K3. Tweedldum and Tweedldee
ダンテはまったく臆することなく二人組に話しかけた。。
「そこで何をしている?」
「あれ、お貴族様ですか?」
その声音には尊敬の色はなく、嘲笑するかのようににやついた表情を浮かべていた。
大柄で筋肉が服の上からでも分かるような男の方がフーリエと名乗り、そいつにつき従っていた小柄な男がバタイユと名乗った。
「そうだが、それで?この部屋はこれから私が使う予定なんだが」
「そうなんすね。ちょうど良かった。こう見えて、あっしら、結構強いんですよ。
訓練のお相手をしましょうか?あっしら身分の低い庶民は貴族様の御支援が必要なんですよ。
こちらが勝利すれば、有望だけれど境遇の悪い俺たちにちょいと恵んでくれやしませんかねえ」
ダンテは境遇をふりかざす輩は大嫌いだった。それが貴族であると平民であるとを問わず。
「分かった。いいだろう。入りたまえ。さっさとやろう」
ダンテが学生証をかざすと、スッと自動扉が横に開く。
シミュレーターが並んでいる。そのまま、ダンテはシミュレーターに乗り込む。
「ほら、どうした?ぼさっとするな。乗り込め。
状況は障害物の多い宇宙居留地、1対2。兵装は王立宇宙軍における通常兵装。
以上の条件での模擬戦闘でいいな」
ダンテは高圧的な口調で言った。
バタイユとフーリエはとんだカモが来た、こりゃいただいたなとにやけながら、シミュレーターに乗り込んだ。
シミュレーターはエアリアル・フレームのコックピット内部を忠実に再現している。彼ら二人がシミュレーターに乗り込み、左右それぞれの手でレバーを握り、足元のペダルの感触を確認していると、ダンテがいらついた声を出した。
「私は忙しいんだ。貴様らのような雑魚に、私のような高貴な人間がかかずりあっている暇はないのだよ。
私の時間は値千金だ。下賤な身の貴様らとは違ってな。
稽古をつけてやるから、その時間に見合った授業料くらいは払えよ」
ダンテはとうに計器類の確認を終え、模擬戦闘の状況設定まで終了させていた。彼は、わざと相手を挑発するような言葉を使い、二人の怒りを誘った。
二人は大量に並んだスイッチ類の動作確認をすることを忘れるほど、怒りに震えた。
「こいつ、なめくさりやがって」
「なめるも何もないさ。
自分が持たざることを他人の責とするなど、卑しいやつらの典型だ。他人が自分より多くを持つからって、その他人から奪いとるのか。
身分だけでなく心まで卑しいな。さっさと我が国から出て行けばいいのに。
共和国にでも行けばいい。貴様らのような下賤でも彼らは喜んで受け入れてくれるんじゃないか?」
小さなウィンドウに映るフーリエは青筋を立てていた。
「何度も言わせるな。さっさとやろう。
お前らと違って、私は雑魚をいたぶって喜ぶ趣味は無い」
「このやろう、俺が雑魚だと」
怒気溢れる声でフーリエが応じる。
「じゃあ、開始だ」
スクリーンに市街地が映った。共和国軍の侵攻で宇宙の居留地が戦場になった場合を想定して作られた仮想のマップだ。人型機動兵器であるエアリアル・フレームより数メートル以上大きい建物が大通りに沿って碁盤の目状に並んでいる。重力場発生装置は停止しており、道路がところどころめくれあがり、コンクリートのかけらが宙に浮いていた。廃墟と化した市街地に三機のエアリアル・フレームが出現する。兵装は基本的に荷電粒子式自動小銃、高振動ブレードが用意されている。
2対1の構図だ。
ダンテは小銃を手にしたまま、すぐに機体をステップさせてビルの陰に身を隠した。
「あいつ、あんだけ俺らを馬鹿にしたくせに、逃げやがったな」
フーリエは高振動ブレードを抜くなり、スラスターを全開にする。ダンテが身を隠したビルをめがけて、飛び上がる。勢いよくそのビルを飛び越え、ダンテに一太刀浴びせ、襲い掛からんとして宙を飛んだ。
が、ブレードは何も捕らえない。ダンテの姿はすでにビルの後ろには無かったからだ。
ひとまずフーリエはビルの上に着地し、怒りに任せて空を切った。
「どこへいった、卑怯者がああああああああ!」
ダンテは全く動揺する気配を見せずにひとりごちた。
「挑発に乗って、そのまま突っ込んでくるなんて本当に愚かだ。
考えられる戦術パターンのうち、最低のものを選んだな。
これなら、最も楽に勝てそうだ」
貴族を食い物にしているというぐらいだから、ある程度腕があるのかと思ったが、そうでもないようだ。と、ダンテはがっかりしていた。
いつの間にかフーリエの背面に回り込んでいたダンテは、ビルの隙間から冷静に機体のコックピット部分に照準を合わせ、引き金を引く。
キューンと小気味いい音が流れ、淡いピンク色の荷電粒子の群れがフーリエのエアリアル・フレームの胸部を難なく貫いた。
フーリエがやられたことで、バタイユは驚愕し、混乱していた。
ダンテはそれを見逃すような愚かな男ではない。
フーリエ機への着弾と致命傷を確認するや否や、すぐさま、手にしていたチャージ中の小銃を捨て、バタイユ機に向かう。もはや、チャージ中の小銃を持って戦うよりも、白兵戦を演じた方が良いという判断をしたのだ。
彼の名誉のために言っておくが、バタイユもボーッと見ていたわけではない。いつでも発射可能にしてあった荷電粒子砲の照準をダンテ機に合わせようとした。
が、時すでに遅し。
ダンテ機はすでにバタイユ機の目前に迫っていた。バタイユ機が引き金を引いたライフルの砲身を右手でつかみ照準をずらした。
さらに、脚部に装備されていた高振動ブレードを左手で素早く引き抜き、そのままの勢いで逆袈裟に振りぬいた。
バタイユ機はバターのように滑らかに切り裂かれ、斜めにずれるように真っ二つになった。
ブザーが鳴り響く。
試合終了の文字と勝者の名前がスクリーンに表示された。
勝者の名は確認するまでもなかった。