表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルブの森  作者: 秋乃 志摩
予兆
16/65

N-4 騎士アルテタと王子


騎士アルテタは四つん這いに狭い道を進み、

光の見える穴から身を乗り出し、呻きながらゆっくりと這い出した。

「せいっおお」

そのまま床に膝をつき息を整えた。


「まだ動ける?」

クープランが身を乗り出しながらアルテタの顔色を窺っている。


「はい、問題ありません」

アルテタはそう言って息を整えながら立ち上がり、室内を観察して声に出す。

石造りの地下室だった。光が上の階から僅かに差し込んでいる


「ここは、まだ城内ですか?」


王子は

「いや、ここは外だよ

 えっと、

 ここから先、余計なことは喋らないで。

 でも気づいたことがあれば言って欲しいかな」

 

「じゃあ行こう」


王子はドアを向いたが、困った顔で

首だけをアルテタに向けて

「あ、それ、閉めてね」

と言ってアルテタの足元の出てきた出口を顎で示した。


アルテタは無言で頷いてから、

中腰になって石戸を持ち上げ、縦穴を閉じた。


アルテタが振り返ると王子はもうそこにはおらず、

開け放たれたドアが見えた。

アルテタは開いていたドアから出ると、そこは通路になっていて、

通路の前方に王子が歩く姿が見え、その先に階段が見えた。


アルテタは早足で王子を追った。


王子の後について階段を登ると人工的な部屋に出た。

薄暗い中から出たアルテタに室内はしばらくぼやけていたが、

やがてそれも静まった。

光が差し込む窓からは木が見える。

室内は整頓されており、書棚とその手前に机が設置されていて、

書棚の下部は引き戸になっており、中部より上方には本が収められていた。


「ここで少し待とう」

王子はそう言って窓枠に手を掛けて、外の景色を眺め始めた。


アルテタも窓に近づき、王子の隣で外を眺めた。

窓から見える庭は、快晴で光も眩しい。

白い洗濯物が風に少し揺れていた。


アルテタが王子の方を見ると

王子は目を閉じ、気持ちよさそうに太陽の光を顔に浴びている。


アルテタは視線を窓の外に戻しながら、

平穏そのものとしか思えない景色を眺めた。


やがて背後からドアが軋む音が聞こえ、

振り返ると細身で幸薄そうな顔をした薄毛の若者が現れた。


神官服を着たその男はこちらは見て、手を胸の前で組み合わせ一礼しながら、

「お待ちしておりました。」

と言い、そして顔を上げた。

王子は窓の外を見たままで、手をひらひらと振った。

神父は机の椅子まで歩いて行き、そこに掛け、


「ああ、失礼、お茶でも淹れさせましょう」

神父はそういうと鈴を鳴らし、書物を眺め始めた。

王子は変わらず外を眺めている。


少しして軽く小走りな足音が聞こえ、

ドアがノックされ、ドア外から声が掛けられた。

「ゼマン様、お呼びでしょうか?」


ゼマンと呼ばれた薄毛の男は書物から目をドアに移してから、

「来客です、お茶を3人分お願いします」

と言うと、ドア越しに

「承知いたしました」

と言う声が聞こえ、室内はまた静寂した。


アルテタは窓の外を眺めた。

窓一枚隔てたその平穏な風景は、

アルテタにはとても遠くに感じられた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