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エルブの森  作者: 秋乃 志摩
予兆
14/65

N-3 騎士アルテタ ナーゲン地下

アルテタとクープラン 脱走編です


騎士アルテタは、歩くたびに靴音が響くナーゲン城の地下一階で

先を歩く王子の後について地下を歩いていた。


ほとんど使われていない、この東区画の地下には

咎人を幽閉する獄が7つと尋問部屋が3つある。


前王ハイネブルグ3世の時代に市民から悪名高かった

このナーゲン地下にまつわる血生臭い逸話はあまりにも多い。


"ある兵が戦死した

 その妹は悲しみ

 兄を返して欲しいと教会で神父に祈った

 その翌日、妹は城に連行された


 それから3日後、娘は解放された


 解放されたその娘には

 足の腱、膝の腱、手の腱が無く

 目が無く、舌も無かった


 父は嘆き、母は倒れた

 その翌日、父は娘を殺し、墓守と共に遺体を埋めた

 その翌日、父は娘殺しの罪で斬首された

 その翌日、母は首を吊った"


アルテタは首を振り、先を歩く王子の後ろ姿を見る。


現王はこの獄を忌避し、

戴冠後、一度も使用していない、


”では王子は?“


アルテタはまた首を振る。

私は王子の剣で、王子の盾だ。

強い道具だからこそ、お側にお仕えしている。

道具が何を考えるというのか。


前を歩く王子は、尋問部屋のうち、ひとつのドアを開け、

『ここだ』

そう言って王子はこちらを見ず、尋問部屋の中に入っていった。


アルテタは後に続く


尋問部屋の中央に、スリコギのようにデコボコな

大きな一枚岩で出来た机がある。

台そのものが拷問道具のようだ。


王子はその机に向かって進み、机の上に腰掛けたかと思うと

その机の上に仰向けに寝そべり、腹の上で手を組んで

目を閉じた。


アルテタは声を掛けるべきか迷ったが、

静かに直立し、腕を後ろに組んでそのまま見守った。


「ここ、よく来るんだ」

王子は仰向けに目を閉じたまま口を開いた。


「ここ、誰も来ないし、

 静かだし、好きなんだ」


アルテタは直立したまま沈黙する。


王子は続ける

「ここで何があったか知ってる?」


その質問は、アルテタの呼吸を止めた。


数秒の後、呼吸を戻したアルテタが口を開く

「噂だけであれば、存じております」


王子は

「そうか」

とだけ答え、部屋は沈黙した。


直立しながらアルテタは貧民街での立ち回りを考えていた。

私が囮になれば斬って殺されると王子は言っておられた、

では王子が誘拐される際に、私がお側にいたらどうなる?

同道するわけではないのか?

遠くでただ見ていろとでも言うのだろうか?



「そろそろ行こうか」

そう言って王子は上半身を起こし、少し痛そうに

背中をさすった。


アルテタは口を開く

「そろそろ段取りを教えて頂けますか?」


王子はまだ背中をさすりながら

「わかってるよ、でも今じゃない」

と答え、背を伸ばした。


スリコギのような机から降りた王子は

壁の隅の方にある棚に歩いて行き、

棚の一番下の段に頭を入れ、何か確認している。


王子は前屈みに棚に頭を突っ込んだまま

「よし、こっちきて」

と後ろ手にアルテタを呼んだ。

アルテタも棚の最下段を覗いてみると

棚の後ろ板が跳ね上げ式にカパカパ動いていた。


アルテタは思わず呟く

「狭そうに見えますが、私でも通れるのでしょうか?」

王子の動きが一瞬止まったが、

「先行くからついてきてね」

そう言って四つん這いのまま棚板の向こう側へ進んでいく。


アルテタは質問した

「通れなかったらどうしましょうか?」

王子は動きながら答えた

「もちろん、置いてく」

と、


アルテタは慌てて棚板の向こうを覗き込んで確認すると

なんとか通れそうだった。

「問題ありません、通れそうです」

そう答えると王子はこちらを振り返って言う

「ちょっと長いから頑張ってね」

アルテタは棚板の向こうに四つん這いで進んだ。

明かりはなく、ただ黒いだけの空間に衣服の擦れる音だけが聞こえる。

5分ほどそのまま進むと

バタン、という音がしてかなり前方に明かりが差した。

王子が地上に出る様子が見える。

王子はだいぶ先に進んでいたようだ。


王子が頭を逆向きにして覗き込み、こちらを見ながら言った。

「こっちから何にも見えないんだけど、大丈夫〜?」


アルテタは声を上げた

「こちらからはお顔が見えております〜」

王子は「わかった〜、焦んないでいいから〜」

と言い、姿が見えなくなった。


アルテタは四つん這いで光に向かって前進した。








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