公爵令嬢でも改心した悪役令嬢でもない下級貴族の私が王子様の心を掴みます
新作です。
よろしくお願いします!
どうしてこんなことになったのかしら。
いくら前世では、バリバリのキャリアウーマンで緊急案件の対応や悪質なクレーム対応など様々な出来事をいくつもこなしていた私でもこの状況は、流石に理解ができずに混乱してしまう。
はぁ、頭が痛くなってきた。目の前には、絶世の美男子がにこやかな笑みを浮かべている。
「リリア、僕は君と踊りたい。この手を握ってくれないか?」
前世では夢にまで見た王子様にお願いされるこの状況。正直すごくカッコいい。
きっと私以外の女子は、両手を上げて喜ぶに違いないと思う。でも今は周りの女性達の目線が怖くて純粋に喜べない。
ああ、一体どうすればいいのかしら…。
時は数時間前に遡る。
ー・ー・ー
「憎たらしいぐらい豪華ね、さすが国を挙げてのダンスパーティだわ」
100周年を迎えるセントラル国において、国の生誕を祝うために国中の令息、令嬢を集めてダンスパーティが行われている。男爵令嬢でもある私ももちろんこのパーティに呼ばれていた。
「ほんとそうよね!……あ、リリア、見てあそこ!ライン王子が女性たちに囲まれてるわ!」
隣で興奮気味に話しかけているのは、セントラル学園に一緒に通っている友人のサリカ。同じ男爵令嬢であり境遇も似ていることからすぐに意気投合した親友だ。
それにしてもサリカの言う通り、本当にすごい人数の女性に囲まれてるわね…。
あ、あの人は公爵令嬢であるラビーナ様だわ。銀色の腰まで伸びてる髪を靡かせていて噂に違わぬ美しさね。普段の学園でも身分が離れすぎてて関わったことはほとんどないけれど、見た目はまさに清楚で可憐でも聖女と言われるのも納得だわ。でも内面はあまり良い噂は聞かないのよね。まあ、それは前世でもよくあることか。女性は表と裏で顔を使い分けるもの。
「さすがライン王子よね。まあ私とはあまりに接点のない高嶺の花のような存在だし関係ないわね。」
今回のダンスパーティは、男性と女性がペアを組み踊る催しであるため、人気の男性や女性には異性からのアプローチがすごく来る。
しかもライン王子に関しては、今回のパートナーが許嫁になるんじゃないかっていう噂もあるみたいだ。 他にも今回のパーティを通して、将来の伴侶を探す子も沢山いると思う。悲しいことに下級貴族の私にはそんなアプローチはこないのだけれども。
「そうかもしれないけど〜、でもやっぱりライン王子は素敵だわ。リリアぐらいよ。ライン王子に全く興味を示さないのは」
「私は権力や見た目とかよりも性格とか雰囲気を重視するの。サリカはカッコいい幼馴染がパートナーに決まってるからいいけど、私は探さないといけないから早く行くわよ」
「カッコイイって…。あいつはそんなにカッコよくないし…!」
「はいはい、惚気顔ご馳走様です。ほら行こう!」
「もう惚気てなんかないし〜!」
サリカは同じ男爵家の御子息の子で昔から仲の良い幼馴染がいる。私から見てもお似合いで、明らかに両想いなのにも関わらず、未だにお付き合いしてないそうだ。お互いの家族も公認の仲の良さなので、今回のダンスパーティを機に関係が進むことを親友としても望んでいる。頑張りなさいよ、サリカ。
それにしてもライン王子達を見ていると前世を思い出してくるわね…。
前世において、嫌というほど見た目が良い男や金持ち男性に引っかかった私はもう絶対に見てくれや権力に靡かないことを誓っている。
あ〜、思い出すだけで腹が立つ。男はやっぱり優しさよね。
「待ってよ〜、リリア〜!」
なんてことを考えながら歩いていたら、いつのまにか親友を置いて随分と歩いてしまったらしい。後ろで微かにサリカの声が聞こえる。
「ごめん、ごめん。考え事してたら......キャッ!」
サリカに声をかけようと振り向いたところ、衝撃を感じ思わず声が出てしまう。
「っ、すまない。大丈夫でしたか?」
「こちらこそごめんなさい。私の、不注意、で、、え、、!?」
誰かとぶつかったことがわかり、ちょっとした注目を浴びることに羞恥心を感じながらも慌てて、私も謝ろうと声をかけながらぶつかった人を見上げる。そこで本日2度目の思いがけない声を出してしまう。だってそこには先ほどまで、女性達に囲まれていたライン王子がいたのだから。
「ごめん、びっくりさせたかもしれないね。とりあえず怪我はないかい?」
「あ…はい。怪我はしてないです」
なんだこのイケメンは!?
