたまま動かなかった。
「森の穢れが増しているのは知っているな?」
ミレが切り出した。
「はい、カスタジェ様はフォルランの加護が薄れていると、
それに魔物も増えていると聞いています。」
ミレは頷いた後に続けた
「守衛隊も5人になった、これ以上魔物が増えても無理も掛けられん。
そこで、あなたにはカスタジェと祈りの時間をずらして
穢れ払いと"引き受け"をしてもらいたい」
バスカーは頷き、テンゼルフィーは動かなかった。
「穢れ払いは知っていますが、"引き受け"とは何です?」
フーヴェルの言葉にミレは驚き、バスカーは下を向いた。
「カスタジェは教えていないのか?」
「教わっているかもわからないのです。
"引き受け"とは何のことです?」
フーヴェルには思いあたることがあった。
「教えて下さい、カスタジェ様は何をしているのです!
引き受けとは何です!」
3人はこたえなかった。
フーヴェルは声を落として続けた
「それはカスタジェ様の右腕が黒くなったことに関係がありますか?」
フーヴェルは3人を順番に見た。
「ある」
バスカーが答え、フーヴェルを見つめた。
「カスタジェは森の瘴気を払い、払い切れない瘴気を引き受けている。
ここ最近急に瘴気が増したことで、引き受けたカスタジェは
体内の瘴気の浄化が間に合わず、肉体を蝕んでいる」
フーヴェルは下を向いた。
(森で蛇に噛まれてなった?)
(歳だから治りが遅い?)
(カスタジェ様が言っていたのは嘘?)
(・・・・・・)
(違う、カスタジェ様は黒くなった腕を私に見せて誘導したのね)
(わざわざ黒く瘴気の出てる腕に蛇に噛ませた・・・)
(でも、何故?)
(私は次の祈りの守人なのに・・・)
「カスタジェは」
ミレの言葉でフーヴェルは頭を上げてミレの顔を見た
「このままだと1年も経たずに枯れるだろう
穢れ払いの力も弱まっている」
その言葉はフーヴェルの鼓動は急激に早めた。
苦しさを覚えてフーヴェルは下を向いた。
「だから、手伝ってくれないか、里のために」
そう言ってミレは頭を下げた。
バスカーも
テンゼルフィーは何かに苦しそうな顔でテーブルを見つめていた。
「わかりました、私に出来ることであれば。
教えられていないかもしれないから、
カスタジェ様の祈りを聞いて盗みます。
だから、すぐには難しいかもしれません、
今日明日とカスタジェ様の祈りを聞いておいて、
明後日に祈ってみます」
ミレとバスカーはお互いの顔を見合わせて、双方頷いた。
バスカーからは「宜しく頼む」と言われ、
ミレは「パイはみんなで頂くよ」と言っていた。
テンゼルフィーはずっと動かずにテーブルだけを見ていた。
長老の家を出たフーヴェルはカスタジェの祈る声がよく聞こえる社の裏に潜んだ。
フーヴェルは目を閉じて、しゃがれた声で語られる祈りの言葉を聞いていた。
夜が明けて朝になり、また夜が来るまでずっと。
夜になり、カスタジェが立ち上がる音が聞こえてから
フーヴェルは動き出した。
音もなく裏の道を駆け上り、段差を飛び越えてカスタジェの家に向かい、
グシャグシャに整頓された書物置き場の椅子で片手で本を開いて目を閉じて、
やるべきことを心の内で整理した。
(カスタジェ様は枯れさせない)
(悟られてはダメ、カスタジェ様が無理をする)
(だから)
(私が全部引き受ける)
椅子に座ったフーヴェルの
耳に掛かった銀色の髪がするりと顔前に垂れた。
誤記を修正(内容変更ありません)




