K2. Playing
「何で私たちこんなことしてるのかしら」
ベアトリスはカードを両手で広げている。
カフェテリアのテーブル上にカードが重なっていく。
「何か用事でもあるのか?
それとも、ベアトリスは何か話しておきたいことでもあるのか?」
ダンテが場のカードに重ねながら、聞く。
サラとジョンは静かにカードを出していく。
「そういうわけじゃないけれども」
「こうやって親睦を深めるのも大事だとは思うけどな」
ジョンはニコニコしていた。
「でも、飽きてきたのよね」
「私も正直、飽きてきました。
もうかれこれ1時間以上やってますから」
サラも苦笑いしながら、ベアトリスに同意した。
「ふっふっふ、そういうだろうと思ってだな。
実はエアリアル・フレームのシミュレーターを予約しておいたんだ」
「流石ジョン、気が利くわね。訓練にも暇つぶしにもなるわ。
一応お互いの実力確認も確認しておきましょうか
じゃあ、着替えてこないとね」
ベアトリスはノリノリで席を立った。
「あの、ダンテさんとベアトリスさんって仲がいいんですね」
女子更衣室に入るなり、サラは疑問を口にした。彼女の目からすれば、二人とも教員に質問しているところは良く見たことがあるが、そんなに他人と関わる方ではない。ましてや、ダンテが特定の誰かと長時間会話しているところを見たことが無かった。
「仲がいい?ダンテと?そう見える?」
ベアトリスは意外そうな顔をした。口を動かしつつも、訓練用のパイロットスーツに着替えるため、制服を脱いでいく。
「はい、どこか打ち解けた感じがします」
「それを言うなら、ジョンの方じゃない?ジョンのおかげで場が上手く回っているだけじゃないかしら。
あいつの場合は誰とでもうまくやれる才能があるから」
「そうかもしれません。ダンテさんってちょっと近寄りがたい雰囲気がして」
「あれは別に人を遠ざけるつもりがあるわけじゃないのよ。人付き合いが下手なだけ。
悪い奴じゃないから、すぐに仲良くなれるわ」
「そ、そうですかね」
サラは安心したようで、ベアトリスに軽く愛想笑いをしたが、その姿に目を丸くした。少し見とれているようだった。
「ベアトリスさんって、スタイルがいいですし、大人っぽいですね。
銀糸の髪によく映えますね。私、そういう下着を着る勇気無いですよ。」
良く女子同士の褒め言葉には嫌味や皮肉が混じるというが、サラの言葉には両方とも無かった。羨望と少しの嫉妬はあったかもしれないが。
シャツを脱いで、蠱惑的な紫色の下着姿になっていたベアトリスは訓練用パイロットスーツに手をかけていた。手を止めて自分の下着に目を落とした。
「ああ、これ?別に普通じゃない?
どちらかというと、あなたの方が問題じゃないかしら。
ダメよ、そんな全く色気のないのじゃ。
そういう素朴な方が好きっていう人もいるかもしれないけど、乙女の戦闘服なんだから」
サラのほうは軍で支給された白い上下の下着だった。彼女の家は平民階級であり、収入も多くはないため、親を金銭的に苦しめることを嫌がった彼女は学費が無料な士官学校に入学した。学費が浮いたおかげで、家計に余裕ができたため、少々のお小遣いも与えられていたが、自分の衣服にお金をかける習慣は全くなかった。
彼女は自信なさそうにいそいそと訓練用スーツに足を通していた。
「そ、そうなんですかね。」
「あなたがこういうの着たら、ギャップでやられる男は多いんじゃないかしら」
「そうですかね」
自信が無さそうにうつむきかげんで、身支度を整える。
「いつまでも昨日と同じ今日、今日と同じ明日があると思っていると、すぐにおばあちゃんになっちゃうわよ。
そうだ。今度、一緒に出かけない?選んであげるわよ」
サラがパッと顔を上げると、ベアトリスがほほえましそうにしていた。
「あ、ありがとうございます。用事も無いので、ぜひご一緒したいです。
次の休みの時のために外出届け出さないとだめですね」
「あとで提出しに行きましょう」
「ありがとうございます!」
「いいのよ。これからも長い付き合いになりそうだし、よろしくね」
士官学校の中には赤い絨毯が敷かれ、壁に絵画がかかっていたり、調度品が置かれていたりする。これは、士官学校がもともと貴族しか受け入れていなかったことの名残だ。だが、時代が進むにつれ、より広く優秀な人材を登用することが目指され、徐々に平民にも門戸が開放されていき、現在では入試方式等に何らの差異はなくなった。
とはいえ、貴族は彼らの威信と矜持にかけて、より多く優秀な人材を輩出することを目指したため、現在でも卒業生の半数以上は貴族出身者である。貴族が人口の数%しかいないことを思えば、涙ぐましい努力があることは察するに余るというものだ。
ジョンとダンテは士官学校内の美しい内装が施された廊下を闊歩していた。
「シミュレーターって撃墜されるとマジで派手な演出と振動で死にそうな気分になるよな」
「その方がいいだろ。
そうでもないと、撃墜されるシミュレーションばかりする奴が出てくるだろうからな」
「そうかもな。でも・・・」
ジョンはそこまで言いかかたところで、横道にそれる。シミュレータールームの前に二人組の生徒を見た瞬間に突然方向転換したジョンの様子に何かを察したダンテも即座にジョンの後を追った。
「どうした?あいつらに何か因縁でもあるのか?」
「あいつら、ちょっとした噂になってんだよ。
よく貴族連中をカモにしてカツアゲしてるんだと」
「カツアゲ?どうやって?」
「貴族とか金持ちのボンボンを見つけると、そいつに稽古をつけてやると称してコテンパンにすんのさ」
「授業料って名目で金を巻き上げているのか。くだらないことするな。
教師はこのことを知らないのか?」
「貴族連中は教師には言わないのさ。
名誉やプライドを傷つけられたくないから言い出せない」
「なるほど、じゃあ、僕たちで解決するしかないわけだ」
ダンテは早々に結論を出した。
「おいおい」
ジョンが引き留めるのにも構わず、ダンテはシミュレーションルームへの前へと堂々と進んでいった。