顔はもちろん前世にいたアイドルにも負けないぐらいカッコいいが、自然と相手を労わりながら、手を差し伸べる姿には、もはや後光が差してるかのように見える。
前世の年齢も入れたら、それなりの年齢なのに不覚にも緊張している自分が恥ずかしい。
「なら良かった。ごめんよ、急いでて前を見てなかった」
その笑顔はやばい、これは令嬢を虜にするわけだわ。前世ならファンクラブができるわね。いや、似たようなものは今の世界でもできてるか。
「いえ、私もなので。それよりも急いでるとのことですが大丈夫ですか?」
「ああ!そうなんだよ、きっともう後ろに、、」
ライン王子がそう話しながら後ろを振り向くのに合わせて、私も後ろを振り返る。
わ、沢山の令嬢達が首を左右に振って王子を探しているのが見えた。
「あ、居たわよ!」
「待ってライン王子〜!」
「わ、見つかった。……僕はガツガツ来られるの苦手なんだけどな…」
ぼそっとライン王子の言葉が聞こえてしまう。へぇ、ライン王子はガツガツ系が苦手なのね。見た目の通り草食系って感じってわけね。サリカに伝えとこうかしら。
まあ今は私とぶつかったことによって王子も見つかってしまったわけだし、少し手助けを行いますか。
「王子、ちょっと失礼します。《スパリム》」
「この魔法は…?」
「これは、私のオリジナルの魔法で少しだけ足が速くなる魔法です。昔から魔法は少し得意でして…。王子にご迷惑をおかけしたのでこれぐらいさせてください」
「すごいな、オリジナルの魔法か!ありがとう。恩にきる」
「いえ、本当にお気になさらず。早く行かないと追いつかれちゃいますよ」
後ろからの声がどんどん大きくなるのを感じたため、王子に声をかける。それにしてもすごい形相ね…。令嬢にあるまじき顔をしてるけど大丈夫なの?なんてどうでもいいことを思った。
ちなみに私は、前世でよくRPGのゲームをしていたため、魔法のイメージが付きやすく学園では魔女の異名を持つちょっとした有名人でもある。
「ああ、この恩は必ず返す。ありがとう。またあとで」
そう言いながら颯爽と走り去る王子の後ろ姿を見送る。え、ちょっと待って。またあとで?
