19. 世界の鍵 四
それもそうかもしれない、と二人は世界をこねました。手で広げて、平にして、折りたたんで、また手で広げる。それを繰り返すと、世界はどんどん艶を増していきます。
やがて、世界は占い師が持っている水晶玉のような形になりました。
「おおー!」
二人は世界の玉を見つめます。
本物の占い師の水晶のように、世界の玉からは何かが見えてきそうです。玉の中をゆったりと動いている何かは、闇か、光か、それともきらきらか。中心にあるものが見えそうで見えない、形が分かりそうで分からない不思議な世界の玉に、二人は釘付けです。
二人は向き合ってお互いの顔を見ました。にいなの無言の訴えに、みいなは無言で首を振りました。そして、二人同時に、自分の拳を握り締めます。けんかをするつもり――ではなくて、どっちが先に占い師ごっこをするかじゃんけんで決めるつもりです。
「最初はグー、じゃんけん――」
二人が拳を出そうとしたその時です。猫が世界の玉に飛びかかっていきました。世界の玉はころころと転がります。転がった玉にまた猫が飛びつくと、調味料のつぼがかしゃんと音を立てて揺れました。
「ああ! 猫ちゃん、だめだよ。それは遊んじゃいけないやつなの!」
占い師ごっこをしようとしたことなどすっかり忘れて、にいなは猫を注意します。
でも猫はそんなのどこ吹く風です。試験管を器用に潜り抜け、世界の玉に向かってジャンプ! したところで、猫は勢い余ってフラスコに突撃。フラスコは中の液体をこぼしながら、床に転がっていきそうになります。
みいなは慌ててフラスコを掴み、にいなは慌てて猫を抱き上げました。
「にゃー!」
猫が口を大きく開けて抗議します。鋭い牙でにいなの手を噛む振りをして、ちょこんと甘噛みしました。全然痛くないやつです。
「もう! 猫ちゃん! ここで遊んじゃ、めっ!」
にいなは怖い顔をして猫に言い聞かせます。ですが、猫はするりとにいなの腕から逃れると、床に落ちた世界の玉とじゃれつきます。
「世界に猫の毛が付いちゃうよ」
みいなは猫と世界の玉を追いかけますが、なかなかすばしっこくて捕まえられません。あっさりと諦めたみいなは、机の端に腰かけました。
「まあ、いいか。猫のいる世界のほうが面白いもんね」
みいなはふうと息を吐きます。
それもそうかと、にいなは猫と一緒に世界の玉で遊ぶことにしました。
猫もにいなを遊び相手として認めたのか、世界の玉をパスしてくれます。にいなはそれをキャッチして、猫の方に転がします。
しばらく遊んでみると、先ほどより少しだけ玉が小さくなってきている気がします。
にいなは世界の玉を持ち上げてみました。さっきは両手で掴んでも指が触らないくらいの大きさだったのに、今は右手と左手の中指がくっつくくらいのサイズになっています。
猫が背を伸ばして世界の玉を催促してきます。
にゃー、にゃーにゃー、貸してー、と言わんばかりりに、前足でちょいちょいとにいなの白いコートを引っ掻きます。
「うーん、ちょっと待ってね。なんか、これ、ぽよんぽよんする」
にいなは世界の玉を床に落としてみました。跳ね返った玉は、にいなの背丈より高く上がりました。
興味をそそられたみいなも、平助も、ふっくんも、ぽんぽん跳ねる世界の玉に近づいてきました。
「わあ、おっきいスーパーボールみたい」
「かーっ、世の中には不思議なものがありますねえ」
「新たな変化を遂げたぞ! 世紀の大発見だぞ!」
遊んで暑くなったにいなは、白いコートを脱ぎました。蒸れてむずむずするゴーグルも、汗でぴたっとくっついたグローブも、えいっと脱いでしまいます。
にいなは素手で世界の玉を触りました。その感触といったら!
「お餅のアイスのみたい!」
にいなが大好きな、バニラアイスがお餅に包まれている冬のお楽しみのアイスにそっくりです。表面に白い粉がかかっているのがポイントで、手で摘むとさらっとした粉雪のような感じが楽しいくて、ついつい触りたくなります。中のバニラアイスが少し溶けてきた頃が食べどきです。世界の玉はまさに食べどきのお餅のアイスと同じ状態です。
「ええ、まさかあ」
みいなはそう言いながらも、グローブを脱ぐと指先でちょんと世界の玉を触ってみました。
ほんとだ! と目を丸くします。




