4. 雲のじゅうたん 三
ふっくんの話を聞いて、にいなは考え込みました。
あのかわいそうなカラスは、ひきょうな手を使って、にいなのことを騙したのでしょうか?
にいなは、ううん、それは違う、と首を振りました。
あのカラスは、ほんとうに苦しそうだったと、にいなは思うのです。だからきっと、にいながほんとうにきらきら石を返して欲しいと思っていることを知ったら、返してくれると思います。
それに、にいなには一番の味方であるみいながいます。
なにがあっても、みいなと一緒なら大丈夫。
にいなは、振り返ってみいなを見上げました。
みいなは、仕方ないなあという顔をしています。
「私は騙されないよ。騙されるとしたら、にいなのほうでしょ。いい? しっかりするんだよ、にいな。そもそも、しゃべる動物なんて普通はいないでしょ」
みいなは、にいなに言い聞かせました。
「でもあのカラスはしゃべったよ! うそじゃないもん。それに、ふっくんもしゃべるでしょ」
にいなは手をぶんぶんと振り回しながら言います。
またバランスを崩されたらたまらないみいなは、にいなを睨みます。にいなは首をすくめて大人しくなりました。
「おいらは世界で一番賢いフクロウになるんだから、人間の言葉なんて朝飯前だぞ!」
ふっくんはえへんと胸を張ります。
「ふっくんは、えっと、れい、れい……? 例外ってやつだよ! 他にしゃべる動物なんて、今まで見たことないもん」
みいなは言い張ります。
「おいらは、自分の力でしゃべれるようになった賢いフクロウだぞ! でもカラスのギャングは……これは内緒だぞ、みいなとにいなだけに教えてあげるんだからな。なんと! 摩訶不思議な力をあやつるらしいぞ!」
「ええ! すごい!」
「なにそれ、あやしい」
「どんな力なのかは、おいらもよく知らないんだ。風のうわさで聞くだけだからな。でもうわさによると、カラスの目からビームが出たり」
「ビーム!」
「えー」
「鳴き声を聞いたら呪われたり」
「呪い!」
「うそっぽい」
「人間の子どもを一口で食べちゃったり」
「一口!」
「無理でしょ」
ふっくんから聞かされるおそろしい話に、にいなは震え上がります。
みいなは、強がって、わざと冷めた返事をします。
「にいな、落ち着いて。ただのうわさでしょ。ふっくん、あんまり、にいなに変なこと言わないで。この子、なんでも信じちゃうんだから。まったく。帰れないんだったら、急いで行こうよ」
みいなはほんとうは自分も怖いと思いましたが、怖がっているにいなのために、しっかり者のお姉ちゃんになります。
そして話を終わらせるために、ふっくんを急かしました。
「よしきた! じゃあ超特急で進むぞ。しっかりつかまっておいてくれよ、にいな、みいな」
ふっくんはスピードをぐんぐん上げていきます。
にいなとみいなは必死でふっくんにしがみつきました。
もう! みいなったら、余計なこと言って!
にいなはみいなにそう文句を言ってやりたいですが、強風が口の中に入るので、にいなは口を開くことができません。
ふっくんは雲のじゅうたんの上をスイスイと進んでいきます。ときどき雲が途切れて下が見えたり(真っ暗でした。海でしょうか?)、遠くで稲妻がピカッと光るのが見えます。
どんどん雲行きが怪しくなってきました。
ゴロゴロと雷の音がしたかと思うと、ザーッ! と叩きつけるような雨の音が聞こえてきます。
厚い雲のじゅうたんの下は、大雨のようです。
風が上から下から、吹いてきます。
ふっくんは大きな羽でうまくバランスを取ると、力強く前へと進んでいきます。
やがて雨の音が消えて、辺りはしーんと静まり返りました。
「そろそろ着くぞ! 下降するからしっかりしがみついているんだぞ!」
ふっくんが大きな声で言いました。
これ以上、もう強くなんてしがみつけないよ! という言葉は、にいなの口の中に消えました。
いきなりふっくんが、下に落ちていったのです。
「しまった! 乱気流にさらわれた! 落っこちるぞ! わあ!」
ふっくんが叫びます。
にいなは、『乱気流ってなに!?』と思いながら、声にならない悲鳴をあげました。
後ろからはみいなが、にいなのお腹と肩をぎゅうぎゅうと抱きしめてきます。
ジェットコースターの一番高いところから下に落ちる時のように、体がふわっと浮きました。それから、二人の体は一気に下に落ち始めました。