この後は、食事会の後にメインのダンスがあって終わりのはずだけれど、、、まさかね…。
「あなた、ライン王子と話しておりましたわね?どこに行かれたかご存知で?」
そうこうしてると、王子を追っていた女性達の集団が私の元にやってきた。先頭にいた公爵令嬢であるラビーナ様が声をかけてきた。ちょっと威圧的でやっぱり苦手なのよね…。
「はい、先ほどライン王子とぶつかってしまい謝っておりました。どこに行かれるかは聞いておりませんのでわかりません」
表用の言葉遣いを使い無難にやり過ごそう。そう思っていたらバチが当たったかのように聞きたくもない声が聞こえてきた。
「あれ〜、どこの誰かと思ったら、田舎貴族のリリアじゃない!ライン王子にぶつかるなんて羨ましい、、じゃなかった。ほんとに不届き者ね」
「はぁ〜、また面倒なやつに絡まれたわね…」
思わずこめかみに手を置いてしまう。私に声をかけてきたのは、学園でも同じクラスの子爵令嬢であるルイーダ。赤髪のショートの髪型をしており、見た目は可愛らしい。ただ、自分よりも下の身分である令嬢達にはいつも上から目線で絡んでくるのよね。
特に私にはことあるごとに絡んでくる。おそらく以前、魔法の授業でコテンパンにしたのが原因だと思う。結局私のせいか。
「おや、ルイーダさん。この女性のことをご存知なのですね?」
「は、はい!この女は魔法が少し得意だからっていつも学園で威張っているのです!今もライン王子にぶつかったのもわざとかもしれません!」
な、こいつ、嘘ばっかり話して!…不味いわね。公爵令嬢であられるラビーナ様を敵に回すと、これからの学園生活にも影響が出るわ。
「そうなのですの!?なんて酷い人なのかしら。あなたのような人がライン王子と話すのも烏滸がましいわ」
ちょっと!こっちの話を一言も聞かないで、そんな簡単に信じるわけ!?きっと私がライン王子と話したのが気に入らないから、公の場で貶そうとしてるってわけね。
仕方ない。多少目立つのは覚悟して…
「リリアはそんなことしません!!」
私が諦めて言い返そうとしようとした瞬間に親友の力強い声が聞こえてきた。
ありがとう、サリカ。多勢に無勢だったため少し安堵した。
「急に出てきましたけど、あなたは誰ですの?」
「わ、私はリリアの親友のサリカです…!リリアはちょっと毒舌で愛想はあまり良くないけど、とっても良い子なんです…!」
「途中ちょっとマイナス要素入ってなかった!?」
サリカの言葉に思わずツッコミを入れてしまった。でもサリカが来てくれたおかげで形成が逆転したように感じる。
「ほんとかしら〜?貴方も男爵令嬢ですし仲間意識があるだけじゃないですの?」
こいつ、まじでムカつくわね。
おっと、前世の時の性格が出そうになってしまったわ。気をつけないと。でもニタニタ顔のルイーダを見てると気分が悪くなるわね。
一発魔法でも当てようかしら?
「まあ、今回はサリカさんに免じてお互いここまでといたしましょう。私たちはライン王子を探さないといけませんし」
「ラビーナ様がそうおっしゃるなら…。あなた達、ラビーナ様の寛大なお心に感謝しなさいよね!」
まるでボスの取り巻きのようなセリフ吐きながら、ルイーダ達は立ち去っていった。
そっちが絡んできたんじゃない!って言ってやりたい気分だったけど、ここはおとなしく引き下がるしかないわね。これ以上絡むと周りの目も気になるし。
「リリア大丈夫だった?」
「ええ。ありがとね、サリカ」
「それにしてもルイーダのやつ、感じ悪いわね!それにラビーナ様もあまり関わったことなかったけど、腹黒い感じがビンビン伝わってきたわ」
自分のことのように怒ってくれてるサリカを見てると本当に良い親友を持ったなと思う。前世の時から人付き合いが苦手な私は、今世でも魔法に没頭したり変な人扱いされることもあったけどサリカだけはずっと友達でいてくれてる。
サリカとの友情を改めて感じつつダンスパーティの会場に移動した。
ー・ー・ー
「それにしてもここの食事は美味しいわね」
「リリア〜、食べてばかりいないでダンスのパートナー探すわよ!もうあと少しでダンスが始まっちゃうわ」
「私はもう半分諦めてるわ。だって男爵令嬢と踊りたいっていう男性は少ないし、何より私は変な人扱いされてるし」
