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R2. Infliction

ジャンカルロ・ジャンカルロが乗っている比較的小規模な艦は共和国宇宙軍第二艦隊の遥か後方に陣取っていた。ジャンカルロはクネヒト大統領から権限を大幅にもらっているため、自分の下に半個艦隊を置いていた。

デービスが王国軍との戦闘に勝利するか否かについて、ジャンカルロは判断しかねていた。というのも、共和国が宇宙で大規模な戦闘を行うのは初めての試みであり、前例がなく、データが不足していたからだ。

「もう数分もすれば、共和国の宇宙艦隊が王立宇宙軍第七艦隊と戦闘を開始するでしょう」

閣下もご覧になりますか?」

「もちろんだ。そのために来たんだから」

ジャンカルロはアンドロポフに、戦場から送られてくるデータをスクリーンに反映させる。敵味方が色分けされたドットとして表示されている。

アンドロポフはジャンカルロの部下であり、元帝国軍の指揮官であった。帝国軍のものは皆、秘密軍事法廷にかけられ、軍事法廷とは名ばかりの手続で、多くの物が革命政権に反する者として粛清された。この粛清を免れた数少ない男がアンドロポフであった。

ジャンカルロはこの男を見つけ出し、自分の軍事顧問とすることにしていた。

彼に言わせれば、アンドロポフは実直で、なおかつ、正直者だ。そして、良くも悪くも、何者に対して忠誠心を持たない人間だ。と。

伝令兵が報告書を届けに来た。

アンドロポフがそれを受け取り、読むと、内容を簡潔にジャンカルロ伝える。

「王国の士官候補生が戦線の端にいるという報告があがってきましたが、いかがなさいますか?」

「うちのインテリジェンスは有能だね」

「てかの者を向かわせますか?」

「確かに将来の士官を潰しておくのは大事だよ。

でも、今はいいや。とりあえず、様子を見守ろう」

「了解しました」

「さあ、デービス閣下のお手並み拝見と行こうか」

ジャンカルロは少年のような心持ちで事態に臨んだ。


視界いっぱいに広がる大軍を目にして、デービスは満足げだった。

確かに、デービスの気分も分かる。眼下に共和国で宇宙用に開発された最新鋭機が星の数ほど並んでおり、一般人なら全能感をもってもおかしくない。

「諸君、王を戴いている時代錯誤な連中の頭に鉄槌を食らわせてやろうではないか」

まったくその通りでございます。もちろんでしょう。などと、デービスの周りの者たちが口々に言う。

彼の周りには長年連れ添って来た秘書などがいるが、デービスの人物眼がなかったこともあって、おついしょうものしか残っていなかった。

彼の部下は彼の権力に群がるために、互いに蹴落とし、競争し合っていた。

「全軍、進めよ。

王国軍を撃滅するまで、決して止まるな」

デービスの号令のもとで、共和国軍は戦闘を開始した。


共和国の宇宙艦隊は、ほぼ一直線に並ぶ王国軍の中央部に向けて突進にも近い動きをする。

共和国軍は中央部を厚くし、相手方に対して尖ったような形になっていた。

「アンドロポフ、デービス閣下の動きをどう見る?」

ジャンカルロの疑問にアンドロポフは素直に応える。

「どう見るも何もありません。強いて言うなら、中央突破でしょうか」

「ジャンカルロ閣下はどのようにご覧になりますか」

アンドロポフは階級が上の相手を試す節があった。ジャンカルロはそれを不快に思うこともなく、

「デービス閣下の勢いと王国軍の戦術次第だと思うけど・・・・・。

たぶん、相手に受け止められて、機動力を失い、殲滅されるんじゃないかな」

「私も閣下に同意します。

ただ、私には分かりません。

デービス閣下は、なぜ、このような手に出たのでしょうか?」

ジャンカルロは、今度は自分がアンドロポフを試す番になったと思い、ニコニコしている。

「『君主論』って読んだことある?」

「いえ、歴史上の書籍として記憶しておりますが、実際に読んだことはありません」

ジャンカルロはやや嬉しそうに話し出した。

「君も読んでおいたほうが良いよ。あれはあらゆるマネジメントについて当てはまる要素がある。

君主論の著者マキャヴェリは、いかにして、主君は阿諛追従を避けるか、という話を本の中で書いている」

「さて、君はどうするのが正解だと思う?」

「自分に対する批判を許すということでしょうか?」

「そうだね。一般論としてはそうなるだろう。

でも、その批判が建設的なものとは限らないし、公に批判を許すことは何より君主の尊厳を毀損しその地位を危うくしかねないから、単に自分への批判を許すだけではだめなんだ。

じゃあ、どうするか。

君主は国内から賢人を集め、秘密裏に批判を許すという形式が最も良いということになる」

「しかし、どうやって賢人を集めるのですか?」

「いい所をつく。全くその通りだ」

優秀な生徒を得られたようで、満足げのジャンカルロである。

彼は答えをもったいぶらずに話した。

「答えは簡単だよ。

原則として、君主自身が賢くなくてはならない。少なくとも、誰が賢人であるか否かを判断できる程度にね」

「つまり、デービス閣下は」

「おっと、そこまでだ。それ以上は失礼に当たるからね。

それに、これは推測に過ぎないんだから。

今は、見守ろうじゃないか」

穏やかな表情を浮かべつつも、冷酷な決断をするジャンカルロを見て、自分の行くべき道をアンドロポフは確信した。

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