第005話 「猫に魔多多美(またたび)」
いつのも様にトレーニングを終えた彼と大輔は、馴染みの「大将の店」で久しぶりに食事をしようと話しながら渋谷の路地裏を歩いていた。
「兄貴~、、、マジで今日は5人ですよ!5人!自分何も手を出せなくて、殴られっぱなしのトレーニングですよ、、、、流石にメンタル逝きますよ~、、、、」大輔は毎回殴られて顔も帰りにはボコボコになっている。
彼は笑いながら言った。
「でも、お前が好き好んで俺について来たんだろう?嫌なら帰ってもいいぞ!」
「いや!分かりましたって兄貴!それは言わないでくださいよ、、、」大きな声で大輔の声が響く。
ふとその瞬間、前方を見ると、数人の不良が一人の女の子に絡んでいる。女の子は怯む様子もなく、不良たちに何かを言い返していた。
「ふざけんな!コノヤロウ!」
彼は彼女を守る為に、その喧嘩の輪に飛び込んだ。「危ない!」
不良が彼女に手を出そうとした瞬間、彼女の鋭いキックが一人の不良の顔面に炸裂し、不良はその場で気絶。しかし、残りの不良たちが一斉に襲いかかる様子を見て、大輔も助けに入ることを決めた。
「おい、大丈夫か?」彼が声をかけながら駆け寄った瞬間、彼女のキックがいきなり彼を襲った。
スドン!鈍い音がなった。即座に彼は左腕で防御する。
「おい!俺は助けようと思って入ったんだけど!」彼は即座に彼女に話した。
「あーわりい!ごめん。つい反射で。でも、なら他のやつをぶん殴ってくれない?」
彼女は彼にそう伝えると、他の不良に襲いかかった。
「わ、わかった!」
とりあえず彼は彼女の加勢をする事にした。
彼と大輔は女の子と協力し、全ての不良を倒した。路地裏には呻き声を上げる不良たちだけが残り、三人は勝利の余韻に浸った。
息を整えながら大輔が笑う。
「いやぁ、兄貴。この子、ただの子じゃないっすね。」
彼は目の前の少女をじっと見た。身長は高くないが、目は鋭く、構えも洗練されている。
格好は、今どきは珍しい黒の特攻服姿で、背中には猫と「魔多多美命」の刺繍が施されていた。
「お前、何者だ?」彼は訪ねた。
少女はポケットから飴を取り出して口に入れ、肩をすくめながら話した。
「何者って、ただの通りすがりだよ。あたしの名前は須藤 朱華音。」
大輔が驚いた表情で彼女を見る。
「須藤 朱華音って、もしかして渋谷で猫と魔多多美呼ばれてる女の子っすか?」
朱華音は得意げに笑った。
「そうみたい。なんか、そう呼ばれる様になったみたいで、あんたたちも強いじゃん。名前教えてよ。」
彼はため息をつきながら答えた。
「俺は…まあ、俺も通りすがりのただのトレーニング好きな格闘家だ。それと、こいつは武島大輔。俺のストーカーみたいなもんだ。」
「兄貴!そりゃないです!」
彼は続けて聞いた。
「で、なんで不良たちに絡まれてたんだ?」
朱華音は少し恥ずかしそうに話した。
「猫を蹴っ飛ばしてるの見て文句言ったら、襲ってきたんだよね。」
大輔が驚いた表情で語った。
「猫?」
朱華音は更に顔を真っ赤にして話した。
「この猫なんだけど、この前からここを通るたびに近寄ってきて、たまにごはんをあげてるんだよね~」
「兄貴みてくださいよ!この猫柄わるっ!笑」大輔は、かなりウケた。
その猫は、体中傷だらけで目は鋭く、いかにもボス猫という風貌であった。
「はい~???文句ある?」朱華音は怒った。
「いやいや!ないってば!」大輔は動揺した。
「やさしいな!」しかし彼は朱華音の行動に素直に感心して笑った。
