6. ライオンのドアノッカーと夜色の花 四
「そいつを口に入れたライオンの口がもぐもぐ動くから、『ああ、これは南無三だ』ってあっしは思ったんですけど、ライオンはまずそうな顔をして、ペッとそいつを放り出したんだ。そいつ、生きてはいたんですけど、かわいそうに、羽を全部むしり取られちまったんですぜぇ」
そんな話を聞いてしまったら、ますますきちんと選ばなければいけません。
でも、気軽に試すこともできなければ、どうすればいいのでしょう?
「こいつを見てくだせぇ」
平助は、おっかなびっくり、メッセージが書いてある金色のプレートの近くまで飛んでくると、クチバシで文字を突きました。
『夜色の花を食わせろ』のメッセージの下には、続きがありました。
『ただし、我が口はかくも小さき。口に入るのは一度に三つまで』
「えええ。注文多くない?」
にいなは鼻にしわを寄せます。
「でも……そうは言っても、黒色なんてないしな。これは濃い目の青だから、これでいいんじゃないの?」
みいなが少し投げやりに言います。
「あ!」
にいなはすっと立ち上がると、植木鉢から遠くへ走って行きました。
「ねえ、みいな、ここから見ると全部黒色に見えるよ」
にいながおいでおいでとみいなを手招きします。
「これだけ暗いんだから、遠くから見たらみんな暗く見えるでしょうよ。でも、ちょっと待って……そうね。絵の具は、色を混ぜるとほかの色に変わるよね。ということは、このお花も混ぜ合わせたら、違う色にならないかしら?」
みいなは考えこごをするとき、話し方がみいなのママにそっくりになります。
「そうね。たしか原色の赤色と青色と黄色を混ぜ合わせたら、黒色になるんじゃなかったかしら?」
みいなは頬に手を当てて考えます。
色の三原色は、正確にはマゼンタ(赤紫)、シアン(青緑)、イエロー(黄)の三色です。この三色を同じ分量だけ混ぜると、純粋な黒にとても近い色を出すことができます。でも、それを二人が習うのは、もう少し大きくなってから。
原色の赤色と青色と黄色を混ぜ合わせても、黒色に近い色味を出すことができます。
「にいな! そんなところにいないで、ちょっとこっちに来て手伝ってよ! 真っ赤なやつと、真っ青なやつと、真っ黄色のやつ探して!」
二人は一番色が濃そうな赤青黄の三本のお花を植木鉢から引きぬいて、ライオンのところへ持って行きました。
扉に近づくと、ライオンの口からまたグルグルグルとうなり声が聞こえてきました。
「もし間違っていたら、もしかして腕を食べられちゃうかもしれないの?」
にいなは不安げにみいなを見ました。
魔法の花を三本持ったみいなの手は震えています。
それを見たにいなは覚悟を決めて、みいなの手から花を奪い取ると、コンコンコンと輪っかを叩きました。そして、ライオンが大きく口を開けた瞬間に、「えい!」とお花を三本突っ込みました。
――むしゃむしゃむしゃ
怖い顔をしていたライオンは、うーんと考える顔をしました。そして、ぺっと花を吐き出しました。
「ああ! ちょっと! なにするの! 食べ物を粗末にしたらいけないんだよ!」
にいなは声を上げました。
「あんまり黒くなかったから、気に入らなかったのかな?」
吐き出された花の残りを見ながら、みいなは考えました。
それから何度かお花を摘んで、チャレンジしました。でも、ライオンはすべて不満そうに吐き出してしまいます。
不思議なことに、お花は何度摘んでも、またすぐに生えてきます。だから何度も挑戦することはできるのですが。
これではいつまで経っても、中に入ることはできません。
「もう怒った!」
みいなはほっぺをふくらませると、一番近くにあったお花を三本摘んでライオンの口に押し込みました。
すかさずライオンは吐き出そうとします。ですが、みいなはライオンがお花を吐き出さないように、ライオンの口の前に両手を当てます。そして、わがままを言う子どもを叱るように、言いきかせます。
「いい? ライオンさん。あなたは夜色のお花が食べたいんでしょう? 夜はね、一色じゃないのよ。日が落ちる時の空は茜色だし、明け方は白っぽい色なの。真夜中だって電気が付いていればお空は真っ黒じゃないし、曇っていたら灰色なの。だから、このお花も立派な夜色だよ。いいから、大人しく食べなさい」
にいなとみいながピーマンを残して、みいなのママが怒った時にそっくりな話し方です。
ライオンはうっと詰まった顔をして、うーんと考え混みました。そして、むしゃむしゃとお花を食べると、ごくりと飲み込みました。
二人はその様子を息を詰めて見守ります。
ライオンは、にこっと笑いました。
二人も思わず笑顔になります。
ライオンは、まるで『全部食べたよ』というように、口を大きく開けました。口の中からは、コロンと黒い玉が出てきました。
みいなは、なんだろう? と思いながら、黒い玉を手に取りました。
――ギギギギ
きしむ音を立てながら、大きな石の扉が内側から開きました。




