7. 光を灯す 四
――キュ、キュ、キュ
にいなとみいなの運動靴の音が、狭い道に響きます。
頭の上のほうでは、平助が「くわばら、くわばら」とぶつぶつと呟いています。
平助は、つい先ほどまで、端っこの方で身じろぎせずにじっとしていたのです。野生の動物は、危険を察知する能力に長けています。危ない時は動かない。これが鉄則です。
時々ビューっと聞こえてくるのは風の音でしょうか。
石が敷き詰められている道は、とても冷たいです。足の熱を石に奪われているような感覚です。歩けば歩くほど、足が凍ってしまいそうになります。
でも立ち止まってしまったら、それこそほんとうに足が石に貼り付いて、冷凍人間になってしまうかもしれません。
「ねぇ、まだ?」
にいなが弱弱しい声で聞きます。
「まだちょっとしか歩いてないよ。この先に、絶対なにかがあるんだから」
みいなはずんずんと先に進んで行きます。
にいなはこわごわと、後ろを振り向きました。入り口の扉は、もう見えません。
一つだけ良かったと思うことは、光の玉たちが二人に付き添うようについてきてくれることでしょうか。
こんな狭い道に、子どもだけなんて。ママに怒られちゃう。
にいなはママに会いたくなりました。
「ね、もう帰ろうよ」
にいなが涙声でそう言おうとしたその瞬間、どこからか「にゃあ」という鳴き声が聞こえてきました。
「わっ!」
にいなとみいなは、とっさにお互いの体を抱きしめ合いました。
「でっ、出たぁぁ!」
平助は大声で叫ぶと、勢いよく先の方へ飛び去って行ってしまいました。
「なに、なに! なにが出たの!? おばけ!?」
にいなは怖くて叫びます。
するともう一度、「にゃあ」という声が聞こえてきました。
にいなはみいなの肩ごしに、声がした方をおそるおそる見ました。みいなは驚きすぎて、目を見開いたまま固まっています。
道の真ん中にちょこんと座っていたのは、真っ白な猫でした。
アイスブルーの目をした、美人さんの猫です。
にいなは猫が好きです。
「わー! 猫ちゃんだ。かわいい」
にいなは猫の方に近づいて行こうとします。
ですが、みいながにいなのコートとフードを引っ張って止めました。ぐっと首元が締まって、にいなは慌てて止まります。
「ちょっと! やめてよ!」
にいなは怒りました。
「にいな! だめだよ。モンスターかもしれないし」
にいなが危ないことをしそうになったので、みいなの機能停止が自動で解除されたのです。
「モンスターじゃないよ。猫ちゃんだよ」
にいなはへらっと笑いながら言います。
だからにいなのそういうところが――
みいなは文句を言おうとしたのですが、猫はにいなの声に頷くように、もう一度「にゃあーん」と可愛らしく鳴きました。
にいなはみいなの手を払って猫の前でしゃがむと、猫に話しかけます。一応、みいなの注意を聞いて、猫ちゃんには触らないようにします。
「猫ちゃん、あなたはどこから来たの? こんなところに一人ぼっちでかわいそう。ここに住んでるの? それとも出られなくなっちゃったの? 私たちも閉じ込められちゃったんだよね。ここに極上のきらきらしたものがあるって聞いたんだけど、どこにあるか知らない?」
「にいな。猫に話しかけても答えなんてあるわけないじゃん」
「わかんないよ。しゃべる猫かもしれないし。カラスだって、フクロウだってしゃべるんだし」
「うーん。それもそうだね。ダンジョンだしね」
みいなも猫の前にしゃがみ込んで、猫をじっと見つめます。
猫は二人を怖がることなく、お行儀よく座っています。つやつやした毛並みは、柔らかそうです。長いしっぽをゆっくりとゆらゆらと揺らしています。




