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8. ガラスの部屋 四

 ――ピシッ

 ――ピシピシピシ

 ――ビシビシビシビシ


「わっ! どうしたんだろう? なに? なんで!?」

 にいなが片手で耳を塞いで叫びます。


 見上げると、天井のガラスに次々とヒビが入っています。


 みいなも驚いて天上を見上げて、はっと青ざめました。

 私が……もう一つ選んじゃったからかも。

 だから、ガラスが壊れちゃったんだ。


 でも、それを声には出せませんでした。


 空中を漂っているガラスも、天井のガラスたちが割れる音に共鳴きょうめいするように、ふるふると震え始めました。


 にいなとみいなの持っているガラスのビーカーも、一輪挿しも、小刻みに震え始めます。


「にゃーあ」

 それまで机の上で丸くなって寝ていた猫が、二人に向かって鳴きました。

 にいなとみいなは驚いて、猫の方を見ました。二人がふり向いたことを確認すると、猫は立ち上がって、うーんと伸びをします。それから、しっぽをピンと立てると、テーブルから軽やかに降りました。そして、ふるふると震えているガラスの間を器用に通り抜けていきます。

 猫はてくてくと部屋の端に歩いていきました。見ると、にいなたちが入ってきた扉の反対側に、もう一つ扉がありました。猫は扉の前に座ると、「にゃあ」ともう一度鳴きました。


「猫ちゃんがこっち来てって言ってる!」

 にいなはみいなの手を取って歩き出します。


「ええ、でも、さっき入ってきた扉と逆だよ!」

 みいなは後ろを振り向きました。


 二人が通ってきた扉は、まだ開いています。そちらから部屋の外に出た方がいいのではないかとみいなは思ったのです。


 ――バシン!


 天井のガラスが大きな音を立てて落ちてきました。大きな塊が白いテーブルに叩きつけられて、粉々になります。


 二人はそれを見て、血の気が引きました。


「急ごう!」


 にいなとみいなは、猫がいる扉の方へと急ぎます。

 背後からは、バシバシバシッとガラスが割れる音が迫ってきました。


 空中に浮いているガラスに二人の肩や手が当たるたびに、パリン、パリンとガラスが割れていきます。


「にいな! フード被って!」

 みいなは叫びながら、にいなにコートのフードを被せます。

 地震が起きたときは、頭に物が当たるといけないから、頭を覆いなさいと学校の避難訓練で言われているのです。

「みいなも!」

 にいなはみいなにもフードを被せようとしましたが、「私は大丈夫だから!」と言うと、みいなは素早く自分もフードを被って、にいなの背中を押します。


 ガラスが割れる音はどんどん大きくなり、割れ方が派手になってきます。初めは控えめにヒビが入るくらいだったものが、今では爆発するように砕け散っています。今にもはじけそうな器たちを避けるために、二人はガラスをくぐって、飛び越えて、最後にはしゃがみながら、なんとか猫が待っている扉の前に着きました。


「早く開けて!」

「でもこの扉、取っ手がない!」


 扉にはこの部屋に入って来た時にあったような、立派な取っ手は付いていません。これでは扉を引いて開くことはできません。


「ええ、どうするの? 押してみる?」

 二人は力いっぱい扉を押してみました。ですが、扉はうんともすんとも言いません。


「どうしよう? 私たちの力じゃ開かないんじゃないのかな!?」

 二人の後ろでは、ガラスの割れる音がさらに大きくなっていきます。後ろを振り向くと、二人が入ってきた扉の前には、ガラスの破片が山積みになっていました。これではもう、あちらの扉に引き返すことはできません。


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