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エルブの森  作者: 秋乃 志摩
予兆
15/65

E-4 長老会


防寒のため、毛皮のコートを羽織ったカスタジェが棲家のドアを開け、外に出た。

少し寒い。

宙を見上げると、青い月が大きく鎮座していた。

今宵は最高の月見酒日和だと、カスタジェはひとり頷いた。

今日は長老会がある。


下草を踏む音をさせながら、歩き出して4歩、

木の裏で、木にもたれて座り込んだフーヴェルに気がついた。

フーヴェルは足元と足上にいる2匹のリスに木の実を砕いて与えていた。

フーヴェルの白く長い指がリスの背をそっと上下する。

リスは鼻と顔を動かしながら、両手で欠片をひとつクチの中に押し込んだ。


カスタジェは空を見上げ、青い月を見上げた。

そのまま、ただ暫く見上げていたが、

カスタジェは向き直り、歩みを戻した。


カスタジェの足音が聞こえなくなってから

フーヴェルはクチいっぱいに膨らんだリスに向かって呟いた


”いってらっしゃい” 


撫でられていたリスが高速で口を動かしながら、

僅か、フーヴェルの顔を向き、口の動きを停止した。

リスは1秒も満たずに前に向き直り、

両掌で掴んだ欠片を見つめがら、また口を動かした。


そのようないつもの時間が流れていく

やがて膝上にいたリスはフーヴェルの腿から飛び降りて

高く茂る草むらまで残り半分のところで立ち止まり、振り返った。

フーヴェルが足元を見ると、もう一匹のリスが木の実を拾い上げて

両掌で木の実を回転させながら検分している。

フーヴェルはそっとリスを抱き上げて腿の上に載せ、

左手でそっとリスを押さえながら、残った剥かれた木の実を

いくつかリスの口に押し込んだ。


フーヴェルは

"もうお行きなさい"

と言ってリスの背を2回優しく叩くとリスは動き出し、

もう一匹とフーヴェルの中間まで進んでから、こちらを振り返った。


3秒ほど静止の後、前方のリスが駆け出し、森に消え、もう一匹がそれに続いた。


フーヴェルは二匹が消えるまで見つめてから、呟いた。

”さようなら”


フーヴェルは手を払い、衣服を払いながら立ち上がり、

大きな伸びをしてから、月夜の里を歩き出した。



里の長老の家にはカスタジェを含め、4人のエルフが円座していた。

カスタジェの向かって正面にいるのが長老のバスカーで、

白髪の短髪男で、他部族との親交が深い。

右隣は守衛隊のテンゼルフィー、

細身の金髪の男で、撹乱と囲い込みはエルフ随一だが気が小さい。

左隣が副長老のミレ、

手先が器用で知恵も回るよく笑う金髪の女性だ


カスタジェは酒をちびちびと舐めながら聞き手に回っていた。


バスカーが口を開く

「魔物が増えている件は変わらずか?」

テンゼルフィーが苦しそうに答える

「先月は2体でしたが、今月は既に5体です。

 熊型が2匹、狼型が2匹、猪型が1匹。

 先々月まで皆無だったことを考えると異常です、

 元々7人しかいない守衛隊は既に5人になってしまい、

 これ以上犠牲が増えると討伐自体が出来なく・・・

 怪我のない隊員などおらず、助け合って何とかやっているのです」


震えるテンゼルフィーを見ながら皆、口をつぐむ。


バスカーはカスタジェに向き直り言う

「カスタジェはどう思う?」

盃を口に寄せていたカスタジェは盃を残念そうに机に戻してから答えた。

「そう言うことで間違いなかろう、祈りの度に広がっとるしの、ほれ」

そう言って着衣の襟を肩下まで下げた。


3人が沈黙する中、カスタジェが口を開く

「耐えるほかあるまい、ランティアが戻るまではの」


ミレが苦しそうに答える

「しかしあの子からは何の連絡もないまま、もうすぐふたつきになる。

 あの子に何かあってみろ、手遅れだ!