「む〜、リリアは綺麗だし優しい子なのに皆んな全然知らないんだもん…」
「そう言ってくれてありがとうサリカ。そういえば、サリカのパートナーさんはどこにいるのかしら?」
「彼は他の貴族の方達との顔繋ぎをしていて忙しいらしいわ。やっぱり次期当主ともなると大変なんだって」
「そうなのね、次期当主の奥様になるサリカも将来こういうパーティに色々と参加しそうね」
「ちょ、ちょっと何言ってるのリリアは…!まだ、奥さんになるなんて決まってないし……」
顔を真っ赤にして下を向いているサリカを見て、本当に可愛いなって思う。親友として、絶対に幸せになって欲しい。
こうしてサリカをからかいながら2人で食事を楽しんでいると、後ろから男性の声が聞こえてきた。
「ああ、やっと見つけた」
振り向くとそこには側近を連れたライン王子がいた。
私の頭の中で警報が鳴り響く。これは前世の経験も含めて嫌なことに巻き込まれる気しかしない。
「ああ、ライン王子。さっき以来ですね。…いかがされましたか?」
「さっきのお礼もしたいし少しだけ話さないかい?」
「え、っと」
「え、ちょっとライン王子に話しかけられたのよ!こんなチャンス滅多にないよリリア」
サリカの一言により、私とサリカとライン王子の3人で食事をすることになった。ちなみに王子の側近の方は少し離れたところで食事をしている。
ーーやっぱりすごく見られてるわね。
そりゃあ、この国の王子様がパーティの中で男爵令嬢2人と一緒に食事をしているとなれば注目を浴びるのも必然か。
それにしてもさっきのお礼をしたいって来たけど、さっきからずっと私たちに質問ばかりしてるわね。
「好きな食べ物は何なの?」やら「普段は何をしてるの?」など、私達のことを知っても楽しくないと思うけど話している間、ずっとライン王子はニコニコしている。
普段話さない身分が下の人との話は新鮮で楽しいのかしら?私も前世でも類を見ない見た目も中身もイケメンのしかも王子と話せるのは純粋に嬉しい。けど、どうしても周りが気になってしまう。
ほら、あそこの辺境伯令嬢や伯爵令嬢なんてすごい目でこっちを見ている。いや、睨んでいるって言った方が正しいかも。
うん?なんかこっちに近づいてる気が、、、いや気のせいじゃないわね。しっかりとした足取りで私達の前に来た。
「これはこれは珍しい組み合わせですわね。皆様。私も混ぜていただいても?」
この返事に私とサリカは沈黙するしかない。貴族社会の暗黙のルールとして、この場で1番身分の高いライン王子が代表して答える必要があるからである。
だからこそ、優しいライン王子はこの質問に対して承諾すると私は思った。
「ごめん。今はリリアさんとサリカさんと3人で話してるからまた別の機会で話す形でもいいかな?」
え、断るの!?どうして?しかも今回声をかけた令嬢は、辺境伯令嬢のフリーア様なのに。
噂によると、フリーア様はライン王子とは幼い頃から関わりがあり、昔は権力にものをいわせて所謂、悪役令嬢のようなことをしていたらしい。けれどライン王子に諭されて、今では平民にも優しい女神のような方と言われている人物になった。
ちなみになんで私がこんなに詳しいのかというと、前世の記憶もあった私は、リアル悪役令嬢だと興味が湧き独自で調べたからに他ならない。
でもそんなフリーア様のお誘いを断るなんて、ライン王子はどういうつもりなのかしら。
「そ、そうでしたか。無理なお誘いをしてしまい申し訳ございませんライン王子。それではこの食事会の後のダンスパーティの時にまたお願いいたしますわ」
「ああ、すまないねフリーア」
「よろしいのですか…?フリーア様とお話しされなくても」
サリカが心配そうにライン王子に尋ねた。私もライン王子に聞こうと思っていたため、2人の会話に耳を傾ける。
「ああ、今は君達と話したかったからね。それにフリーアとは学園でも話せるしね」
「そうでしたか。ちなみにライン王子は…」
サリカが納得を示し、そこから王子とサリカの2人が話をし始める。私は主に聞き役に徹し、質問に答えたり適当に相槌をしていた。
そうこうしているとあっという間に時間が経ち、あと少しでメインのダンスパーティが始まろうかという頃。
