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エルブの森  作者: 秋乃 志摩
予兆
19/65

E-5 フーヴェル 月夜を歩く


フーヴェルはカスタジェが長老会に向かった後、

ぽつりぽつり家々の明かりが灯る夜の里を歩いていた。


里を流れる小さな小川の流れる先に向かってゆっくりと歩いていくと

いくつかの小さな光がフーヴェルの周囲にふわりふわり浮かぶ。

月の明るい夜には精霊が集まりやすい。


カスタジェ様は「精霊も月見がしたいんじゃよ」と教えてくれた。

私の足の長さに合わせて歩いてくれていたカスタジェ様に

いつからか私の方が合わせるようになった。

なんとなくそうなって、そうしていることが当たり前で

月のある夜の時間は幸せだった。


右腕が黒くなり始めてからのカスタジェ様は夜の散歩に来てくれない。

夜の散歩はひとりになった。


いまも精霊たちはカスタジェ様が一緒の時よりもずっと少ない。

カスタジェ様は精霊に語りかけたり、お酒に誘ったりしてたけど

私には精霊の声は聞こえなかった。


カスタジェ様に聞いてみたら

「声なぞ聴こえんぞ? 雰囲気じゃ雰囲気

 隣人なんじゃから仲良くしておいて損はなかろ、

 そのへんは動物も似たようなものじゃ

 言葉はわからなくとも、なんとなーくわかるじゃろ?」

って言っていた。


あの時の私は絶対お酒のせいだと思ってたけど、

今は少しわかる。


言葉が通じなくても隣人。

段々と気持ちみたいなものが分かってくる。


「あなた達もそうなの?」

フーヴェルが問いかけても光は

歩くフーヴェルの横にただ浮かんで流れた。


「”そう””と”そうじゃない”が分からないよね、

 ”肯定”と”否定”を先に伝えないといけないのかな」


フーヴェルはあの時のカスタジェの問いかけを記憶から引き出す。


カスタジェ様が話しかけてたのは確か・・・

”見事な月じゃの”

"一緒に飲まんか"

"疲れたのう"

"腰揉んでくれ"

"つまみが欲しい"

”儂ここで寝る”


半分寝てるカスタジェ様を引っ張りながら帰ったのは

それはもう大変だった。

家についてから腹いせに

ゴワゴワのおひげをぎゅうぎゅうに三つ編みしたくらい。

カスタジェ様は朝起きておひげを痛そうに解きながら

「こんなに固く結んだら毛根がこのかたち記憶しちゃうよ」

って言ってたっけ。


フーヴェルは思い出して頬が緩んだ

精霊たちは呼応するかのように強く2回光った。


フーヴェルは笑って問いかける

「あなたたちも楽しい?」

また2回

「月がとても綺麗ね」

また2回

「カスタジェ様はいないの、私でもいい?」

また2回


笑顔を月に見せながらフーヴェルは走り出す、泉はもう近い。

光たちはフーヴェルに並走し、追い抜き、先行する。


泉まで走り切って腰を下ろし、フーヴェルは上宙の月を眺めた。

「本当に綺麗な月」

そう呟くと、また精霊は2回光って漂った。



里を一望出来る長老の家、その背後にある更に高い高台の木陰に男がひとり立っていた。

その男は気が小さかったが、

それゆえに遠目が効き、音に鋭かった。


「今夜だけは見つけたくなかったよ、フーヴェル」

そう呟いて、テンゼルフィーは風のように高台から姿を消した。

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