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11. つららとドラゴン 六

 もしかして溺れちゃったんじゃ?


 そう不安に思ったみいなは、慌てて水の中へ飛び降りようとしました。

 ですが、カティアが「ぐう」と鳴いて、みいなを止めました。そして、その長く伸びる首をふるふると振るわせました。みいなの体は、カティアの首元から背中の方へとずり落ちていきます。


 カティアは首をのっそりと下げて水中に顔を入れました。ゆらゆらと首を左右に揺らします。みいなはどきどきしながらその様子を見守りました。

 やがて、カティアはにいなを口にくわえて水面に出てきました。


「にいな!」

 みいなは急いでにいなの体を受け取りました。

 にいなの体はびっくりするほど冷たく、青白い顔をしています。


「にいな、にいな、しっかりして」

 みいなはにいなのほっぺたをペチペチと叩きました。心配そうに光の玉が二人の元に集まってきます。


「お願い! にいなを助けて!」

 みいなはにいなの体を抱きしめながら、光の玉に訴えました。


 光の玉がポワンと光ります。みいなはお願いを聞き入れてもらえたと思ってほっとしたのですが、光の玉は二人の間をすり抜けて、ぴゅーんと前の方へ高速で飛んで行ってしまいました。


「え。ちょっと待って! にいなを助けてったら!」

 みいなは焦って光の玉に向かって叫びます。


 すると、なぜかカティアも前へ向かって高速で移動し始めました。

 みいなはカティアから振り落とされないように、にいなの体をぎゅっと抱きしめながら、太ももでカティアの背中にしがみつきます。


 どこからともなく、猫が現れて、ぴょんとカティアの体に飛び乗りました。どうやら壁の高いところで避難していたようです。


「あ、猫ちゃん! 無事だったんだね。 っていうか、助けて! にいなが!」

 みいなの訴えが聞こえたのか、聞こえなかったのか。猫はにいなの胸の位置で丸くなっているみいなの顔を見て、「にゃあ」と鳴きました。


「ええ。全然わかんないし」


 猫はみいなとにいなの体の間に自身の体をもそもそと滑り込ませると、「ぐるぐるぐる」と喉を鳴らしながら目をつぶってしまいました。


「いや、猫ちゃんマイペースすぎるでしょ」

 毒気が抜けたように、みいなはつぶやきました。

 猫の温かい体と喉の音に、みいなは肩の力が抜けました。


 猫ちゃんが慌ててないから大丈夫。……多分。……きっと。


 みいなが猫に気を取られているうちに、いつの間にか前方に壁が迫ってきています。行き止まりのようです。

 行き場をなくした水が壁に当たって、勢いよくにいなとみいなの方へ返ってきます。


 カティアは水竜なので水は気にならないようです。

 猫はお腹をゆっくりと上下させながら、気持ちよさそうに眠っています。


「ちょっと! 壁! 壁だってば! カティア、止まって!」

 みいなの叫びもむなしく、カティアは「グォ」と楽しそうに鳴くと、さらにスピードを上げました。


 光の玉は行き止まりの壁にどんどんと集まっていきます。水しぶきがきらきらと光を反射して、大きな虹がかかりました。七色に光り輝く虹は、まるで夢の国につながるゲートのようです。

 しかし、ゲートは閉じたまま。行き止まりの壁は、すぐ目の前まで迫ってきました。


 だめ。ぶつかる。


 みいなはにいなの頭を抱き抱えながら、ぎゅっと目をつぶりました。


「グオォォォォォォ!」

 カティアが水路全体を揺るがすような大声で吠えました。


 その声にびっくりして、みいなは目を開けました。カティアの雄叫びで、前の壁にヒビが入りました。勢いよく流れる水は、割れた壁の中にどんどん入っていきます。

 やがて水の勢いに耐えられなくなった壁は、大きな音を立てて壊れました。


 カティアの体は崩れた壁を素早く通り抜けます。にいなとみいなの体は、その勢いを保ったまま、ピョンと跳ねました。体が宙を浮きます。明るい所に入ってきたらしい、ということしか、みいなにはわかりませんでした。

「えっ」と思う暇もなく、二人の体はポヨンと柔らかいクッションのようなところに着地しました。


 えっと……

 みいなは目をぱちくりさせました。


 みいなの腕の中にいたにいなが、けほっと咳き込んで水を吐きました。そのまま横に転がると、にいなはクッションに顔を埋めながら、けほけほと咳をしました。


「にいな! 大丈夫!?」

 みいなはにいなの背中をさすります。


 やがて咳が落ち着いたにいなは、涙目で顔を上げました。

「びっくりした! もうダメかと思った。みいなが助けてくれたんだね。ありがとう」


「ううん、違うの。私じゃなくて、カティアが、」

 みいなは笑顔でカティアを見上げました。

 カティアの体は、薄く透明になってきています。

「カティア! どうしたの!?」

 みいなは真っ青になって、カティアの前脚を触りました。さっきはもっとがっしりとしていたのに、ふわっとした触り心地になっています。まるで雲を触っているようです。


 カティアはみいなに鼻先を擦り付けると、「ぐお」と満足げに鳴きました。そして、空中に散っていきました。細かい光の玉に戻ったそれらは、カティアが壊した壁の方へと向かいます。壁の向こうからは、まだ水が流れてきています。光の玉はふわっと光って壊れた壁を塞ぎました。


 もう水は流れてきません。

 部屋の中に入ってきた水も、光と共に消えてなくなりました。


 カティアは消えてしまいました。


「カティア……」

 みいなの呼びかけに答えてくれる姿は、もうどこにもありません。

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