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●6 エルフの王国で新生活とハッピーエンド。


三人称で最終話。





 獣人の王国の貴族は、基本的に自宅学習である。

 各々に適した環境で学ぶことをよしとされていて、教師も自分の系統と似た相手を選ぶからだ。

 だから、ミューランも自宅で家庭教師に一通りを学んだ。


 その後、見合いとしてリュドと会ったあとに、王城の図書室に通い詰めて、『運命の番』を調べていた彼女は、まだ見ぬ魔法の書物にも大いに興味を示すこととなった。

 元々、教師にも魔法の腕はピカイチと褒められていたミューランは、身体能力で優位に立つ獣人にしては魔法がとても優れていたのだ。


 よって、ミューランは魔法使いになる道を選び、魔法の最先端の国、エルフの王国を目指した。


 予め、家庭教師の推薦状を送ってもらい、魔法使いが集う魔法学院に所属したのである。

 魔法学院では、主に魔法の研究が行われるが、基本的には助手のポジションで働く魔法使いが多く所属していた。

 ミューランも助手をしつつ生計を立てて、ゆくゆくは自分で魔法開発をする夢を持った。


 ミューランが配属されたのは、エルフ族が半分いる魔法研究科だ。

 獣人族の魔法使いは珍しいため、ミューランは注目を浴びていた。

 そうでなくとも、獣人の王国では『運命の番』を失くしたことで次期国王が失脚して、責任を取って国王が代替わりするというスキャンダルがエルフの王国にも激震を走らせていたため、ミューランは悪目立ちをしていたのだ。