「ところで、2人はこの後のダンスパーティのパートナーは決まっているのかい?」
ライン王子がダンスパーティの話題を振ってきた。
「えっと、私は決まっているのですがリリアはまだ決まっていなくて」
「私は、もうダンスパーティには参加せずに帰ろうかと…」
正直、今後のことを考えると頑張ってパートナーを探して婚約者候補を見つけるのは大事ではあるけれど、今は一刻も早くこの場から抜け出したい気持ちが強い。
「そうなのか!リリア、もしよければ、、」
「ライン王子、お父上がお呼びです。至急こちらへ」
私の返事を聞いた王子が途端に嬉しそうな顔をした。この後の言葉はもしや、、と思っていたタイミングで近くにいた側近の人が慌てて王子に声をかけた。
「そうか、、急にごめんね2人とも」
「いえ、お気をつけて」
その言葉を聞いた王子は残念そうな顔で私たちに一声かけて側近の方と歩き出した。
ふぅ、危ない。今の流れは間違いなくやばかった。鈍感ってわけでもない私は、その後に続く言葉に予想がついた。それにしてもどうして王子は、私なんかに話しかけてくれるのだろうか。王子の動機がわからないわ。
「いや〜、それにしても王子様とあんだけ長く話せたのは一生の経験よね!かっこよかったな〜」
「まあ確かになかなか経験できないことだものね」
「リリアの誰に対しても素っ気ない感じは、ここまでくると尊敬するわ」
「そう?私も内心イケメン王子と話できて嬉しかったわよ」
「そんな感じ一切見せないんだもん」
さすが親友ね。ズバリ的中してるわ。
なんて、会話をしているといつの間にか周りを沢山の女性に囲まれていた。
その中には公爵令嬢のラビーナ様やルイーダ、辺境伯令嬢のフリーア様がいる。
「あなたたち、ライン王子と一緒をに食事なんて身の程知らずもいいところだわ」
ルイーダが1番に声をかけてきた。その言葉に怒気と若干の嫉妬が含んでいるように感じる。
私の悪い予感が当たったわね。やっぱり面倒ごとに巻き込まれたわ…。
「優しいライン王子が私達を見かけて声をかけてくださったのです。誰にでも平等に接してくれる王子は流石ですわ」
自分でも寒気がしそうな言葉遣いでなんとかこの場を凌ごうとしてみる。
だが、なかなかそう甘くはなかった。
「まさかとは思いますが、この後のダンスパーティに誘われたりはしませんでしたよね?」
「もちろんです。そんな大層なお誘いは受けておりません。てっきり私はラビーナ様やフリーア様がライン王子と踊られるのかと」
「いえ、とても残念ですが私は誘われておりません。フリーア様はどうでしょう?」
「私も非常に残念ですがお誘いは受けておりません」
2人の間に目には見えない火花が散っているように見える。女の争いは本当に怖いわね。
といいつつ、絶賛その争いのど真ん中にいる私だけど。
「リリア、なんかとんでもないことになっちゃったね…」
サリカが私以外に聞こえないように小さく話しかけてきた。
「このまま、私たちのことを蚊帳の外に置いて欲しいわ…」
でもそう簡単に解決しないのが女の嫉妬であることは前世で嫌というほど知っている。
「兎にも角にも無いとは思いますが、万が一王子があなたたちのどちらかをダンスパーティのお相手にお誘いしましたら断っていただけますでしょうか?」
ラビーナ様の大きな目がこちらを睨むような鋭い目つきをしている。サリカなんて、ちょっと悲鳴を出してるじゃない。確かに迫力はすごいわね。
「こちらのサリカはもうすでにパートナーが決まってるのでその心配はないかと。それに私もお誘いいただけるとは到底思いませんが、もしお誘いを受けたとしても恐れ多いためお断りを考えております」
「わかりましたわ。それならよろしいことよ」
「それにしても、リリアさんとおっしゃったかしら。随分とライン王子と仲が良さそうでしたわね?私も一緒にライン王子とお食事をしたかったのですが断られてしまいましたわ」
なんとか、ラビーナ様の追求を交わしたと思ったら、すぐさまフリーア様から横槍が飛んできた。
食事を断られたのを相当根に持ってるわね。言葉一つ一つに棘があるように感じるわ。
「優しいライン王子が私達に気を遣ってくださったのかと…。あまり人が多くなってしまうと私も緊張してしまうので、、」
