12. 暖炉の部屋 二
「もっとちゃんとによく見てよ! 鼻が低くなって骨が埋まってたら、どうするの!」
「埋まってないったら」
「じゃあ、トカゲに食べられたところがなくなってるかも! どっか欠けてない?」
「欠けてなんかないよ。コップじゃないんだから。それにあれはトカゲじゃなくて、カティア。私の水竜」
「水竜?」
「そう。私の相棒だよ」
にいなはがーんと青ざめました。
『相棒』の意味は分からないけど、みいなの嬉しそうな顔を見るに、きっと大事な友達のことなのでしょう。
みいなの一番の友達は、にいななのに!
だから、みいなの相棒だって、にいななのに!
「何それ、私知らない! ずるい!」
にいなは大声で言いました。
「ずるいって言われても……カティアは私のだから、あげないよ」
「トカゲなんていらないもん! やっぱりどっか、かじられた! 大出血してる!」
「トカゲじゃないってば! 血なんかどこも出てないよ! カティアがそんなことするわけないでしょ!」
「体中がすっごく痛くなってきた! ぜったいにあのトカゲのせいだ!」
「水竜だって言ってるでしょ! カティアは私たちを助けてくれたんだよ! そんなにひどいこと言うなら、にいなとはもう、口きいてあげないんだから!」
「でも、だって、私……私だって、みいなと口きいて……きいて、あっ、あげないんだから!」
「なにそれ! だいたいにいなはいっつも――!」
二人は喧嘩を始めました。
「にゃあーん」
のんびりとした猫の鳴き声がきこえてきました。
猫はちゃっかりと暖炉の真正面の特等席に陣取っています。
「あー! 猫ちゃん。無事だったんだね」
思いのほかみいなが怒っていることを感じたにいなは、話をそらすように猫の方へはいはいしながら近づいて、猫を抱きあげました。すっかり乾いている猫の毛はふかふかで、湯たんぽみたいに温かいです。
ぐるぐると喉を鳴らす猫を胸に収めながら、にいなはちらっとみいなを見ました。
みいなもにいなに負けず劣らず、ずぶ濡れです。にいなを助けるために、がんばってくれたのでしょう。それに、たぶん本当に、カティアという水竜が助けてくれたのだと、にいなは思いました。
みいなは大切なものを、とっても大切にする子なのです。どうでもいいと思っていることなら、こんなに怒りません。
みいなはまったくもう、とぶつぶつ言いながら、にいなの近くにくると、ちょっと乱暴ににいなの髪の毛を拭き始めました。にいなはされるがまま、大人しく座り直しました。
しばらくの間、パチパチと気が燃える音だけが響きます。
みいなの様子を伺うのに後ろを振り向こうとしても、その度にみいなに首を前に戻されてしまいます。
やっぱり怒ってるんだ。
どうしよう。
ぐるぐると考えながら、にいなはおずおずとみいなに話しかけました。
「みいな……みいなも濡れてるでしょ。猫ちゃんあったかいよ。抱っこする?」
ごめんねの気持ちを込めて、にいなはみいなに猫ちゃんを渡しました。
みいなは呆れた顔をしながら、猫を受け取りました。
にいなは素早くみいなを暖炉の前に押しやると、乾いているタオルでみいなの髪の毛を拭きました。
「えっと……みいなもよくがんばったじゃん」
『ありがとう』と『ごめんね』を言いたかったのに、にいなの口から出たのは、そのどちらでもない言葉でした。
みいなが後ろを向いて、キッとにいなを睨みます。「心配かけといて、それ?」というみいなの心の声が聞こえてきそうです。
にいなは思わず目を泳がせました。みいなは一度怒り出すと、許してくれるまで時間がかかるのです。
でも、なかなか言葉が出てきません。いつもならすぐに言える言葉なのに、さっきの大事件がショックすぎて、思い返すのもちょっと怖いのです。
そのにいなの気持ちが分かったのか、みいなはやわらかい声で言いました。
「光の玉に『助けて』ってお願いしたら、水竜になってくれたの」
「そうなんだ。すごいね」
「うん。私のお願いなんかじゃ聞いてくれないかもって思ったんだけど、カティアが来てくれた。一生懸命お願いしたからかな。今まではなんとなく恥ずかしかったんだけど……」
みいなは小さい声で言いました。