朱華音は周囲を確認しながら声をひそめた。
「あんたらさ、分かってる?渋谷ってただの街じゃないんだよ。特にこの辺りは、強いやつが集まって力を競い合うストリートバトルをする場所になってるんだよ。しかも最近はもっと強いやつらが出てきてるし、、、、」
「そんな場所に好んで、お前はバトルをしにきてるのか?」彼は朱華音に聞いた。
「うーん、、、なんか、本当に暇つぶし。その暇つぶし最中に百恵(猫)を見つけて、たまに様子を見に来てるだけかな。そしたら今回の騒動になってしまったって事。」
「百恵?えっ?メス猫なのか?」彼は驚いた。
「いやー、、、実は、小さいときはメスだと思ってたんだけど、大きくなったら、、、、自分で確認してみなよ」朱華音は今まで以上に顔を真っ赤にした。
「えぇーーーー!兄貴!この猫には、たまたまがありますよ!マジで気の毒なんですけど!この猫、、、、、」大輔は心から気の毒と思っていた。
「だから、小さい時は無かったんだってば!」朱華音はもう限界だ。
「なるほどな。」と伝えたが、彼は笑いをこらえるので精一杯だった。
一方、大輔が突然話し出す。
「兄貴、この子を仲間にしませんか?そして一緒にトレーニングしません?アリーナの挑戦はチームで3人だし」
彼も同じ事を思っていた。たしかに、あの戦いぶりは彼も興味を引くものがあり、特に素早い動きと重いキックは、防いだ腕も未だにジンジンとしている。
彼は一瞬考えたが、朱華音に向き直って言った。
「いや、チームとかは別にいい。ただ、朱華音、もし興味があるなら一緒に鍛えてみるか?」
朱華音は目を輝かせながら話した。
「面白そう!じゃあ、あんたたちにしばらく付き合ってみるよ!あたいもアリーナ挑戦したいなと実は目指してたんだよね!これは運命かも!百恵のおかげ!百恵は、あたいが連れて帰るよ。」
ということで、3人と猫1匹のチームが結成された。
その後、三人は「大将の店」でビールを片手に話し合い、互いの計画を共有した。朱華音は彼らが目指す「アリーナ」に興味津々だった。
「それと、あたいはまだ18歳なんで、酒は遠慮しとく」朱華音の年が判明。
「おまえ18歳なのか?」大輔は驚いた表情で聞いた。
「18で悪いのかよ?」
「いや!すまない!その年で強いから驚いたんだよ!」大輔は、かなり驚いた。
「アリーナ?それって超強い連中が集まる場所でしょ?あたいも挑戦してみたかったんだよね。」
「じゃあ、一緒に目指すか?」彼が提案すると、
朱華音は即答した。
「もちろん!やるやる!大輔より強いよ!あたい!」
大輔が苦笑しながら付け加える。
「まずは小深山ジムで鍛えてもらいましょう。アリーナなんて、今の俺たちじゃ夢のまた夢っす。」
朱華音は驚いた表情を見せたが、すぐに興奮して笑った。
「小深山真治のジムって、本気じゃん!面白い!あたいも鍛えてもらいたい!」
こうして、彼、大輔、朱華音の三人は、アリーナを目指すために小深山に朱華音のジム入門をお願いして行動を共にすることを決めた。
朱華音は言うまでもなく入門試験は簡単にクリアしたのだった。
また、猫の百恵もジムに出入りできる様になり、特に小深山から可愛がられるのであった。
小深山は顔に似合わず、こそーっと百恵の心を掴む為に、毎日鰹節を与えていたのであった。
翌日から本格的なトレーニングを開始することを誓い合い、三人の新たな挑戦が始まるのだった。
渋谷の路地裏で出会った三人。それぞれの強さと想いを胸に、彼らはさらなる高みを目指し、新たな物語を紡ぎ始める。