「…そうですわね。まあそういうことにしといておきましょう。でも勘違いはしないでくださいね。王子の隣は昔から一緒にいる私こそが相応しいのですから。だって私は彼に救われて生まれ変わったの。だから彼の隣は私が居るべきなのよ」
え、聞いてもないことをすごく話してくるわね。途中から目のハイライト消えてたし。確かに元悪役令嬢と言われても納得の雰囲気をビンビン感じるわ。
しかもこのフリーア様の発言を聞いて、またラビーナ様が睨みつけるようにフリーア様を見てるわね。
とりあえず早くこの場から離れないと。サリカなんて顔から血の気が引いて倒れそうなぐらいガタガタ震えてるし。
「お2人のお話はよくわかりました。私がライン王子とパートナーになることは身分的にもあり得ませんのでご安心ください」
「ええ、もしものことがあればあなたのこれからの学園生活はどうなるかわかりますわね?」
「貴方のご家族は男爵令嬢だったかしら。身の程をわきまえて行動することをおすすめするわ」
2人から脅迫めいたことを言われる。本当に貴族の令嬢達は怖いわね。どこが聖女みたいやら女神様みたいよ。それこそ悪役令嬢みたいじゃない。恋は人を変えるってわけかしら。
「…肝に銘じます」
「よろしいことよ。それでは皆さん、ダンスパーティに行きましょうか。ライン王子を探しましょう」
「私たちも行きましょうか。ああ、ライン王子とダンスを踊りたいですわ」
ふぅ、やっと離れてくれた。お腹が痛くなるような修羅場だったわね。というか、取り巻きの人たちはダンスパーティのお相手を探さなくていいのかしら?あ、あのぐらいの階級の方達はすでに決まってるのかしらね。
なんて、どうでもいい事を考えてしまうぐらい精神的に疲れたわ。…あ、いけない。サリカは大丈夫かしら。
「サリカ大丈夫?なんとか乗りきったわね」
「う〜、怖かったよ〜」
「よしよし、もう誰も居ないから大丈夫よ。これから彼に慰めてもらいましょうね」
サリカが抱きついてきたので、頭を撫でながら落ち着かせる。あ、ちょうどいいところに彼がきた。
「おーい、こっちこっち!サリカ、意中のお相手さんが来たわよ」
「え、もう意中の相手じゃないし…!」
なんて言いながら、さっきまで怖がってたのが嘘のような笑顔をしている。
「お待たせ、サリカ。ダンスパーティに間に合って良かったよ」
「サリカは任せたわよ。楽しんでね2人とも」
サリカ達は恥ずかしそうに照れながら2人でダンス会場に歩いていった。
なんか良いわね。初々しいというか青春って感じ。さっきまで精神的に疲れてたから、2人を見て癒されたわ。
「さてと、最後にサリカ達のダンスを見たら帰りますかね」
正直、ダンスパーティに参加しなくてもこの会に参加したという記録さえ残れば、最低限貴族としての面子も保てる。
あとは一刻も早く帰りたかったけれど、親友の幸せな姿も見たい。
少し離れたところで大きめな話し声が聞こえる。チラッと見るとライン王子とラビーナ様達がいた。
ライン王子にパートナーを申し込んでるのかしら。正直、ライン王子が誰と踊るのか気にならなくもないけど。
『え〜、会場にお越しの令息、令嬢の皆様。これよりセントラル国の100周年を記念しましてダンスパーティを開催いたします。今宵はどうぞお楽しみください』
会場が一瞬暗くなったかと思うと、アナウンスが鳴り響く。その後、ワルツ調な音楽がホール全体に奏で始めた。
踊っているペアの人たちは皆幸せな顔をしている。サリカはどこだろう?あ、見つけた。
あらあら、2人で見つめ合っちゃって、もう2人だけの世界って感じね。
私も正直なところ誰かと一緒に踊りたかったなぁ。
さて、親友の幸せそうな姿も見れたことだし帰りますか。
「待ってくれ。リリア」
「え、ライン王子…?」
「はぁはぁ…。良かった。間に合った」
「どうしたのですか?そんなに急いで…?」
後ろで令嬢達が睨むように私達を見てるのに気づく。人を殺しそうな目をしていて物凄く怖い。
「リリア、ちょっとだけ僕の話をしても構わないかい?」
「あ、はい。大丈夫です」
真っ直ぐに真剣な目をしながら話しかけてくるライン王子を見て思わず頷いてしまう。