 誰ぞ大樹に送ってランティアを呼び戻してはどうか?」


カスタジェは異論を唱える

「誰が行くというのじゃ、

 戦えぬ者が途中に遭遇すれば死ぬぞ。

 かといって守衛隊から割くこともできん」


テーブルを沈黙が覆った。


それを破るようにバスカーが口を開く

「守衛隊からふたり出せ、その穴は私が埋める」


テンゼルフィーは震えながら言う

「どうしようっていうんです?

 まさか長老が戦うなんて言わないですよね?」

「私が戦う」


テンゼルフィーは震えながら涙声で叫ぶ

「私たちが必死にやって何とかしてるって、さっき説明しまたよね?

 それをあなたがひとり入ってどうにかなるとでも思っているんですか?

 いつまで若い頃の思い出浸かってるんです?

 あなたもう老人なんですよ」


バスカーは訴えるテンゼルフィーを睨んで言う

「表へ出ろクソガキが、手合わせしてやる」

そう言って外に出て行った。


テンゼルフィーは渋々外に出てきてほうきを掴む

「仕方ありませんね、ちょっとだけです。無理しないで下さいよ」

「ぬかせ、若造が。その首へし折ってくれる」

「はあ、どうぞ」


バスカーが突進して中上段に4連突き、

テンゼルフィーが軽いステップで後退しながらほうきで受け流す。

バスカーはさらに詰めて上段突き、下段突き、下段足払いからの上段回し蹴り

テンゼルフィーは軽快に受けと流したが、最後の上段回し蹴りは予想外に強烈で鋭く、

躱すのがギリギリだった。

思った以上に動ける長老にこれなら隊員ひとりぶんくらいにはなるかと値踏みしていたが、


バスカーは膝に手をついて、肩で息をしていた。


テンゼルフィーは軽い落胆を覚え、諭すように口を開く

「全然ダメですね、邪魔なだけです」


バスカーは悔しさを隠さず訴える

「使えなかったら見捨てろ、私が入る!」


テンゼルフィーは応える

「ダメです、隊員が死にます。

 老人を見捨てるのはエルフじゃないですよ

 知っているでしょう」


バスカーは項垂れそうになりながら

「そうだろうな」

と答えた。



ふたりのやりとりの行く末を見守っていたカスタジェは

終息を確認してから

「今日はお開きじゃの、月見酒はひとりでするわい、ではの」

そう言って杖をつきながら坂道を降りていった。



カスタジェの後ろ姿が小さくなった頃、

ミレが口を開く

「カスタジェの祈りが弱まっているってことはあるか?」


ミレはテンゼルフィーを見る

テンゼルフィーは少し考えてから

「いえ、カスタジェ様の祈りは寧ろ強ま・・・」

言い終わる前にミレがテンゼルフィーの顔の前に手を挙げて制止する。


ミレは目を大きく開いて問いかけた

「言ってたね、祈りの最中と直後は魔物の動きが弱まると」

テンゼルフィーは頷きながら同意する

「ええ、そういうことがありましたから」


ミレは二度頷き、

「カスタジェの祈りが弱まっているなら仕方ない、

 足りない分をフーヴェルに埋めてもらおうじゃないか」

テンゼルフィーは慌てて身を引いて言う

「フーヴェルに"引き受け"をさせるのですか?

 しかし、それは、あまりにも、

 カスタジェ様がどう思われるか・・・」


ミレは語気を強めて言う

「ならどうする?

 この里ごと滅ぶか?」


テンゼルフィーは否定の手を振り、

ぶつぶつ言いながら足踏みしている。


「私はミレを支持する!」


バスカーが立ち上がり、テンゼルフィーに真っ直ぐな目を向ける

「お前はどうだ?

 言え!もっと良い手があるか!?」


気圧されて、沈黙し、思考を重ねた、

数秒の後、テンゼルフィーはやむなしと心に沈めた

「わかりました、支持します」


ミレが首を前に出して言う

「カスタジェには内密にフーヴェルを呼び出せ」


バスカーとテンゼルフィーは頷いた。


青い月は静かに3人を照らしていた。









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