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1.みいなとにいな 三

 ◆◇◆◇


「ね、ママ、なんかきらきらしたもの持ってない?」


 家に帰ったにいなは、ママにおそるおそる聞きました。


 ママは今日はちょっと怒っています。いつもはめったに怒ることのないママですが、今日はぴりぴりしています。キッチンで料理をしている手つきがちょっと荒いです。


 にいなとみいなが学校を遅刻したことを先生からの電話で聞かされて、午前中に学校へ行って先生に謝ってきたんだそうです。


「きらきらしたものなんて何に使うの?」

 ママの声もいつもより低いです。


 今日のおやつはなしなのかもしれない、と悲しく思いながら、にいなは声を絞り出します。


「えっと、あのね、ちょっと、お友達にあげたくて……」

 にいなはとっさに嘘をついてしまいました。


 にいなが話しかけても野菜を切る手は止めなかったママですが、ここでやっと、にいなの方を振り向いてくれました。


「友達にあげるの? そう……そうね、何かいいものはあったかしら?」

 まだちょっと怒りながらも、ママは真剣に考え始めました。


 にいながあまり学校で仲の良い友達がいないことを、ママは心配しているのです。学校のお友達のお誕生日会には呼ばれないし、にいなのお誕生日にお誕生日会をしようとしても、来てくれる子はいません。


 にいなは、みいながいればそれでいいかなと思っているのですが、ママはお友達をたくさん作って欲しいと思っているようです。


「そうね、ママがおばあちゃんからもらった水晶なんてどう? えっと、なんて言うんだったかしら? ゴミ? ヒビ? みたいなのが入ってなくて、とってもクリアできれいなのよ」

 ママは嬉しそうに微笑みました。


「そんなにすごいやつはいらないよ! ちょっときらきらしてればいいの!」

 にいなは慌てて言いました。おばあちゃんからもらった水晶なんて、そんな大切なものは、これからやる計画には使えません。


 ですがママは、「今持って来るからね」と鼻歌を歌いながら寝室へ向かってしまいました。


 にいなの心臓がドクドクいって、お腹がぎゅっと痛くなります。


 どうしよう、ママに嘘をついちゃった……

 やっぱりなんか自分で作って……

 あっ! アルミホイルを丸めたらどうだろう? あれだってきらきらしてるし。


 にいなは、自分の椅子を引きずって戸棚の高いところからアルミホイルを出そうとします。

 背伸びをしながら手を伸ばしていると、ママのスリッパの音が後ろからしました。


「何をやってるの?」


「えっと、やっぱりアルミホイルにしようかなって思って……」

 にいなはいたずらが見つかった時のように、アルミホイルを後ろに隠しました。


「アルミホイル? そんなものお友達にあげたらだめじゃない」

 ママはそう言って、にいなの手のひらにお箸置きくらいの大きさの水晶を握らせました。


 にいなは思わず水晶に見惚れてしまいました。

 透明な水晶は縦長で六角形をしています。先は鉛筆のように尖っていますが、指先で突いてみても痛くありません。


 にいなは水晶を手の中でころころと転がしました。透明だから、手のひらが透けて見えるのが面白いです。


「ふふ。きらきらしてきれいでしょう? おばあちゃんは、こういうきらきらしたものを集めるのが好きなのよ。にいなもそれが似たのね」

 ママは故郷を懐かしむような顔をして微笑みました。


 ママの声にはっとして、にいなの目は泳ぎ始めました。


 どうしよう、どうしよう……

 ママの大切なもの、やっぱりいらないって言わなきゃ。


「でもその前に」

 ママが固い声を出します。


「学校には遅刻しないでちゃんと行きなさい。先生から二人が学校に着いてないって聞いて、ママたちがどれくらい心配したと思ってるの。一週間は外出禁止。家でおとなしくしてなさい」


「はい、ごめんなさい」

 にいなは素直に返事をしました。


 外出禁止令が出たところで、にいなと放課後に遊んでくれるお友達はいません。いつもみいなと二人で公園で遊ぶか、家で遊ぶか、するだけです。


 にいなは、もやもやした気持ちのまま、自分の部屋に戻りました。


 にいなもみいなも、ずっとお友達がいなかったわけではありません。前に住んでいたところでは、同じマンションのお友達や、同じ幼稚園に行っていたお友達がいました。


 でも去年、にいなのパパとみいなのパパが、コダテのマイホームというものを買ったので、この場所に引っ越してきたのです。


 ママたちは双子だけど、パパたちも双子だから、とっても仲がいいです。

 パパたちが大学の卒業旅行でママたちの国を訪れた時に、ママたちに一目惚れをしたんだそうです。


 ママたちは故郷を離れて言葉も分からないところで暮らすことになるから、せめて隣同士で住めたらいいね、というのがパパたちの夢だったんだそうです。


 やっと念願かなってマイホームを手に入れた二家族は、新しいところへ引っ越して来たのですが……


 自分の部屋があるということにはしゃいだのは、最初のうちだけでした。新しい学校の子は、にいなたちと遊んでくれません。

『ヨソモノ』で『ガイコクジン』で『ハーフ』だからだそうです。


 新しいところに慣れるのは時間がかかるから、とパパは言います。

 ママもご近所の人と仲良くするようにがんばるし、学校の行事にも参加するわ、とママは言います。


 でも、自分の部屋なんかより、家は狭くていいから前のところに帰りたい。お友達と会いたい。


 何度もパパにそう言いましたが、ごめんなと謝られてしまいます。にいながそう言う度に、ママもパパも悲しそうな顔するから、にいなも悲しくなります。


 でも、きらきら石があれば。


 どんな世界も輝いて見えると、にいなは思うのです。

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