9. 迷路と落とし穴 四
二人は立ち止まって考えました。
この猫ちゃんは、今まで二人のことを助けてくれました。猫ちゃん自身が二人を危険な目にあわせたことは、一度もありません。
きっと、この道が一番まともで、他の道はもっと危険なのかもしれない、と二人は思いました。
それに、他の道へ行ってしまったら、猫ちゃんと離れることになってしまいます。この迷路のような道を二人だけで進むのは怖いです。
でも、じゃあ、どうしよう。
二人は途方に暮れました。
みいなはゆっくりと一歩を踏み出しました。落とし穴の近くまで行って、穴をじっと見つめます。
ぽっかりと口を開ける穴は、まるでみいなたちのことを食べてしまいそうです。みいなはゴクリとつばを飲みました。
私がお姉ちゃんなんだから、私がしっかりしないと。
みいなは深呼吸しました。目をぎゅっとつぶって、ほっぺたを手でぱしんと叩きます。
「いい? にいな。よく聞いて。この道を進もう。私が先にジャンプする。あっちに着いたら、にいなのことをちゃんとに捕まえるから。にいなもジャンプしてくるんだよ。分かった?」
みいなは真剣な顔でにいなに言いました。
「でも、そんな! こんな大きい穴、私、飛び越えられないよ」
にいなは、いやいやをするように首を振ります。
「そんなことない。にいなはいつも外で遊んでいるでしょう。これは……そうだな。学校のアスレチックジムと同じだよ。ほら、階段の五番目から、手すり棒の所にジャンプするところがあるでしょう? あれと同じ。勢いをつけてジャンプすれば、大丈夫。にいななら、絶対にできるから」
みいなは励ますようにそう言いましたが、本当に自信がないのは自分の方です。みいなは体育の授業以外、お外で遊ぶことはほとんどありません。
みいなは本当は、学校のアスレチックジムでだって、遊んだことはありません。だから、跳べるかどうかなんて、わかりません。でもこれ以上怖くなる前に、早く跳んでしまおうと思いました。
底なし穴がぽっかりと開いている、ということを思えば思うほど、頭が下に、下にと下がってきます。
どうしよう私、ここで飛べなかったら……
ここで死んじゃったら……
ママ! パパ!
「にゃんにゃんにゃん!」
向こう側にいる猫がその場でジャンプしながら、二人に何かを語りかけています。
何だろう?
二人は首を傾けました。
うーんとうなって、にいなは「あ! わかった」と明るい声で言いました。
「あのね、パパが言ってたんだけどね、大きくジャンプするときは、下を向いちゃいけないんだって。そうすると頭が下がって、体が下向きになっちゃうから、大きく跳べないんだって。だからまっすぐ前を見てね、跳べるぞ! って思って、ええい! って跳ぶんだって。大丈夫。みいな、私も一緒に行くよ。せーの! でジャンプしよう」
顔を輝かせてにいなは言います。
「でも……二人で一緒にジャンプして、失敗しちゃったら……」
不安な気持ちと、ほっとした気持ちが混ざりながら、みいなはにいなと穴を交互に見ます。
「大丈夫だよ。あの猫ちゃんが、ぴょんぴょん跳んでたところがあるでしょう? あのくらいの高さのところを見てね、思いっきり足を蹴るの。そしたら行ける。大丈夫」
にいなは先ほど猫が跳んでいたところを指差します。
にいなの前向きな言葉に、みいなもそうかなと思うようになりました。
だってにいなはよく外で遊んでいるのです。にいなが言うんだから大丈夫。
二人は一緒に跳ぶことにしました。
少し遠くから助走をつけて、ジャンプするのです。
「行くよ。せーので走り出して、ジャンプだからね! わかった?」
にいなは50m走をする時のように、よーいドン! の走り出すポーズを取りました。
「わかった」
みいなもそれに続きます。下を見ないように、猫ちゃんのいるところを見つめます。
「行くよ! せーの!」
二人は勢いをつけて走り出しました。
落とし穴ギリギリのところで足を蹴って、ジャンプ!
二人は高く跳びました。
それに合わせるように、光の玉が二人の足元にぎゅっと集まってきました。光の玉はスケートボードのような形になって、二人の足を勢いよく前へと滑らせます。
ふわっと風を切るように二人は飛び上がり、そのまま穴を飛び越えて地面に着地しました。
はじめににいなが着地しました。それから一歩遅れて、みいながつまづきそうになりながら、地面に降り立ちました。前のめりになった勢いのまま、前に数歩飛び跳ねます。
「わわ!」
みいなは何とか体勢を整えると、ほっと胸を撫で下ろしました。
にいなが心配そうにみいなを見ます。みいなは大丈夫と頷いて、にこっと笑いました。
「やった!」
二人は手を取り合って喜びました。
猫はしっぽをピンと立てて、二人の足にじゃれついてきました。
光の玉も嬉しそうに二人の周りを舞っています。
二人はほっぺたを赤くしながら、笑顔で歩き出しました。
今ならどんな難しそうなことでも乗り越えられる気がします。