 尤も、ミューラン自身が元次期国王が失くした『運命の番』本人だとは、同僚たちは夢にも思っていなかったのだが。


 それを知ったのは、半年も経った頃のこと。

 すぐに真面目な態度で馴染めたミューランは、しれっと「私のことよ」と答えたから、同僚は驚愕で震え上がった。


「本当のことかい? 君が元王太子殿下の『運命の番』?」

「ええ。あちらの新聞で報道した通りよ。詳しくは、それを読めばいいわ」

「……」


 友人となったエルフの青年、エレクトーラはポッカーンとした顔で立ち尽くす。


 エルフらしく、白金髪はストレートに流れているが、ハーフアップで前髪は編み込んでいる髪型。新芽のような若々しい緑の瞳を持つ美しい妖精種。

 エレクトーラは、この研究室の中でも一番優秀な人材だ。先輩として、ミューランの指導を行っていた。


 エレクトーラが認めることもあって、すぐに打ち解けたところもある。


「私は君の口から事情が聞きたいのだが……。それは深入りしていいかい?」

「……いえ、別に。構わないわ」


 顔色伺うエレクトーラを見つめ返して、ミューランは緩やかに首を振って見せてから、話すことにした。


「竜人の『運命の番』については知っているわよね?」


 そこから話し出して、傲慢な王太子と『運命の番』だと知った自分の奮闘を語る。

 エレクトーラも、他の同僚も手を止めて、聞き入った。


 魔法研究者の魔法使いらしく、『運命の番』は魔法の類に入るか否かの議論が始まったり、神の魔法かどうか、それは地上の者が扱えるかどうかの話にまで発展した。

 神の領域に届くか否かは、また別の話だと一旦やめておく。


「それで、『運命の番』を失った竜人の王太子は、獣神様に見放されて、王族の証を失ったと……」

「まぁ、それはミューランのせいではないよな。結局のところ、伴侶としては拒否しただけ。結果、王位が代わったが、それはその上の者達の責任でもあるよな」

「ミューランは、すごい決断をしたものだ。流石は、単身で他国に渡る行動力の持ち主だな」


 エレクトーラと同僚達は、感心した。

 彼らは青年という若々しい顔立ちだが、こう見えて、中には100歳近い年齢の者もいる。喋り方も、堅苦しかったりもするのだ。


 一人で立ち向かったミューランを、同僚達は褒めて労った。

 家族にもそんな反応をされたことがないため、ミューランは驚いて目を丸くしたが、やっぱり嬉しく笑みを零す。


 そんなミューランの笑みを、秘かに熱のある眼差しで、エレクトーラは静かに黙って眺めた。




 それから、また半年ほどが経った。

 ミューランはのびのびと才能を活かして、研究室で助手として活躍している。

 『運命の番』を解消するための二年近くの孤独が嘘のように、仕事場の人間関係は良好。食堂付きの寮暮らしもあって生活も快適。

 獣人の王国から出て、穏やかな時間を過ごせている。


 そんなミューランは気を張ることが少なくなり、無自覚で長い尻尾をゆらゆらと大きく左右に振っていることが多い。

 誰も言わないが、そんな尻尾を眺めることが、エレクトーラ達のちょっとした息抜きだったりする。


 今日もまた、エレクトーラから渡された研究レポートを読みながら、ゆったりと白い尻尾を揺らすミューラン。

 窓からそよ風が入り込み、彼女の純白の髪が靡いて、頭の上の猫耳に触れた。ぴくんぴくんと震える白い猫耳。

 それに見入ったエレクトーラは、引き寄せられるように、手を伸ばして、猫耳をくすぐる髪の毛を指先で退けた。


「にゃんっ」

「!!」


 その指先が猫耳に触れてしまい、ミューランは驚いて震え上がった。

 まさかそんな声が出るとは思わず、エレクトーラもつられて驚き、顔を真っ赤にする。ちなみに、一部も見ていて驚いていた。


 何をするんだ、と言わんばかりに自分の猫耳を押さえて、頬を赤らめて見上げるミューラン。

 流石に、獣人だということを差し引いても、元令嬢に不意打ちで触れてはいけなかった。


「す、すまないっ! 髪の毛がくすぐっているようだったからっ……! つい!」


 あたふたと言い訳をしたが、エレクトーラは一瞬押し黙ったあとに。


「……お、お詫びに人気店でお茶を奢る。それでいいだろうか?」

「…………お詫びとして、受け入れます」


 少々むすっとしつつも、ミューランはお茶の誘いを受け入れた。

 キュッとエレクトーラは喜びで緩まないように唇を閉じて、頷きだけを見せる。


 周囲は、あまり見ないように目を背けつつも、グッと拳を固めてエールを送った。


 エレクトーラが指導をしている後輩のミューランに惹かれていることはわかっていたため、進展を待っていたのだ。

 そうして、ようやく二人でお茶に行くことに。

 秘かに祝福モードだ。

 ただ、お茶に行くだけでも。


