N-4 騎士アルテタと王子
騎士アルテタは四つん這いに狭い道を進み、
光の見える穴から身を乗り出し、呻きながらゆっくりと這い出した。
「せいっおお」
そのまま床に膝をつき息を整えた。
「まだ動ける?」
クープランが身を乗り出しながらアルテタの顔色を窺っている。
「はい、問題ありません」
アルテタはそう言って息を整えながら立ち上がり、室内を観察して声に出す。
石造りの地下室だった。光が上の階から僅かに差し込んでいる
「ここは、まだ城内ですか?」
王子は
「いや、ここは外だよ
えっと、
ここから先、余計なことは喋らないで。
でも気づいたことがあれば言って欲しいかな」
「じゃあ行こう」
王子はドアを向いたが、困った顔で
首だけをアルテタに向けて
「あ、それ、閉めてね」
と言ってアルテタの足元の出てきた出口を顎で示した。
アルテタは無言で頷いてから、
中腰になって石戸を持ち上げ、縦穴を閉じた。
アルテタが振り返ると王子はもうそこにはおらず、
開け放たれたドアが見えた。
アルテタは開いていたドアから出ると、そこは通路になっていて、
通路の前方に王子が歩く姿が見え、その先に階段が見えた。
アルテタは早足で王子を追った。
王子の後について階段を登ると人工的な部屋に出た。
薄暗い中から出たアルテタに室内はしばらくぼやけていたが、
やがてそれも静まった。
光が差し込む窓からは木が見える。
室内は整頓されており、書棚とその手前に机が設置されていて、
書棚の下部は引き戸になっており、中部より上方には本が収められていた。
「ここで少し待とう」
王子はそう言って窓枠に手を掛けて、外の景色を眺め始めた。
アルテタも窓に近づき、王子の隣で外を眺めた。
窓から見える庭は、快晴で光も眩しい。
白い洗濯物が風に少し揺れていた。
アルテタが王子の方を見ると
王子は目を閉じ、気持ちよさそうに太陽の光を顔に浴びている。
アルテタは視線を窓の外に戻しながら、
平穏そのものとしか思えない景色を眺めた。
やがて背後からドアが軋む音が聞こえ、
振り返ると細身で幸薄そうな顔をした薄毛の若者が現れた。
神官服を着たその男はこちらは見て、手を胸の前で組み合わせ一礼しながら、
「お待ちしておりました。」
と言い、そして顔を上げた。
王子は窓の外を見たままで、手をひらひらと振った。
神父は机の椅子まで歩いて行き、そこに掛け、
「ああ、失礼、お茶でも淹れさせましょう」
神父はそういうと鈴を鳴らし、書物を眺め始めた。
王子は変わらず外を眺めている。
少しして軽く小走りな足音が聞こえ、
ドアがノックされ、ドア外から声が掛けられた。
「ゼマン様、お呼びでしょうか?」
ゼマンと呼ばれた薄毛の男は書物から目をドアに移してから、
「来客です、お茶を3人分お願いします」
と言うと、ドア越しに
「承知いたしました」
と言う声が聞こえ、室内はまた静寂した。
アルテタは窓の外を眺めた。
窓一枚隔てたその平穏な風景は、
アルテタにはとても遠くに感じられた。