18. 世界を作る 三
「ジャーン。みいな、平助、どう? 私、科学者みたいでしょ!」
にいなはくるりと一回りしてみます。にいなの想像だと、裾がひらりと舞って華麗に回れるはずでした。
でも、回ってみたら、裾を踏んで転びそうになりました。慌てて近くにあったタンスに手を伸ばします。にいなは、あたかも最初からそこに寄りかかるつもりでした、と言わんばかりにタンスに肩を預けました。ふふっと余裕の笑みを浮かべてみましたが、思いのほか勢いよく肩が当たってしまったので、肩がじんじんします。にいながぶつかった衝撃で、タンスの引き出しが一つ、飛び出てきました。
その様子を見ていたみいなは、軽くため息を吐くと、引き出しの中を覗いてみました。
中には救急隊員が付けていそうなマスクやゴーグル、ぺらぺらしたグローブなどが入っていました。
「実験する時に身に付けるものみたいだね」
みいなは青色のグローブを手に取ってみました。つるつるのグローブは、テレビでお医者さんが手術をする時に付けていそうなものでした。
「でしょう? 私、ここに入ってると思ったんだよね」
にいなは痛みが引いてきた肩をそおっとタンスから離して、さも当然といった風に腰に手を当てました。ついでにさりげなく、肩を撫でてみます。
いっ、痛くないもん、とにいなは心の中で呟きました。
みいなはそんなにいなをチラリと見て、器用に片眉を上げました(時々ママがにいなママにやる仕草です)。ついでに、他の引き出しも開けてみます。
聴診器や注射針、ドリルやペンチのような器具(歯医者さんが使うような道具です)が入っていて、みいなは思わず仰け反りました。
この引き出しは見なかったことにしよう、とみいなはそっと引き出しを閉じようとしましたが、にいなが身を乗り出してきます。
「みいな、見て! 注射があるよ! こっちには聴診器もあるね。お医者さんごっこができるよ!」
注射器を手にしそうな勢いのにいなを、みいなは慌てて遮りました。そして、「にいな、科学者になるんじゃなかったの? ほら、このグローブ付けて」と、話を逸らすように、にいなにぺらぺらのグローブを渡しました。
「ゴーグルも付けた方がいいですぜえ。液体が目に入ったら大変ですぜえ」
平助は引き出しからゴーグルをくちばしでつまんで、二人に渡しました。
目にはゴーグル。
手にはグローブ。
口には顔の半分がすっぽり隠れる大きさのマスク。
白いコートを羽織って、科学者の誕生です。
二人は真剣な顔で、実験道具が並ぶ机の前に立ちました。
「ごほん。にいな君、それでは実験を始めるよ」
みいなは真面目な顔をして、低い声で宣言します。
「はい。教授。ってなんで私が助手の役なの? 私も教授やりたい!」
にいなは頬を膨らませました。
二人の頭に浮かんでいるのは、マッドサイエンティストのアニメです。教授と助手が次々に世紀の大発明をして、悪い奴をやっつけていくお話です。
「でも、にいな、計算できるの? 1000mlの世界、一人で作れるの?」
「ええ。できないけど……」
「では君は助手だ。それではにいな君、まず闇を作るところから始めるとしよう」
「わかりました、教授。どうしましょうか?」
「……それはいい質問だね、にいな君。君はどうしたらいいと思うかね?」
実はみいなには、まったくいいアイディアは思い浮かびません。なので、にいなに聞いてみることにしました。