「獣人の耳や尻尾は、許可なく触ってはだめよ? 相手が悪ければ、指を噛みちぎられるから」

「ごめんなさい……。他に注意する点はあるかい?」


 しゅんと反省の色を示しつつ、エレクトーラは気を取り直して、笑みで尋ねた。


「獣人としては、この王国の礼儀に反していなければ大丈夫だと思う。逆にエルフの方は?」

「エルフ?」

「私はエルフは高潔すぎて冷たいって聞いたけど、みんなはそうじゃないでしょ? 何かそう思うような要因やきっかけがあったんじゃないの?」


 エルフ族は、美しく高潔な妖精種と認識されている。そして冷たいとも言われていると、ミューランは家庭教師から習った。

 だから、正直ここまで同僚達と打ち解けられたことが驚きだ。


「冷たい? ああ……それはね、ただ他人には無関心ってだけだよ。懐に入れている相手には優しい。それは当然じゃないかい?」

「そうなのね。仲間だと認識されているということだから、私も嬉しいわ」


 ミューランは顔を綻ばせた。尻尾も上機嫌に、優雅な動きで揺れる。

 そんなミューランを見て、エレクトーラも気恥ずかしそうに顔を背けた。


「エルフは冷たいか。私達をそう思ったことが?」

「いいえ? 初日から普通の対応だと思ったから拍子抜けしたくらいよ」

「そっか。……()()()、か」


 正直初日は身構えていたという告白を受けてエレクトーラは苦笑を見せたが、ミューランからレポートを返してもらったあと、そこに視線を落として無機質に呟く。




 ○●○●○




 獣人の王国。王城の離宮にて。

 元王太子のリュドが静養している部屋。

 彼は食事もろくにとれず、衰弱する一方。しかし、強靭な竜人故に、一週間飲まず食わずでも死にはしない。

 ゾッとするような美貌は、今や儚い美貌と成り果ててベッドに伏せている。


 そんなリュドの部屋の小窓に、小鳥が二羽、止まった。

 右の小鳥はじっとしているが、左の小鳥はぴちぴちと囀ると、その瞳を光らせる。

 音に鈍く反応して、リュドが目を向ければ、見開くことになった。

 小鳥が放つ光が、映像を映し出したからだ。


 この一年以上、夢の中でもうわ言でも、呼び続けた彼女が映し出される。


「ミューラン……」


 映像だけ。彼女の顔を映し出した映像のみ。何かを話しているようだが声が届かない。

 映像のミューランに近付こうと、リュドはベッドから転げ落ちた。


「っ……」


 光の中のミューランが笑みを零す。何かに笑っている様子。

 リュドが初めて見る、ミューランの笑顔だった。


「あ……ミューラン……」


 か細い声で彼女を呼び、ポロリと涙を零す。

 周りに誰かいるようだが、ぼやけていてハッキリ見えない。

 それでも、囲まれて楽しそうにしていることはわかる。


 「あ……あぁ……」と、言葉にならない声を零して手を伸ばすが、ミューランを映していた光は唐突に消えた。


「ああ!! ミューラン! もう一度! もう一度!! 頼む! オレのミューランを映してくれ!!」


 何故小鳥がミューランを映し出したかはこの際どうでもいい。

 もう一度目に焼き付けたいと、床に膝をつきながら懇願した。

 しかし、ミューランを映した左の小鳥は消えてしまう。


 残った右の小鳥だけが、微動だにせずにそこにいた。


「ああっ! ミューラン! どうしてだ! オレはこんなにも苦しんでいるのに! オレにも見せない顔で笑って……! なんで楽しそうにっ! ミューラン! うああああっ!!」


 ボロボロと涙を落として、床を叩く。

 締め付けられる胸をギュッと握り締めて、床の上に臥せった。


 いつまでも啜り泣くリュドを見つめたあと、小鳥は飛び去った。




 ○●○●○




 その小鳥が持ち帰った映像を、エルフの王国のとある魔法研究室で上映させた。


「これは思った以上に酷い状態だね」


 モノクルをかけたエルフの青年は、感心の声を零す。


「竜人が『番』を失くすと衰弱死するのは、本当だったのか」

「……まだくたばりそうにないがな」


 冷淡な声を放つのは、エレクトーラだ。


「酷なことするなぁ。元『運命の番』の幸せそうな姿を見せつけて、反応を見るなんて」

「獣人の王国が手薄なのが悪くね?」

「そもそも提案したの、お前じゃね?」


 人間の男は呆れた反応をしたが、ことの発端は彼であると二人のエルフはケラケラと笑った。

 人間の男は、知らん顔で目を背ける。


「面白いデータが見れてよかったよかった。竜人の方は元『運命の番』に未練があり、苦しむと」


 モノクルのエルフは、レポートを書き綴った。


「まったく。話に聞いた通り、身勝手な奴だな。『運命の番』だとは気付かなかったとはいえ、暴君のように振舞って冷たく当たっていたくせに。今更彼女を想って縋りつこうなんて…………許せない」


