9. 迷路と落とし穴 三
それまでまっすぐだった道を抜けて、クネクネと曲がる道を歩いていたときのことです。
ここに来るまで、しっぽをピンと上げて、ご機嫌に歩いていた猫が足を止めました。そして、体をぎゅっとしならせると、水たまりを飛び越えるように、ぴょんと大きくジャンプをしました。
少し先に着地すると、猫は二人の方を振り返って「にゃん」と鳴きました。
「どういうことだろう?」
「私たちにもジャンプしろって言ってるんじゃないのかな」
そうは言っても、猫はずいぶんと大きくジャンプしました。にいなより一歳年上のみいなでも、ここまで大きくジャンプできるかは、わかりません。
「私、無理だよ。トイレに行きたいのに、漏れちゃうよ」
にいなが泣きそうな声で言います。
みいなは一生懸命考えました。こういう時、ダンジョンの中は、道の真ん中が危ないことが多いのです。道の端を通れば、どうにかなるかもしれません。
「道の端をゆっくり歩いてみよう。私、先に行くから。にいなもゆっくりでいいから、来て」
みいなは勇気を振り絞って、道の端にそっと一歩を踏み出しました。後ろから、心配そうににいながピッタリとくっついてきます。
すると、足を踏みしめた方へ、いきなり体が傾きました。「えっ」と思った時には、みいなの体は傾いたのとは真逆の方向、つまり後ろに引っ張られていました。「みいな!」という慌てたにいなの声がします。
今まさに踏みしめた道が、ガラガラガラと音を立てて、無くなっています。とっさに下を見ると、道には大きな穴が開いています。
――カラカラカラ、カラカラカラ
どこまでも下に、下にと、石が落ちる音が続きます。
にいなが後ろからみいなの手を引っ張ってくれなかったら、みいなも一緒に落っこちていたかもしれません。
みいなの喉は詰まりました。息を吸っているのか、吐いているのか、わかりません。
二人の目の前に広がっているのは、真っ暗な大きな穴です。道は完全に分断されてしまいました。
「みいな、みいな、落ち着いて。大丈夫だから」
にいながみいなをぎゅっぎゅっと抱きしめます。
小さい頃から一緒に育った双子のような存在のにいなに抱きしめられて、みいなはやっと息をすることができました。
落とし穴の向こう側から、猫が心配そうに鳴きます。
オロオロと道を左右に行ったり来たりしています。
「大丈夫だよ」
にいなはそう言いながら、壊れていない安全な道までみいなを引っ張っていきました。
みいなは呆然としながらにいなについていきました。そして、力が抜けたようにその場にしゃがみ込みました。にいなも隣にしゃがんで、みいなの目に溢れた涙をぬぐいました。
「びっくりした。怖かったよぉ」
怖かったと思ったら、余計に怖くなってきました。
みいなは声を上げて泣き出しました。
今までも怖い目にはあってきましたが、踏みしめた道がいきなり消えて無くなるというのは、それまでとはレベルの違う怖さです。
にいなはみいなを抱きしめて、頭をいい子いい子と撫でます。
「この道、やめておこうか?」
にいなは優しく聞きました。
「うん、ここはやめよう。もうちょっと戻れば、他の道もあったから」
みいなはしゃくり上げながら言います。
二人は何とか立ち上がって、今来た道を引き返そうとします。
ですが、落とし穴の向こうから、猫が慌てたように「にゃあ! にゃあ! にゃーあ!」と大きな声で鳴きます。まるで「それはダメ!」と言っているようです。




