5. カラスの女王様 一
ゴー! という風の音が、耳のそばでします。いつのまにか、にいなとみいなは頭が下になって、空の上から落ちているようです。フードが頭にぎゅうぎゅうと押し付けられて、耳のそばでバタバタと揺れます。
どれくらいの間、落ちているのかはわかりません。落ちるスピードがどんどん早くなっている気がします。にいなとみいなは怖くなって目をつぶりました。
もうだめだ、と思ったときのことです。
ふわっと下から風が吹いて、にいなとみいなの体を包みました。目はつぶっていますが、なにか明るい光が差し込んだような気がしました。下になっていた頭が起きて、眠っているときと同じ、横たわる姿勢になったような気がします。
でもそれも一瞬のことです。目を開けようとしたら、また落ち始めました。
――ひゅるひゅるひゅるひゅる
――ポヨン
――ポン
――ポン
みいなとにいなは、柔らかいトランポリンのようなものの上に落ちました。
にいなは、落ちた勢いで二、三度、ポンポンと飛び上がりました。
そして、最後にぽふっと着地しました。
にいなは口をぽかんと開けたまま、仰向けになって空を見上げました。
木々が生い茂っている中で、この空間だけ、ぽっかりと穴が開いているようです。
空には満天の星がきらめいています。
キラッと光の筋が流れました。
あ、流れ星だ。
考えることは他にもある気がしますが、真っ先に頭に思い浮かんだのはこの言葉でした。にいなは、声にならないまま、唇だけで『流れ星だ』とつぶやきました。
「いたたたた」
にいなのすぐ近くで、みいなの声がします。
「みいな! 大丈夫? 」
にいなは勢いよく起き上がりました。そのひょうしに、みいなの頭に自分の頭を思いっきりぶつけてしまいました。周りが暗くて、よく見えなかったのです。
がつん!
にいなの目の前で星が飛びました。
にいなはうめき声を上げて頭を押さえました。
「にいな、何するの!?」
「ごめん! だって、こんな近くにいると思わなかったから。みいなだって、私がどこにいるかわかんなかったくせに!」
「周りくらいちゃんと見てよ。まったく、にいなはいっつも慌てん坊な――」
言葉を続けようとしたみいなが、途中でピタリとしゃべるのを止めました。
ざわざわざわ
ざわざわざわ
周りで何かが揺れている音が聞こえます。
――ワオーン
遠くからは、犬の遠吠えが聞こえてきます。
にいなとみいなは、けんかをしていたこともすっかり忘れて、お互いにしがみつきました。
体がふるふると震えるのは、寒さのせいだけではありません。
――ざわざわざわ
――ざわざわざわ
「なんの音?」
「葉っぱが揺れてるとか?」
二人は内緒話をするように、耳元でこしょこしょと話しました。
『ざわざわ』は、葉っぱの音とは少し違うような気がします。
もっと、なんか、生き物が動いているような。
にいなはみいなの肩越しに、おそるおそるあたりを見渡しました。
真っ暗な空間に、無数のビー玉のようなものが光っています。
――ざわざわざわ
――ざわざわざわ
みいなが息をのむ音が聞こえます。
みいなはにいなの体をきつく抱きしめました。背中からは冷たい汗が伝わり落ちました。
――ざわざわざわ
――ざわざわざわ
「おや、おや、おや。こんなところに、かわいいお客さんかい。私のふわふわのベッドにわざわざ落っこちてくるんだ。よっぽど何か用があったんだろうねぇ。ねぇぇぇ? お嬢ちゃんたち」
ギラギラ光るビー玉から目が離せないにいなの耳に、おばあさんのしわがれた猫なで声が聞こえてきました。




