6. ライオンのドアノッカーと夜色の花 三
すると、鈍い金色に光るライオンが、口を大きく開けて吠えました。
――ガォォォー!
ゴォッとライオンから吹いてきた風が、二人の顔に当たります。
二人はとっさに後ろに飛びのきました。
平助は羽をぶわっと広げて、木のてっぺんまで逃げていきました。
にいなはドキドキする心臓を押さえながら、今にも飛びかかってきそうなライオンの顔を見つめました。ライオンは鼻筋にしわを寄せて、グルグルと唸っています。
「ね、見て! あそこになんか書いてある!」
みいながライオンの右隣を指し示しました。なにやら、二人の目の高さのところに、金色のプレートが貼り付いているようです。
二人はライオンの目の前を通らないように注意しながら、プレートの前に立ちました。
金色のプレートには、黒いインクで、こう書かれています。
『夜色の花を食わせろ』
「どういうことだろうね? みいな、わかる?」
「ええ、わかんないよ。ライオンにお花を食べさせればいいんじゃないの?」
二人は頭をひねりました。
こんな暗い夜に、森の中から花を探してこなければいけないのでしょうか?
「見て。植木鉢に花が咲いている」
みいながしゃがみ込みました。
ライオンの口や謎のメッセージに気を取られていて気づきませんでしたが、二人の足元にはたくさんの植木鉢が置いてありました。そして植木鉢の中には、チューリップのような形をした、色とりどりの花が咲いていました。
「この中から夜色のチューリップを探せばいいのかな? 夜色ってことは黒だよね。黒色のチューリップなんてあるかなあ?」
月明かりの下では、お花の色はあまりよく分かりません。
頭を上下左右させて、なんとか二人は黒色のものを探そうとします。
ですが、植木鉢に植えられているお花は、百本以上はありそうです。
「ねえ、この中から見つけるなんて無理だよ。もう全部さ、一本ずつ食べさせちゃえばよくない?」
みいなが一番手前にあったお花をむしり取ろうとします。
「だめだよ。お花を大切にしなさいって先生が言ってたでしょう。学校の花壇のお花がむしられちゃって、先生、すごく怒ってたんだから。それに、かわいそうだよ」
にいなはみいなを止めました。
「そっか、そうだよね。黒色のチューリップを探そう」
二人は頑張って探しましたが、黒色のお花は見つかりません。すっかり疲れ果てたにいなとみいなは、地面に座ると平助を見ました。
「ねえ、平助はどう思う?」
「あっしは学がないカラスなもんで、謎は解けなかったんでございやす。でも、こいつはチューリップじゃねぇですぜぇ。チューリップは春に咲く花なんです。それに、本物のチューリップは匂いがまったくしないし、食ってもうまくねぇ。でもこの花は、なんともうまそうな、いい匂いがするじゃねぇですか。お嬢さんたち、お気を付けなせぇ。試しに食べてみようなんて思わないほうがいいですぜぇ。匂いにつられて花弁を一ひら食っちまった仲間は、全身がその花弁の色に染まっちまった。これは魔法の花なんですぜぇ」
「さすがにお花を食べようと思わないよ。ねぇ、にいな?」
みいなは笑いながらにいなに言いました。
にいなは慌てて手を後ろに隠しました。実は、ちょっと美味しそうだなと思っていたのです。まるでツツジのような甘い匂いがするのです。
ツツジの蜜は甘くておいしいから、春になるとついつい吸いたくなります。
だってミツバチも食べてるし。それで蜂蜜ができるんだから。おいしいに決まってる。
そう思ったことは隠して、にいなはへらっと笑いました。
「それから、花を片っ端からライオンの口に入れるのはやめた方がいいですぜぇ。あっしの別の仲間は、ライオンの口に次々と花を入れようとしたら、食われちまったんですぜぇ」
「え」
二人は固まりました。