「僕は自分で言うのもなんだけど、昔から女性と仲良くさせてもらっていた。もちろん王子という立場のお陰だとは思うけど」
いやいや、王子の立場ももちろんあるかもしれないけど、貴方は顔や性格も完璧だからよ。なんて心の中でツッコミをしとく。
「でも歳を重ねていくうちに、周りの女性達が変な目で見てきたり身体を触ってきたりするようになった。あとはガツガツ声をかけてきたり露骨に褒めてきたりとかね。…フリーアなんて行き過ぎた行動をちょっと注意した日から、私の言うことをなんでも聞くロボットみたいになっちゃたし…」
それは、前世であったらセクハラじゃないかしら。ライン王子もこういうことがあって、未だに許婚を決めてないってことね。
それにしてもフリーア様が悪役令嬢から改心したのはライン王子のお陰だったのは本当だったって訳ね。
でもその結果、ライン王子のイエスマンになってしまったって訳か。
「でも君だけは違った。私に対しても変な目で見てこないし、何より僕に興味がない感じがすごく新鮮だった!そんな君にもっと僕のことを知って欲しいと思ったんだ!」
「え、でも私なんかより綺麗な人は沢山いらっしゃいますし、身分も全然違いますし…」
「君以上に魅力的な女性は知らない。それに身分なんて関係ないよ。大事なのは気持ちだけ」
場が一瞬静寂に支配される。
ー・ー・ー
「リリア、僕は君と踊りたい。この手を握ってくれないか?」
そして、今に至る。
あ〜、どうすればいいのかしら。でも決めたわ。
私は…
「ごめんなさい、ライン王子。私は貴方と踊ることは出来ません」
「え、ど、どうしてだい…?」
「純粋にライン王子からお誘いいただけるのは嬉しいです。でも、そもそも私もライン王子も今日初めて話しただけで殆どお互いを知らないです。私はライン王子が思ってくださってるほど素敵な子ではありません。無愛想ですし、魔法しか興味のない変人です」
私は包み隠さずに伝えた。周りの令嬢達が怖かったから断ったわけでは誓って無い。
ただ、単純に私なんかと一緒になってしまうライン王子が可哀想に思ったから。前世でも仕事一筋で変な男に騙されて、今世でも変人扱いされてる私なんかよりもライン王子に相応しい人はきっと居るはずだわ。
「……」
ライン王子は、私の話を聞き下を見て黙ってしまった。
この静寂がすごく居心地が悪く感じる。
一刻も早く帰りたかった私は声をかけようとした。
「あ、あの「わかったよ、リリア」
「ますます君が気に入った。本当の意味で僕のことを気にかけてくれるのがすごく伝わったよ」
「えっ」
ちょっと待って!?なんか思ってたのと違くなりそうなんだけど!?
私の予定だと、このまま諦めて明日からは他の令嬢達に少し小言を言われるだけで、普段通りの日常に戻るもんだと…。
「つまり、お互いもっと知ることができたら可能性はあるってことだよね?今回のダンスは諦めるけど、君のことは諦めない」
ええ〜!あまりにも動揺してしまい王子の次の言葉をちゃんと聞いていなかった。
「だから今はこれだけ…。リリア手を貸してくれないかい?」
「あ、はい」
ライン王子が片膝を地面に突き、私の手をゆっくり支えるように持つ。私はそれをぼーっと見つめている。
すると、ライン王子が私の手の甲にそっと唇を落とした。
え、今キスされた?
キスされたところがほんわかとあったかく感じ、どんどんと自分の顔が赤くなっていくのが伝わってくる。
思わず目の前を見ると、同じように整った顔を真っ赤にしていたライン王子と目があった。
「好きだ、リリア。返事はお互いのことを知った時に教えてくれ。また後で」
そう言い残したライン王子は颯爽と去っていった。
私が未だ呆然としてる中、周りが静寂から一点、様々な声が混ざり合う混沌と化していた。
ラビーナ様やフリーア様が怒り狂っている様子も見て取れる。
でも今の私はそんなことを気にならないほどに混乱していた。
ーーこれからどうなっちゃうの!?
これは、公爵令嬢でも改心した悪役令嬢でもない男爵令嬢の私が王子様の心を掴み、幸せになるまでの始まりの日。
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