18. 世界を作る 八
「えっと、たしか、39%の闇をこの空のビーカーに入れるんだよね?」
みいなは指示書を読みながら確認します。
「私が入れるよ! 39%の闇ってどれくらい?」
にいなは両手で闇のビーカーを抱えました。
「ちょっと待ってね。1000mlの39%は……100分の39でしょう? ね、ペンある?」
「ここにございやすぜえ!」
平助は張り切ってタンスの上にあるペン立てから一本ペンを抜いてきて、みいなに渡しました。
「ありがとう。そうすると……」
みいなは指示書に計算式を書いていきます。
「ね、早くしてよ。重いよ」
にいなはみいなを急かします。
入っている液体はペットボトル一本分くらいのはずなのに、ずっしりと重くて落としそうになります。
猫ちゃんより重い。もしかしたらパパと同じくらい重いかもしれない、と思いながら、にいなは両手に力を入れました。
「やっぱり闇は重いんでございやすかねえ。にいなさん、がんばってくだせえ!」
平助はにいなを応援します。
にいなは恨めしそうに平助を見ますが、こればっかりは平助の手助けは期待できません。
「ちょっと待ってよ。100分の39をどうするんだっけ? 1000mlは――」
しまった! にいなに重いものを持たせちゃった。また生クリームを床に落とした時と同じになっちゃう! とみいなは慌てました。でも、焦れば焦るほど、計算に集中できません。何度も紙に計算式を書いては、ぐるぐると塗りつぶします。
「ああ! もう限界!」
にいなは空ののビーカーに、闇のビーカーの中身を注ぎました。
どぽん、どぽん。
重たそうな音を立てながら、闇の液体は空のビーカーに入っていきます。
勢いよく注いだので、外にちょっと飛び跳ねてしまった気がしますが、にいなはそれどころではありません。このままずっと闇のビーカーを持っていたら、地球の反対側まで沈んでいってしまうかもしれないと思ったのです。
「ちょっと、にいな! まだ計算の見直し終わってないのに!」
「だってしょうがないじゃん! 390mlでしょ? だいたいそれくらい入れたよ」
「え……そうだけど。なんでわかったの?」
私の方がお姉ちゃんなのに、とショックを受けながらみいなは聞きました。
「だって、1000と39しか数字出てないじゃん。1000ml入れたらビーカーは満杯になっちゃうし、39mlだとほんのちょっとだよ。そしたら390mlしかないでしょ」
にいなは真顔で言いました。
「かあー! さすが、にいなさん、賢いですねえ! あっし、そんなこと思いつきもしなかったですぜえ!」
平助は恐れ入りやした! と、しきりに頭を上下させます。
「そっ、そんなこと、私だってわかってたし。39%って、ほぼ四割だからね。390mlだったら、だいたい半分よりちょっと下くらいだって、私も思ってたし。でもちゃんとに計算した方がいいかもって思っただけだし」
テストだと途中式もきちんと書かないと満点もらえないんだからねと、みいなは悔し紛れに言い返します。
ビーカーから目を離した三人のもとに、なんだか変な匂いが漂ってきました。
三人は話すのを止めて、匂いの元を辿りました。どうやら、にいなが闇を注いだビーカーの様子がおかしいようです。
闇が注がれたビーカーは、ピシピシっと音を立てました。ぶくぶくぶくと大きな泡がビーカーの底から上がっています。真っ黒の泡は真っ黒の煙になって、上へ上へと吹き出します。
三人は青ざめました。
頭に浮かんだのは『失敗』という文字です。




