第004話 「新たな挑戦」
重厚な鉄の扉が低い音を立てて開き、彼と大輔は小深山真治のジムの中へ足を踏み入れた。
そこはシンプルながらも重厚感のある空間で、鍛錬に集中する格闘家たちの気迫が満ちていた。
奥のトレーニングエリアに目をやると、鋭い目つきで選手たちを指導している年配の男性がいた。全身にオーラを纏い、周囲の空気すら支配しているような存在感を放つその人物こそが、伝説のトレーナー小深山真治だった。
二人が一歩前に進むと、小深山がゆっくりと彼らに視線を向けた。
「なんだ、見慣れない顔だな。ここに何の用だ?」
彼は深く一礼し、正面から小深山に答えた。
「俺たちは強くなりたくこちらのジムへきました。どうか、あなたのジムで鍛えてもらえませんか?」
小深山はじっと二人を見つめ、その表情には厳しさが滲んでいた。
「強くなりたい…か。簡単に言うが、ここはただのジムじゃない。この場所で鍛えられるのは、並みの覚悟を持った者だけだ。」
大輔が焦りながら声を張り上げた。
「俺たち、本気です!何でもやりますから!」
その言葉に、小深山の口元がわずかに動いた。
「何でも、か、、、、。なら見せてもらおう!本当にその覚悟があるのかどうか。」
小深山は手を叩き、トレーニングエリアにいる選手たちに声をかけた。
「おい、今から彼らにジムの入門試験を課す。準備を手伝え。」
同時に選手たちの大きな声が響いた。「押忍!」
すると周囲の格闘家たちが次々と集まり、二人を取り囲んだ。その空気に、大輔が一瞬怯む。
「入門試験は、まず体力試験。続いてスパーリングだ。」
小深山は冷静に説明しながら、視線を二人に向けた。
「それができなければ、このジムに入る資格はない。」
最初の試験は、持久力と筋力を極限まで試す過酷なトレーニングだった。ジム内に設置されたトレーニング器具を使い、二人は限界まで追い込まれる。
彼は冷静にペースを保ちながら課題をこなし、体力を温存しつつ進んでいく。一方で武島は気合を入れすぎ、途中で何度かバランスを崩しそうになった。
「兄貴!思ったよりキツいっす!」大輔が汗を拭きながら叫ぶ。
「いいから集中しろ、大輔。まだ最初の試験だぞ!」彼は冷静な声で武島を叱咤した。
大輔は、かなり限界が来ている様な声で答えた「はい、、、」
「次はスパーリングだ。それぞれ、うちの選手と対戦してもらう。勝つ必要はないが、俺が見るのは闘い方だ。」小深山の言葉に緊張が走る。
彼の相手はジムでも屈指のスピードを誇る選手の事だと小深山の説明を受けた。
一瞬の隙も許さない攻撃に対し、彼は冷静にガードを固め、反撃のタイミングを伺った。そして、相手の隙を見逃さず正確なパンチを決める。
一方、大輔は相手の猛攻に苦しみながらも粘り強く耐え、何度もダウンしたが負けずに立ち上がり
最後には突進力を活かして接近戦に持ち込み反撃を見せた。
小深山はじっと二人の試合を見つめ、
(なんなだ?あのパンチだけで戦うスタイルは?見たこと無い格闘技だな)
やがて静かに告げた。
「とりあえずふたりとも合格だ。今日は帰れ。明日からジムに来い。」
「押忍!」「押忍!」
二人は挨拶をし、とりあえず大輔のアパートで一夜を過ごした。
翌日から小深山ジムを訪れトレーニングが開始した。
数日たったある日、彼は思い切って小深山に相談を持ちかけた。
「小深山さん、実は俺たち目的があってここに来たんです。」
小深山は笑いながら答えた。
「アリーナへの挑戦か?」
彼は正直に答えた。
「はい。アリーナに挑戦したいと思い、あなたの噂を聞いてここにきました。」
小深山は満足げに頷き、説明を始めた。
「だいたい、ここを訪れるやつの目的はアリーナだから見当はついていた。しかしアリーナは単なる試練の場じゃない。この世界中の挑戦者が集まり、トーナメント形式で戦う舞台だ。そして、そのトーナメントには3つのランクがある。」
「一つ目が『アマチュアトーナメント』だ。
ここには初めて挑戦する者や、自分の力を試したい者が集まる。そして、アマチュアで優勝しなければ次の『プロトーナメント』には進めない。」
「しかし、プロトーナメントはアマチュアとは格が違う。ここには実力を証明した者、経験を積んだ者が集まり、激しい戦いが繰り広げられる。そして、このプロトーナメントで優勝しなければ、最終ランクの『マスターズトーナメント』には進めない。」
彼は眉をひそめ聞いた。「マスターズトーナメント…そこにはどんな挑戦者が?」
小深山は少し目を細めた。「マスターズには、各地域のプロトーナメントで優勝を果たした者だけが集まる。いわば、この世界で最強を目指す者たちが死闘を繰り広げる場だ。命を懸けた真剣勝負が当たり前のように行われる。実際、命を落とす者も少なくない。」
「本当に挑む覚悟があるんだな?」
「はい!」「もちろんです!」彼と大輔は大きな声で答えた。
「それとお前はすでに何かスキルを持っているような動きで戦っていたが、あれは何のスキルだ?」小深山は興味津々で彼に聞いた。
「スキルですか??」
「なんだ?スキルも知らないのか?」小深山は少し驚いた。
「まず、自分のスキルパネルを開いて見ろ。ステータスと念じると自分の前にパネルが出てくるはずだ。」
「わかりました!やってみます!」そういうと彼は小深山が言ったようにステータスと念じた。
(ステータス!)
