第032話「開幕の気配、忍び寄る影」
いよいよトーナメント当日の朝、
空は晴れわたり、まるで彼らの門出を祝福するかのような光が道場に差し込んでいた。
朱華音、エンジェル、大輔、そして彼の4人は、身支度を整え、小深山道場に集まっていた。道場にはすでにイーサンの姿があり、穏やかな表情で彼らを迎えた。
「おう、みんな良い顔してるな。虎の穴で何があったか、顔に書いてあるぜ」
そこに遅れて、グレゴリーも現れた。いつも通りの陽気な笑顔だが、その目はどこか鋭く光っていた。
「ご存知かもしれませんが……今回の大会、少々物騒な動きがあるようでしてね」
そう言うと、彼はエンジェルに目を向けて静かに語りかける。
「あなたがエンジェルさんでしたか。……お噂はかねがね。ですが今は、あなたも“こちら側”の人間。安心してください。私たちも全力で支えます」
その言葉に、エンジェルは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに微笑みを返した。
「あなたがグレゴリーさん?業界では裏の商人として、、、有名、、、な」
「おっと!話はほどほどに!」グレゴリーが話を遮った。
「ごめんさい……そして、ありがとう。今さら逃げるつもりなんてないわ」
グレゴリーはポケットから4本のボトルを取り出し、皆に手渡す。
「試合前に飲むと、集中力と体力が増す……特製ドリンクです。もちろん、ドーピングには引っかかりませんからご安心を!……中身は秘密ですが♪」
冗談めかして笑うグレゴリーに、場の空気が少し和らぐ。4人は素直にボトルを受け取り、口をつけた。その瞬間、身体の中に力が満ちる感覚が走る。
「……なんか、体が軽くなった気がするな」
「これ、すごいね」
「悪くない……」
それぞれがドリンクの効果を実感しながら、小深山の声が響いた。
「油断するな。敵は正面からだけとは限らん。……特にお前だ、エンジェル」
小深山は厳しい目でエンジェルを見据える。
「今日のお前たちは、道場の名を背負って立つ。それを誇れ。そして、勝て」
4人は力強くうなずき、道場を後にした。
そしてアリーナに
到着した大会会場は、すでに熱気に包まれていた。観客の歓声が外にまで響いている。
選手専用の控室に入ると、空気が一変する。異様な緊張感と、殺気に満ちた空間。その一角には、黒ずくめの格闘家たちが沈黙を守りながら佇んでいた。全員が仮面やサングラスで素顔を隠し、不気味な統一感を放っている。
彼はふと立ち止まり、その方向を睨んだ。
「……あいつら、ただ者じゃない。気を抜くな。あいつら、何かを狙ってる」
その言葉に全員がうなずき、自然と背筋を正した。
そしてそのころ――
裏の控室では、謎の男が低く指示を出していた。
「トーナメント中に事故に見せかけて……エンジェルだけは必ず殺せ。失敗は許されん」
その冷酷な命令に、黒装束の戦士たちが無言で頷いた。
開幕を控え、血の匂いが漂い始めたトーナメント会場。
静かに、だが確実に、嵐は迫っていた。




