9. 迷路と落とし穴 二
じゃあついていこう、とみいなは壁に手をつきながら、ゆっくりと腰を上げました。何度かその場でトントンと足踏みをします。
足はキンキンに冷えているけど、動けそうなことにホッとしました。
にいなは悲しそうな顔をして、立ち上がったみいなを見ています。
みいなは「まったく、もう」とママの真似をしながら、にいなの両手を持って、にいなを引っ張り上げました。
「わ! そんなに急に引っ張らないでってば!」
にいなはなんとか立つことができました。みいなと同じように、その場で二度三度足踏みをします。
「よかった! 立てた。よし、行こう」
にいなは張り切って前に歩き出そうとします。
「ちょっと待って! ビーカーを忘れてるよ」
みいなが慌ててビーカーを手に取ります。
「ああ! ごめん、ごめん、忘れてた」
「しっかりしてよ。私たちが命がけで取ってきたビーカーなんだからね」
にいなはまたビーカーを忘れてしまわないように、コートの中に入れました。きちんとコートのチャックを閉めます。その場でぴょんぴょんとジャンプしてみても、ビーカーは下に落ちてきません。これで安心です。
お腹がぽこんと膨らんで、妊婦さんみたいです。小さい頃ママに「なんであの女の人はお腹があんなに大きいの?」と聞いたら、「あの人は『にんぷさん』なのよ。お腹に赤ちゃんがいるの」と教えてくれました。
「にいなもママのお腹の中にいたのよ。懐かしいわね」とママは優しい顔で言いました。「じゃあにいなも大きくなったら、にんぷさんになる?」と聞くと、「そうかもしれないわね」とママがうれしそうに言うので、きっと良いことなのだろうとにいなは思いました。
私の赤ちゃん。ふふ。
にいなはコートの上からビーカーをなでました。
「早く行くよ」
先を歩き出したみいなが声をかけてきたので、にいなは小走りにみいなの後を追いかけました。
◆◇◆◇
少し歩くと、道が三つに分かれていました。どの道も真っ暗で先は見えません。猫は迷うことなく一番右の道に入って行きます。光の玉はふわふわと二人の周りを浮いているだけで、それ以上先には進みそうにありません。
にいなとみいなは顔を見合わせました。
「どうする?」
「行くしかないでしょう。でも、でもなあ……」
みいなが考え込むように言います。
「どうしたの?」
「この道のどっちかに、隠し部屋につながる道があるかもしれない。もしかしたら宝箱もあるかもしれない。ああ、気になるなあ」
みいなが諦めきれないというような顔で、残りの二本の道を見つめます。
「だめ! そんなのだめ。私がトイレに行くのが先なの!」
にいなは必死になって言いました。
「わかったよ」
みいなはあきらめたように、猫に続いて行きました。
二人を囲むようにふわふわと浮いている光の玉は、ここでもついてきてくれました。そのことに二人はホッとしました。この光の玉のおかげで、今まで暗かった道もよく見えるようになりました。二人はきょろきょろと周りを見渡しながら、猫について行きました。
ずんずんと進んでいきます。
広い道。
天井がうんと高い道。
天井がうんと低い道。
曲がり角を曲がると、道がまた分かれています。
左に行ったり、右に行ったり、まっすぐ行ったり。
「迷路みたい」
ぽつりとにいなは言いました。
そう。まるで迷路みたいな道です。猫の案内がなければ、二人はとっくに迷子になっていたでしょう。
時折、カタカタと何かが震える音や、笑い声のようなものが聞こえます。
その度に二人はピクッと肩を震わせて、お互いの手をきつく握り締めます。




