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Republic 1. I thank my lucky stars!

デービスは歓喜で打ち震えていた。

彼は、時流に乗って、最も優勢な者に目を付け、その庇護を得ることで、長きにわたる共和国内部の権力闘争に耐え続けていた。

だが、彼はもはや耐える必要がない。

「とうとう我が世の春がめぐって来たのだ。

私にクネヒト大統領は大軍をお与えくださった。

これでようやく私は未来にも語り継がれるような偉業を達成できるのだ。

これをもって悪の王国を叩き潰す」

執務用の机に拳を振り下ろすと、鈍い音がした。彼の積年の鬱憤があらわされていた。

「デービス閣下、どのようにするお積もりですか?」

「どうしたジャンカルロ、不安かな?

なに、叩き潰すのみよ。我らが獲得した宇宙への戦力投射能力により、宇宙人どもは泡くって逃げ出すに違いない」

ジャンカルロは不安をあらわにした。出世街道をまっしぐらに来たのに、ここで足をすくわれるのは痛手だ。まだ若いにもかかわらず、大統領補佐官にまで上り詰めたというのに、この男の尻ぬぐいをせねばならんとは。

「先だっての秘密軍事法廷により、将官がやや不足する事態になっておりますから、その点が不安ですが」

「クネヒト閣下に楯突こうという輩がいなくなって清々するわ。

閣下の崇高な理念を理解しない愚か者どもがいなくとも問題はない。

我々には偉大なる理性と遠大なる計画がある。すべてはそこから自動的に導かれる」

「では、デービス閣下が指揮を執り、お決めになると?」

「当然ではないか?私がこの戦場で最も共和国の理性に近い存在だ」

「了解しました。

ですが、私は大統領から頂いた命令がありますので、そちらの実行に伴う部隊の管理を任せていただきたいのです」

「実験部隊だな。話は聞いている。

孤児どもを集めて共和国に奉仕させるというのだろう。素晴らしいことだ」

ジャンカルロはデービスを三流の人物であると冷ややかに見ていた。彼は軍というものを理解していない。自ら指揮を執ることにこだわり、おそらく失敗するだろうと見ていた。

どのようにしてこの男に失敗の責任をとらせて引きずり下ろすか、あるいはどのようにして上手にその失敗を自分の利益にするか考えだしていた。


ジャンカルロは帰宅し、玄関を開けると、栗毛の少女が彼を出迎えた。

「お帰りなさいませ、ジャンカルロ様」

彼はその声の主に微笑んだ。

「ただいま、マリア。

こんな遅くまで起きていなくて大丈夫だよ。もう11時近い。

それから、ジャンでいいと言っているだろ」

「そうはいきません。ジャンカルロ様に、住まわせてもらっている身分ですし、できることは何でもしたいのです。私の恩人ですから」

「せめて、ジャン様くらいにしてくれ。

家に帰って来たのに仕事中の気分だよ」

「分かりました。ジャン様」

「まあ、そのあたりが妥協点か。

ところで、今日の分の薬はちゃんと飲んだかい?」

「はい、私の健康状態を気にしてくださり、ありがとうございます」

「いいんだ。君の体調が不安だ。

体調を悪くしてはつまらないだろう」

ジャンカルロはマリアの手を引いて、月の光が差し込む寝室へと連れていく。

彼女は素直にベッドに入るが、ジャンカルロを名残惜しそうに見ている。

静謐な部屋の中、二人はささやくような声で言葉を交わす。

「次の休みは何がしたい?」

「いえ、申し訳ないです。

ただ・・・」

「ただ?」

「あとすこし、もうすこしだけ、ここにいてくれませんか」

布団から顔をのぞかせた彼女は恥ずかしそうにいう。

「もちろんだよ、マリア」

ジャンカルロは優しく微笑んだ。マリアの手を取り、彼女が眠るまでの間、その手を離さず、温め続けていた。


マリアが寝入ったことを確認すると、ジャンカルロはすぐにマリアの部屋を出た。

自分の書斎でテレビ電話をつなぐ。

「ジューコフ、そっちの首尾はどうだい?」

「公安委員会はジャンカルロ派で染まっています。

次は何をしましょうか?

既に、クネヒト閣下は、特権を享受する貴族どもからその地位をとり上げたのみならず、暴利をむさぼっていた資本家どもから不当に蓄えた富を回収しました」

「それだけでは不十分なんだ。まだ革命は完成していない。

だから、革命の理念たる人民の意志を無視し、自らの出世と利権のことしか頭にない官僚や将軍たちを粛清したんだ。

そして、次は革命の崇高なる理念を理解しないどころか、それを妨げようとする愚かな王国を滅しなければ、本当の終わりは来ないんだよ。

分かるだろ、ジューコフ」

「私はただジャンカルロ様について行くだけです」

「忠義ものだね、君って奴は」

「私は閣下に救われた身です。

では、次は軍を押さえればよいのでしょうか?」

「そういうことだね、特に次世代の軍幹部には唾をつけておかないと。

忠誠心のあることは大事だけど、無能でも困るからね。

その辺の要領は君の方が分かっているだろうけれど」

「そのように手配しておきます」

「面倒な奴がいたら、教えてよ。公安委員会に話を通しておくから」

「よろしいのですか?」

「もちろん、そのために公安委員会を掌握したんだから。

それから、僕は少し地球を離れるよ。

デービス閣下についていく。いくつかやっておきたいことがあるから。

良い報告が聞けることを祈っているよ」

ジャンカルロはニコニコ笑って、通信を切った。

庭に出ると、優しい風が彼のブロンドの髪を揺らし、頬を撫でた。月はらんらんと輝き、彼のよく日に焼けた褐色の肌を照らす。

彼は月に向かって手を伸ばす。あたかもそれに手が届くと思っているかのように。

「月は地球に対する月であるということを思い出させてあげないといけない」


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