8. ガラスの部屋 三
それに、『星の民』ってなんだろう?
さっきも歌を歌うときに、上から聞こえてきた声が言ってたけど。
そういえば、カラスの女王様も言ってたな。瞳にきらきら星があるから、私たちは『星の民』なんだって。
みいなは、そんな言葉は知りません。
瞳にきらきら星があるのは、ママのふるさとの親戚みんな同じです。
おばあちゃんたちにとってはそれが当たり前のことだからでしょうか。それについて何か言っているのを、みいなは今まで一度も聞いたことがありません。
みいなはにいなが先ほど読んだ、机の上に刻まれた文字を読み返しました。ちょうど猫がゴロンと寝返りを打って、今まで見えなかった文字が新たに出てきました。
「あ、続きがある。なになに? えーと」
『ただし
欲に目が眩んだ者
ガラスの破片と共に散れ
真の器は ただ一つ
ゆめゆめ忘れるべからず』
うーん、どういうこと?
欲に目が眩むってなんだろう?
ガラスが壊れちゃうのかな?
あ。ひとつしか選んじゃダメっていうことなのかな?
考えてもよくわかりません。
「ねーえ、まだ?」
早く部屋を出たいみいなは、にいなを急かしました。
「うーん、うーん、どうしようかな。待って。あ、これにする」
みいなは自分の頭の上をふわふわと浮かんでいた500mlのビーカーを、背伸びして取りました。
ビーカーは一度ほわっと蛍のように光って、元に戻りました。浮いていた時は軽かったのに、今はにいなの手にずっしりと重みを感じます。
ビーカーは、透明なガラス製で、取っ手もガラスでできています。赤色で目盛りが書いてあって、10ml単位で計量できるものでした。
じゃじゃーん! とにいなはみいなにビーカーを見せました。満面の笑みです。
「なんでこれにしたの? もっとかわいいのにすればいいのに」
金魚鉢や花瓶なら、中にカラフルなものを入れればかわいくなるのに、とみいなは思ったのです。
「ママがこの前、キッチンで使ってるビーカーを割っちゃったの。ママ悲しそうだったから、これをお土産にする」
にいなは大切そうにビーカーを胸に抱きしめました。
「ふん! 好きにすれば」
みいなは素っ気なく言いました。
家のことを思い出したら、自分の見た目のこととか、学校のことを思い出してしまって、みいなは顔をしかめました。
「ね、やっぱり私も選ぶ」
なんだかむしゃくしゃした気持ちになったみいなは、ガラスを選び始めました。一つしか選べないのかもしれないということは、にいなには言いませんでした。
にいなはあのメッセージを見ていないし、一つしか選んじゃいけないとはっきり書いてあったわけでもないし。それに私だって、なんか欲しい。
周りを見渡して、みいなは目についた一輪挿しを手にしました。その瞬間のことです。シャンデリアのように煌めいていた天井のガラスの輪が、ぴしっと音を立てました。
気のせいだろうと、みいなは一輪挿しをつかみました。涙のような形をした一輪挿しです。これにバラや百合を飾ったらきれいかもしれない。お家の窓辺にこれを置くことを想像して、みいなは楽しくなってきました。
ですが、初めは小さかったぴしっという音は、天井のガラスの輪の中心から外に向かっていくにつれて、どんどんと大きくなります。




