19. 世界の鍵 五
「お嬢さん方、素手で触ったら危ないですぜえ!」
平助はあわあわしています。
「でも平助、さっき味見したでしょ」
「……そいつはそうでございやすね。大変美味でございやした」
平助もくちばしでちょいっと世界の玉を突いてみます。
「かあー、こいつはなんとも言えねえ感じだ。神々しいですねえ」
「ね、神々しいってなに?」
にいなは聞きました。
「えーっと、そいつは……その、こう、ぴかーっと光る感じ……ですかねえ。あっしは学がないカラスでございやすから。ふっくんさん、お願いしやす」
「平助の言うとおりだぞ。ぴかーって感じだ」
上の空でふっくんが答えました。どうやら何かを考え中のようです。「ええ。ほんとう?」とみいなが聞いても、「ほうほう」という鳴き声が返ってくるだけです。
「みんな! 遊ぼう! 遊んでたら、きっともっと小さくなって鍵になるよ!」
にいなは張り切ってみんなに呼びかけます。
「うん、いいアイディアだと思うぞ。それから、『こういう世界にしたい』って願い事を言うといいと思うぞ!」
ふっくんは指示書の『望む世界を描き出せ』の部分を読み上げました。
「じゃあ、私からね! 私は、楽しいことがたくさんある世界がいい!」
そう言いながら、にいなは世界の玉をぽーんとみいなに投げました。
「えっと、なんだろう。志を高く持たないといけないんだよね? そんな立派なお願い事、ないよ……」
みいなは戸惑ったように世界の玉を見つめます。
「そんなに難しく考える必要はないと思うんだぞ。みいながこうしたいって思う世界でいいんだと思うんだぞ」
「でも、だって……私が変なこと言って、変な世界になっちゃったら……」
「これはみんなで作る世界なんだぞ。みんなの願いがちょっとずつ形になっていく世界なんだ。だからみいなが望むことを口に出していいんだぞ」
「そうだよ。だって私たちが作る世界なんだもん。私たちが楽しい世界にしようよ」
「わかった。じゃあ、ちょっと考える。にいな、私も科学者のコート脱ぐから、ちょっと持ってて」
みいなはにいなに世界の玉を渡して、コートとゴーグルを脱ぎます。よしっと気合を入れて、みいなは世界の玉を掴みました。
「私も楽しい世界がいい!」
みいなはそう言って世界の玉を投げようとしましたが、にいなからストップがかかります。
「それはもう私が言ったからだめ」
「なんでよ。何でもいいって言ったじゃん」
「まあまあ、二人とも。外国のことわざにも、『変化は人生のスパイスだ』って言葉があるんだぞ。もっといろいろお願いしていいと思うんだぞ」
ふっくんは外国のことわざもよく知っているようです。やっぱり国語のテストの時に来てもらおう、とにいなは思いました。
みいなは眉間にしわを寄せながら、うんうんとうなります。
「じゃあ……じゃあ、えっとね、ママがあんまり怒らない世界がいい!」
みいなは平助に世界の玉をぽんと投げました。
平助は慌てて世界の玉をくちばしで掴みました。そして、「あっしは、うまいものがたくさん食べれる世界でがいいでございやす!」と言って、ふっくんに世界の玉をパスしました。
「よし! おいらは、ワクワクするような冒険がたーくさんある世界がいいぞ!」
ふっくんは猫に世界の玉をパスしました。
「にゃー、にゃにゃにゃにゃにゃーん」
猫は世界の玉を持ってくるりと回ると、にいなの足元に世界の玉を転がしました。
「うーんと、楽しいことでしょう? おいしいものでしょう? ママが叱らない世界でしょう? あと、わくわく冒険するでしょう? そしたら……あ! お菓子の家がある世界がいい!」
にいなはみいなに世界の玉を投げました。
「えー、もう回ってきちゃったよ。ちょっと待って。そんなにすぐに言われても。えっとね。じゃあ宿題が少ない世界がいい!」
空がきれいな世界
月がきれいな世界
安全に休める森がある世界
マンモスのお肉みたいなお肉の塊が食べれる世界
夏休みがすごく長い世界
みんなでそれぞれ理想の世界を出し合いました。
願いを込めて次の人にパスするたびに、世界の玉はどんどん小さくなっていきます。




