5. カラスの女王様 四
「何を言ってるんだい。これはアタシのもんさ。手下が働き分として持ってきたやつだよ。あいつは最近生ぬるいことばっかりしているからねぇ。ちょいとこらしめてやったんだよ。そしたら二日続けて、まあまあなものを持ってくるじゃないか。そうかい、コレはお嬢ちゃんのものだったんだねぇ? じゃあ、まだまだあんたの家には、良いものがあるかもしれないねぇ? これから何度か、お邪魔させてもらうかもしれないねぇ? カカカ」
「うちに来ちゃだめっ! うちのきらきらしたものも、ぜったいにあげないんだから! やめてよ!」
「おだまり! 子犬がきゃんきゃんとうるさいんだよ。カラスは犬が嫌いなんだ。あいつらはいつもアタシらのことを追いかけて、うっとうしいったら、ありゃしない。このまま食っちまいな、あんたたち」
それまでおとなしくしていたカラスたちが、一斉に二人に襲いかかってきました。
その拍子に、かぶっていたにいなのコートのフードが取れてしまいました。
「やめてよ! こっちに来るな!」
にいなが振りかざした手が、カラスの頭に当たりました。そのまま吹っ飛んでいったカラスは、女王様の顔にヒットしました。
「あんたたち! なにをやってるんだい! しっかり狙いな! ……て、おや、おや、おや。ちょっとお待ち。やめなって言ってるんだよ」
カラスの女王様が怒りにまかせて叫んだかと思うと、急に猫撫で声を出しました。
カラスたちはすぐに攻撃をやめて、後ろに飛び退きました。
カラスの女王様は、一歩一歩、ゆっくりとにいなたちの方に近づいてきます。
「おや、おや、おや。これはまあ、なんてことだろうねぇ。こんな偶然、いや奇跡か? もしかして、もしかすると、これは。大当たりもしれないねぇ」
カラスの女王様は、てっぷりと太ったおなかを揺らしながら、にいなとみいなの目の前まで近づいてきました。
二人が後ずさろうとしても、後ろに大勢いる小さなカラスたちがそれを許しません。
にいなとみいなは手を取り合って震えました。
カラスの女王様は、二人の前にゆっくりと顔を下ろしてきます。
このまま踏みつけられたら、ペシャンコになりそうなほど、女王様は大きいのです。
にいなは思わず目を閉じました。
「そのブサイクな顔をよく見せてみな」
「ブサイクじゃないもんっ!」
いつも男子たちにからかわれているにいなは、とっさに女王様を睨んで叫びました。
「おだまり! 子犬が! ふふふ、これは、これは。もしかするかもねぇ」
にいなの目には涙があふれてきます。にいなはまた目を閉じました。
「目玉を突つかれたくなかったら、その目を今すぐ開けな」
女王様のドスのきいた声に、にいなは慌てて目を開けると、女王様を見ました。
真っ黒な大きな目が、にいなを見返します。その黒は、まるで夜の闇をとかしたような色でした。
体の芯から震えが沸き起こってきます。
怖い。この目は怖い。
このまま吸い込まれたら、一生出てこれない気がします。
女王様がゆっくりとくちばしを開けました。
このままがぶりと頭から食べられてしまうのでは、とにいなは思いました。
ですが、女王様は猫撫で声を出して、にいなたちに話しかけました。
「あんたたち、瞳にきらきら星があるね。もしかして姉妹かい?」
にいなは首を横に振りました。
「従姉妹です」
震える声でみいなが言いました。
みいなは、にいなを自分の腕で後ろに押して、女王様とにいなの間に距離を開けようとしています。その分、みいなが女王様に近くなります。
みいなが、にいなをかばってくれているのです。
みいなは、いざというときは、いつもにいなを守ってくれます。