 ゆらりと魔力が漏れ出るエレクトーラの怒りを察知して、周囲が身を引く。


「嫉妬するなよ。もう神の手によって、『運命の番』の繋がりは切れてるんだから」

「『()()()()()()()事実だけで、気が狂いそうだ」


 冷静に意見するモノクルの青年だが、ムッとして眉間にシワを寄せるエレクトーラ。


「しかも、未練がましくしているじゃないか」


 そう映像を睨みつける。声は聞こえずとも、ミューランを呼んでいるとわかるほどだ。



「元『運命の番』がこうして未練がましく生きていたら、ミューランだって私の手を取ってくれないじゃないか」



 美しき妖精は、恐ろしいほどに冷たい。冷酷だった。


「結局、嫉妬じゃん」

「エレクってば、ミューランが来てから余裕なさすぎー」


 エルフの二人は、またケラケラと笑う。


「あーあ。ミューランもいつ気付くかね。竜人の『運命の番』並みに、エルフの伴侶への愛が重いって」


 やれやれと、人間の男は苦笑して肩を竦めた。


 そこで、コンコンコンとノック音が響いたため、一同は慌てて小鳥を消し去って、各自定位置に戻る。


 入室したミューランは、トレイに人数分のコーヒーを運んできた。

 「ありがとう」と「どういたしまして」と、和やかに言葉を交わす。


「エレクトーラ。この前話した、キッチンを借りるという約束、近いうちにいいかしら?」

「え? ああ、いいよ。今日でも構わない」


 料理を学びたいというミューランのために、一人暮らしをしているエレクトーラは自分の家のキッチンをいつか貸すという約束をした。


「本当に? お言葉に甘えて、今日お邪魔するね」

「……うん!」


 嬉しさのあまり、満面の笑みで頷いてしまうエレクトーラ。

 その反応に少々面食らうミューランだったが、ちょっとご機嫌に尻尾を揺らす。


 それを見てニヤニヤしてしまう顔を、同僚達は隠した。







 ミューランとエレクトーラは、じわじわと距離を詰めるように交流を重ねていき――――。



「私の手を取ってくれるかい? ミューラン」



 出会って六年で求婚したエレクトーラに、ミューランはイエスと答えた。



 他種族と結ばれる婚姻式では、エルフの秘術の不老長寿の婚姻儀式が行われて、二人は結ばれた。

 これでミューランとエレクトーラの寿命は繋がった。

 死が二人を分かつまで、添い遂げるだろう。


 挙式に参列したのは、ミューランの末の弟のみ。

 ミューランも迷ったが、結局末の弟のタイラー宛に招待状を送り、残りは自由参加でいいと伝えた。

 しかし、両親も兄も、ミューランには合わす顔がないと遠慮して、祝福だけを託してタイラーを参加させたのだった。




 それから100年の月日が経っても、ミューランとエレクトーラは互いを思い遣る溺愛のおしどり魔法使いカップルとして有名となっていた。


 そんなミューランの元に、獣人の王国から現王太子が訪ねてきた。

 『運命の番』を失い、廃嫡になった過去の王太子と同じく、能力に優れていた彼は『運命の番』がいるなら気付きたいと切に願ったため、ミューランに助言を求めたのだ。


 竜人として高い能力を備えているにしては謙虚な王太子に驚きつつ、きっといるなら上手くいくと優しく微笑んで答えておいたミューランだったが、それがエレクトーラの嫉妬心に火をつけて少々揉めたのは別の話である。



 エルフの伴侶への愛は、重い。

 寿命が尽きるまで未来永劫添い遂げるための魔法を生み出すほどに――。


 ミューランは仕方ないと、まんざらでもない微笑みを零した。




   ハッピーエンド



今作のエルフは、他人に無関心どころか、どこまでも冷酷。

傷心の元王太子に、幸せそうなミューランを見せつけて、傷を抉ったエレクトーラは、少々腹黒な妖精さん。

しかし、これ一度きり。

もう見せてやらん! となり、元王太子は再び来ることを小窓をいつまでも見つめて待っていたとか。


色々考えましたが、ミューランとリュドの繋がりは切れたので、互いのその後は、知らないままがいいんじゃないかと思い、ミューランも積極的に知ろうとしないままで終わりにしました。



日間異世界[恋愛]ランキング、昨日から一位になりました!

いいね数も500超えで、ブクマ数も5000件! ホクホク!

ありがとうございます!(((o(`・ω・´)o)))


投稿してよかったです!

番とか大好きなんですが、今回は解消するタイプをチャレンジ出来ました!

自力で現状打破する令嬢シリーズ第二弾でした!


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


2024/02/05

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