2. 罠を仕掛ける 二
さあ、ここからが本番です。
にいなは部屋に戻って、腕輪をぱきんと割りました。みるみる腕輪は光り始めます。それを腕につけたい気持ちをぐっとこらえて、にいなは外に罠をしかけました。
眠ってしまわないように、椅子の上で体育座りをします。
夜になって、いっそう冷たい風がヒューヒューと部屋の中に入り込みます。
にいなはパジャマの上に毛布をぐるぐる巻きにして、いつカラスが引っかかってもいいようにたこ糸を握りしめました。
電気をつけているとママが部屋に入ってきてしまうので、電気は消しています。お向かいの、みいなの部屋の電気も、ほどなくして消えました。
真っ暗な部屋に一人でいるのは少し怖いです。
車が通るエンジンの音がして、にいなはびくっと体を揺らしました。
風の音、木と葉っぱの揺れる音、猫の鳴く声、犬の遠吠え。
カツン、カツンと靴の音がする度に、にいなは目をぎゅっと瞑ります。
おばけがきたらどうしよう。
夜が怖いにいなは、いつもお布団を頭まで被って眠ります。
夜なのに起きてる子供は、おばけに食べられちゃうって誰かが言ってた。
起きていないふりをしよう。
にいなは薄目を開けて、何も変なものが見えませんようにと祈りました。
いつの間にか、にいなの頭はこくりこくりと揺れ始めます。体がだんだんと傾いていきます。あと少しで椅子からずり落ちそうになったその時。
バサバサっと羽が擦れるような音がして、ぎしっとカーテンレールがきしみました。
にいなは慌てて飛び起きました。罠をしかけたたこ糸がギュウギュウと引っ張られています。
「かかった!」
にいなは虫取り網をつかむと、勢いよく窓を開けました。
「カア、カア、カア!」
窓の外では、カラスがたこ糸を引きちぎろうと羽をばたつかせています。
「見つけた! 私のきらきら石、返してよ!」
にいなは虫取り網を振り回してカラスを捕まえようとします。ですが、暴れるカラスにたこ糸が絡まって、ついでに虫取り網も絡まって、うまく捕まえることができません。
「ええい!」
にいなは虫取り網を思いっきり引き上げました。すると、カラスが勢いよく部屋の中に入ってきました。
カラスはそのまま壁にどん! とぶつかりました。その勢いで、壁にかけてあった世界地図がフレームごと、ごとん! と落ちました。
にいなは固まりました。
どうしよう。ママとパパ、起きちゃったかもしれない。
にいなは身じろぎせずに、じっと耳をすませます。
その間も、カラスはバタバタと部屋の中を飛び回ります。
「ちょっと! しー! 静かにしてよ。ママとパパが起きちゃったらどうするの!」
にいなはカラスを叱りました。
「助けて! 助けてくだせえ! この糸が絡まって、あっしはちっ息しちまうよう」
カラスがあまりにも必死そうだったので、にいなは絡まったたこ糸を取ってあげました。羽から糸を取りながら、にいなはカラスに話しかけます。
「その口に咥えた水晶を離してよ! あなたね? 朝、私のきらきら石を取ったのは! それも返して!」
「ごめん、ごめんよ。あっしだって、人のものなんて取りたくなんかねぇんです。でも、女王様が、光るものを集めてこいって言うから、」
「女王様?」
にいなは手を止めて聞きました。
「そうでござんす。あっしたち、カラスの女王様さぁ。女王様は光るものに目がなくて、あっしらみたいな下っ端のカラスに、光るものを取ってこいって命令するんですぜぇ」
「でも、人のものを取るのはよくないよ!」
「分かってる……いけないことだとは分かってるんですけどよぉ。でも、光るものを女王様に渡さないと、あっしは、巣から蹴り出されちまうんですぜぇ。あっしは弱いし、頭が悪いから、一羽じゃ生きていけねぇ。冬は凍えるくらいに寒いしよ。あっしは一羽じゃ、冬を越せないんですぜぇ……」
「そうなの……」
カラスのあまりにも寂しそうな声に、にいなの目は震えます。
一人ぼっちは寂しい。
一人ぼっちは悲しい。
にいなには、お友達はいないけど、家族も、従姉妹のみいなもいる。
でもこのカラスは、仲間に入れてもらえなかったら、一羽ぼっちになってしまう。
かん念したように、だらんと横になって目をつぶるカラスのことが、どんどんかわいそうになってきます。
「いま外してあげるから、おとなしくしててね」
「すまねぇ、お嬢さん、ほんとうにすまねぇですぜぇ」
にいなは、カラスの羽からたこ糸を外しました。固く絡まるたこ糸をとるのは大変です。動いているうちに、どんどん暑くなってきました。取り終わると、にいなはふうと息をついて、おでこの汗をぬぐいました。
その瞬間、カラスはぱっと羽を広げると、窓の外に出て行ってしまいました。
「あ! ちょっと! 私の水晶!」
「すまねぇ、堪忍してくだせぇ。あっしは、どうしても女王様のところに帰らないといけねぇんだ」
カラスは苦しそうな顔でそう言うと、夜空に羽ばたいていってしまいました。