10. トイレとお宝の部屋 三
狭い部屋の洗面台の鏡には、お花の模様が木彫りで装飾されています。鏡はピカピカに磨かれていて、見る人が見たら、熟練の職人さんが作った、たいへん高価な鏡だと分かるのですが、二人にとってはただの鏡です。
白と灰色のマーブル模様のシンクは、一等級の大理石をくり抜いて作られたものです。
洗面台の蛇口はユニコーンの形をしています。これは実は純銀でできています。錆びることなく輝き続けるこの装飾は、とても値段の張るものです。
洗面台の隣に吊り下がっているタオルは王室御用達の最高級品で、一枚で二人の洋服すべてを買うことができる値段です。
さらにタオルが吊り下がっている金具は、純金でできています。
金具も、蛇口も、きらきらと輝いてはいるのですが……
『金と銀といえば、折り紙セットに一枚づつだけ入っている、とってもきらきらした物』だと思っている二人には、純銀と純金のきらきらは、輝きが足りなかったのかもしれません。二人がその価値に気づくことはありませんでした。
洗面台を照らしているろうそくが刺さった燭台は、ビクトリア王朝時代のある高貴なお屋敷で代々受け継がれてきたアンティークです。
洗面台の隣に控えめに置かれている壺は、シルクロードを渡ってヨーロッパのある国の王様に献上されたこの世に一つしかない逸品です。
壁に飾ってある絵画は、巨匠と呼ばれたある有名な画家が描いた作品です。贋作ではなく、本物です。つまり、この世に存在するのはこの一点だけ、ということです。
みいなはちらりとその絵を見て、『髪の長いおばさんが変な顔して笑ってるなあ』と思いました。にいなは『この人に見られながらトイレに入るのはなんか嫌だな』と思いました。
そう。この隠し部屋は、実は宝の山だったのです。
悪い人が見つけていたら、これらの物を根こそぎ奪っていったでしょう。
一生遊んで暮らせるだけのお金に換えることができたかもしれません。
それだけ高い物が詰まった小部屋だったのです。
でも、二人にとってはただの『トイレの部屋』です。
「じゃ早く入って。次に私も入りたいから早くしてね」
みいなは興味を失くして部屋を出て行こうとしました。
「待ってよ! 行かないで。これ、扉が閉まって開かなくなっちゃったらどうするの? 扉の前で待ってて!」
にいなは必死になってお願いしました。
それもそうだと思い、みいなはしぶしぶ扉の前で待つことにしました。
にいなは用をすますと、洗面所でしっかり手洗いをしました。ママが、トイレに行ったらしっかり手を洗わないと、悪いばい菌がおなかの中でいたずらをするといつも言っているからです。
ちなみに、にいなが使ったこの石けんも、バラの香油をふんだんに使った最高級品です。
『この石けんひとつで車が買える』と言われるほど高い価値が付いている理由は、この石けんで体を洗うと肌が若返るからです。しわしわなお肌もあら不思議。ぴちぴち、きらきらに。
世界中のセレブがこぞって注文していますが、早い人でも手に入れられるのは十年先。なぜなら、この石けんは山の奥深くにある修道院で修道女たちが秘伝のレシピを使って作っているからです。
でも、にいなはそんなことはつゆ知らず。『何だかいい匂いのする石けんだなあ』とは思ったけれど、別に持って帰りたいとは思いませんでした。
交代でみいなもトイレに入りました。
あんなにお宝が、と言っていたみいなも、特に心を惹かれるものはなかったようで、あっさりと出てきました。
価値のあるものというのは、人それぞれなのです。
多くの人が『これは素晴らしい!』と思えば、値段は高くなります。
さらに、モノの数が少なければ、値段はぐんと高くなります。モノの数より欲しい人の方が多ければ、『もっとお金を払うから、私に譲ってくれ!』と言う人が出てくるからです。これを希少価値と言います。
では、高価なものはすべて素晴らしいのでしょうか?
そういう場合もあるし、そうでない場合もあります。
逆に、人にとっては大したことないものでも、ある人にとっては『とっても素敵!』だと思うものもあります。
にいなのきらきら石がそうですね。
にいなのきらきら石は、にいなが海岸で拾ってきたシーガラスです。つまり、タダです。
でも、値段なんて関係ありません。にいなはきらきら石をとても大切にしました。
ものを大切に扱えば、ものはそれに応えてくれます。使い勝手がよくなったり、自分の手にしっかり馴染むようになったり。困った時に助けてくれたり、一緒に成長したりすることもできます。
つまり、大切にすれば、きらきらは自分の力で増やせるのです。
悲しいことに、にいなのきらきら石はカラスに奪われてしまいました。でも、にいなとみいなを冒険に導いてくれたのも、またきらきら石でした。
一生形の変わらないものは、残念ながらありません。
でも、あなたが大切にしたものは、姿形を変えて、また戻ってきてくれるかもしれません。
あなたをまだ見ぬ新しいところへ連れて行ってくれるかもしれません。
みいなとにいなの冒険は、まだ道半ば。お話を続けましょう。




