18. 世界を作る 十二
「あ! 私のきらきら石。取り返してくれたんだ。平助、ありがとう」
このきらきら石は、淡い紫色で、にいなのお気に入りのものでした。夏のおわりにはもう手元からは消えてしまったもので、にいなはこの石をずっと探していました。とびきり小さいものだったので、もしかしたらポケットから飛び出してしまったのかもしれないと、にいなは部屋中をひっくり返してママに叱られた思い出のある石です。
「そんな……あっしが取っちまったのが悪いんで」
「でも平助、カラスの女王様に怒られない? あのカラス、すごく意地悪そうだったよ」
みいなはカラスの女王様のことを思い出しながら、鼻にシワを寄せました。
「あっしが叱られるのは、仕方のねえことでございやす。あのとき、あっしがちゃんとに断らなかったからいけねえんだ。お叱りは受けるし、それにあっしは……にいなさんとみいなさんが女王様の巣に落ちてきたとき、もう年貢の納め時だって思ったんでございやすよ。もうあの巣には戻らないって、心のどっかで決めてたに違いねえ。お守りがわりに今まで持たせてもらってたけど、あっし、もう十分勇気をもらった。遅くなっちまったが、こいつはお返しするでございやす」
「そんな! そしたら平助、お友だちがいなくなっちゃうよ」
「いいんです。もっと前からこうすればよかったんだ。あっしは一人になるのが怖くて、いけないことと知りつつ、何度も盗みを繰り返しちまった。でもあっしは、お二人とふっくんさんに出会って、心を入れ替えたんです。あっし、今からでもまっとうなカラスとして、生きていこうと思ってるんでございやすよ」
「平助……」
「さ、あっしのことは置いといて、そのきらきら石で世界を完成させようじゃあないですか」
三人はとびきり小さなビーカーに入った透明な液体に、きらきら石を入れました。きらきら石はすっと溶けて無くなりました。にいなは指先ほどの小さなビーカーを人差し指と親指で摘んで、少し揺らしてみました。
まるでにいなとみいなの大好きなジェリーを詰め合わせたボトルみたいでした。
「ちょうど10ml分くらいあるんじゃないですかね」
平助は眩しそうにきらきら石の液体を見つめます。紫色は、どこか平助の羽の艶に似ています。
「そうだね」
にいなは顔を輝かせました。
「でもにいな、いいの? これ、にいなの宝物でしょう?」
「いいよ。だって、私のきらきら石で世界が作れるんだよ。すごくない?」
にいな世界のビーカーの中に、きらきら石の液体を注ぎました。目盛りはぴったり1000mlです。
光と闇の液体に入ったきらきら石は、まるで彗星のようにきらきらを撒き散らしながら、ゆっくりと液体の中に溶けていきます。
「できた!」
三人は手を取り合って喜びました。
ビーカーの中では、黒い闇と白い光が渦を巻くようにぐるぐると対流しています。その中で、にいなのきらきら石は小さな光の粒となって、液体の中をゆうゆうと泳いでいます。
「きれいだね」
「ね。宇宙ってこういう色をしているのかもしれない」
「世界の始まりの色かもよ」
「あっしは、ふるさとって感じがしやすかねえ」
にいなとみいなと平助は、ビーカーをうっとりと眺めます。
「ほんとにきれいですぜえ。あっしはこんなに美しいものを今まで見たことがねえ。ありがたや、ありがたや」
平助は何度もビーカーに向かって頭を下げました。
三人はしばらく見入られたように、ビーカーを見つめました。
「あ、そうだ。ふっくんにも見せてあげようよ」
にいなはふっくんの元へ駆けよると、優しくふっくんの羽を撫でました。
「ね。ふっくん、起きて。見て! 私たち、世界を作ったんだよ」
「なんだ。もう夜か? おいら、すごくいい夢を見てたんだぞ。もう一回見るぞ。おやすみ」
むにゃむにゃと言いながら、ふっくんはまた夢の中へ入ろうとします。
「ふっくんってば。起きてよ。世界を作ったんだよ。星の卵の鍵が開くよ」
にいなは、もう少し強くふっくんを揺らしました。
ふっくんはぱちっと目を開きました。
「星の卵だって!? 本当か?」
ばさりと羽を広げて、ふっくんは飛び上がります。そして木の机の上に下り立つと、ビーカーをじっと見つめました。
「これはとってもきれいだぞ。きれいだけど、なんだ、これが星の卵なのか? ……なんか、ちょっと思ってたのと違うぞ」
ふっくんの耳のような羽がへにゃりと下がりました。




