N-6 クープランとアルテタ 王子の駒
ゼマンは暫く眉間をつついていたが、
立ち上がって机のティーカップを手に取り、
ゆっくりと紅茶を口に含んで、柔らかいが幸薄そうな顔に戻った。
それからゼマンはドアに向かい、ドア手前で室内を振り返り
アルテタに声を掛けた
「イグノさん、そろそろ」
アルテタは王子を見たが、
王子は柔らかい微笑を浮かべて頷いただけだった。
アルテタは立ち上がり、ゼマンに向かって口を開く
「ゼマン殿、お先にどうぞ、
私もすぐに参ります」
ゼマンは頷きか、或いは一礼か、
背を曲げる仕草をしながら
踵でゆっくりターンをして、ドアから出て行った。
アルテタは王子に声を抑えて詰め寄った
「王子、これが本当に安全なのですか?
私には危機としか思えません!」
王子の顔がアルテタに向いた。
金色の髪をした端正な顔がアルテタを見つめる
「先代王の時代は情報収集や斥候、盗みや仇討ちなんかを
仕事にしてた荒くれ者の義賊ギルドだったらしいけど、
今のアサシンギルドはなんでも有りだ」
王子は続けて言う
「このまま放置する方が危険だ、
手は打った、備えもある、保険も掛けた」
アルテタは王子を見つめながら言った
「危険と感じれば王子を連れて逃げます、
宜しいですね」
王子は少し嬉しそうに
「ああ、それが役目だしね」
とアルテタに言った。
「でも」
王子の目に光が宿った
「それは絶命の危機の場合だ。
殴る蹴る程度はダメだ、わかるよね?」
アルテタはもう、気が遠くなりそうだったが、
目を瞑り、王子に強く問い質す
「王子自身が一番危険な役をする理由があるのですか?」
王子はため息を吐きながら答える
「この街の人間は顔が割れてるから使えない、
弱そうで育ちが良さそうな人間、
その上信用できる人で”貴族以外”、
現状だと他の町の人間は使えない、
つまり、いないんだ」
「貴族がいると?」
「そう見てる」
王子は少し笑って口をひらく
「そろそろ行った方がいいよ?」
アルテタは諦めて立ち上がった。
そしてクープランに向かい一礼した。
「王子、ご武運を」
王子は笑って
「ははっ、武運が似合うと思う?」
と答えた。
アルテタも少し笑って、王子に一礼した。
そして振り返らずにドアから出て行った。
残されたクープランはドアを見つめていた。
そのドアはぐにゃりと曲がってチェスの盤になった。
クープランは呟く
「盤上の駒は少ない、でも動く・・・」
「白のキング・・・」
「どこの貴族だ・・・」
「他国の貴族だったら戦争になる・・・」




