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1.みいなとにいな 二

「そんなもの持ってるから悪目立ちするんだよ。ただでさえ私たちは――」

 みいなは、ときどき周りの大人みたいなことを言います。にいなは気にせず、きらきら石を空にかざします。


 きらきら石から光がスーッと入ってきて、にいなの顔を照らしました。

 それが眩しくて、にいなは目をつぶりました。


「カー!」

 どこからともなくカラスが飛んできて、にいなのきらきら石を奪っていってしまいました。


「あ! 私のきらきら石!」

 にいなは叫びました。

「あのカラスが持って行った! 追いかけよう!」

 みいなが指さします。

 二人は夢中になってカラスを追いかけました。


 カラスのくちばしには、にいなのきらきら石が光っています。

 いつも遊ぶ公園を抜けて、丘の上まで走って行きました。

 ですがそこで、カラスを見失ってしまいました。

 二人は肩で息をしながら周りを見渡します。カラスは何匹か飛んでいますが、もうどのカラスがにいなのきらきら石を持っているか、わかりません。


「どうしよう……」

「あっちに行ってみる?」

 泣きそうに目をぎゅっとつぶったにいなの肩を抱きしめて、みいなが聞きました。


「君たち、こんなところで何をやっているんだ? 学校は?」

 犬の散歩をしていたおじさんが、にいなとみいなに声をかけてきました。

 いきなり声をかけられた二人は、びっくりしておじさんの方を見ました。


「えっと、その……カラスが、私のきらきら石を……」

 つっかえながら、にいなは説明しようとしますが、うまく言葉が出てきません。おじさんの顔はどんどん怖くなっていきます。


「何を言っているんだ? いいから、君たち早く学校に行きなさい。もうとっくに学校は始まっている時間だろう」

 おじさんの怒ったような声に、二人は逃げ出すように学校へ向かって走り出しました。

 学校につくと、校門の前で教頭先生が腕を組んで立っていました。


「あなたたち、こんな時間まで何をしていたんですか? 授業はとっくに始まっています。お家に電話をしても、いつも通りの時間に家を出たと言うし。先生も親子さんも心配したんですからね」


 教頭先生は怒鳴るわけじゃないけど、睨むように二人を見下ろします。


「ごめんなさい。で、でも、きらきら石が――」

「にいな!」


 言い訳を始めようとしたにいなを、みいなが止めます。


「ごめんなさい」

 みいなはそれ以上何も言わずに頭を下げました。にいなもそれを見て、慌てて同じようにします。


「あなたたちときたら、まったく。お母様方にご連絡をしても、話が通じているのかもわからないし。これだから外国の子は。それにその髪の毛、本当に染めていないの?」


 頭を下げているにいなの隣で、みいなの体がびくりとはねました。みいなは姿勢を正すと、教頭先生を睨みながら言いました。


「この髪の毛は地毛です。通っている美容院からも、この髪の毛は地毛であり、カラーリングは一切していないという証明を学校に提出しています」

 まるでセリフを棒読みにしたように、みいなは一息に言い切りました。


 隣で聞いていたにいなは、鼻にしわを寄せました。


 いつも、いつも、いろいろな先生や学校の人に、この髪の毛は本物の毛なのかということを聞かれるのです。


 にいなとみいなのお母さんたちは双子で、ヨーロッパの寒い所の出身です。二人は、きらきら光る金の髪色をしています。だから、にいなもみいなも、お母さんたちと同じようにきらきらの金髪です。いえ、お母さんたちよりもっと色が薄いです。プラチナブランドと言うのだそうです。

 染めたことなんか一度もないけど、どうしてもそれを信じられない大人たちが、本当に地毛なのかと何度も聞いてくるのです。


『なんでお母さんより薄い色なの?』とクラスの子にも聞かれますが、子供の頃はそういうもので、大人になったらもっと濃い色になると答えても、『ふうん』としか返ってきません。


 だから、にいなとみいなは、おばさんがやっている美容院で、証明書というものを発行してもらっています。『この髪の毛は地毛です』という証明です。


 みいなは、もう面倒くさいから黒髪に染めたいと言います。でもにいなは、このきらきらの髪色が好きでした。

 大好きなママと一緒の髪色です。

 みいなのママは、にいなのママと双子だから、みいなママも、みいなも、みんな一緒の髪色です。

 北国に住むおじいちゃん、おばあちゃん、おじさん、おばさん、いとこも、みんな透き通るような肌に金髪で、瞳は緑に近い青色をしています。


 そして、瞳の中には、星がきらめいているのです。


 にいなとみいなの瞳の中にも、このきらきら星はあります。それを見るたび、にいなは、北国のまっ白な世界を思い出して嬉しくなるのですが――



 教頭先生にたっぷりと叱られて、にいなはしょんぼりしながら教室に入りました。後ろからこっそり入ったのに、クラスの男子がにいなを目ざとく見つけて、からかってきます。


「なんだよお前、不良かよ。髪を染めるような奴はヤンキーだって母ちゃんが言ってた」

「染めてないし!」

「その目もカラコンってやつだってうちの母ちゃんが言ってたぞー」

「そんなのしてないし!」


 にいなはムキになって言い返しましたが、周りの子もくすくすと笑うだけで、誰も助けてくれません。

 先生はその様子を黙って見ています。

 にいなは悔しくて寂しくて、自分の席に座ると、うつむきました。


 あのカラス、絶対に許せない。絶対に捕まえてやるんだから。


 にいなはノートを開くと、カラスを捕まえる完ぺきな罠の計画を書き始めました。

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