彼の目の前にパネルが表示された。
【能力ステータス】
力量: B
素早さ: B
根性: B
知性: D
技術: D
スタミナ:C
潜在能力: S
獲得スキル
ボクシング: C
○○○○: E
彼は、小深山に自分のステータスを見せた。
小深山は見るなり驚いた。「お、お前は、、、一体何ものだ?まず、ボクシングというスキルは初めてみたぞ!」
彼は少し動揺しながら聞いた。
「ボクシングってこの世界にはないんでしょうか?」
小深山は語った。
「おそらく、ボクシングは特殊スキルだな。普通はアリーナで優勝して特別なスキルが獲得できる。だから挑戦者は、その様なスキルを狙って挑むんだ。おそらく、お前が拳だけで戦うスタイルを見て初めてみたスタイルだと感じたが、そのスキルのせいか、、、なるほど、、、、」
「そして名前が表示されていないスキルがあるだろう?」
「この○○○○: E というやつですか?」彼は語った。
小深山は更に語った。「そうだ!それは、お前が生まれた時から持っているスキルだ。いつ発動するのか誰にも分からない。とにかくトレーニングや経験を積むと、いきなり発動する。」
「なるほど、、、、」彼は更に考えた。
(そういえば転生した際に現れた、あのじいさんが「お前は私の力を特別な力を宿している。新たな冒険で己の限界に挑戦し、真の強さを見出すのだ。そして、自分の存在意義を見つけ出せよ。私はお前の成長を見守っている」と言っていた事に関係しているのか?、、、、またボクシングがこの世界に無かったのも驚いたな、、、、)
大輔も生まれながらのスキルがあるようだ。
「兄貴!俺は鉄壁というスキルがあります!Fランクですが、、、」
小深山は笑いながら語った。
「おぉー!既に発動していたのか?お前は鉄壁を持っているのか?そのスキルは鍛えると、どんなスキルでも軽減できるやつだ。このジムの門下生にも以前いたぞ!いいスキルだ!特にチーム戦などは、最前線に出て敵の攻撃を引き付ける役割だな!」
「おぉーーー!マジすか!小深山さん!俺がんばります!どうしたらレベルあがりますか?」大輔は舞い上がった。
「うむ。とにかく相手から攻撃を何度も受けて我慢するトレーニングだな!明日からスキルレベルを上げる特訓だな。」
「ひえぇーーーーーー!」大輔の悲鳴が響く。
小深山は満足げに微笑んだ。
「よし。お前たちに明日から特別メニューを用意してやる。まずはアリーナのトーナメントに耐えうる身体と技術を叩き込む。」
「あと、アリーナに挑戦するには3人が必要だ。お前たちが挑戦できるレベルになったら、うちの門下生の中からも紹介は可能だ!」
彼と大輔は、小深山真治の指導のもと、さらに過酷なトレーニングを開始した。
アマチュアトーナメントでの優勝を目指し、日々の鍛錬に全力を注ぐ二人。
渋谷のアリーナを目指し、そのトーナメントの階段を一歩ずつ登っていく。
新たな挑戦が、いよいよ本格的に始まろうとしていた。
ちなみに、大輔のトレーニングは、とにかく殴られて、殴られて我慢するだけのトレーニングで、我慢できると殴ってくる人数が毎回増えていくのであった。
「ひえぇーーーーーー!」