プロローグ
小鳥のさえずりと共に目を覚ます。
俺の名前はリュート・フィン・アヴァンティ、アヴァンティ辺境伯家の次男として生を受けたいわゆるお坊ちゃまだ。
そんな俺だが、ひとつ隠し事がある。それは前世の記憶を持って産まれたという事。
アヴァンティ辺境伯家、ラデリア王国の軍部における中枢を担う傑物達を代々送り出してきた、名門と言われる家系である。
そんな家で育った俺が子供の頃から触れるのはやはり剣だ。
各種武器には、それぞれ型――流派というものが存在し、騎士になる者達のほとんどが学ぶラデリア流正剣術、剛剣術である、獅王流、柔を重きに置いた水神流、または格武家に伝わる流派を学ぶ。
アヴァンティ家にも流派があり、名を『剣神流』。
それは、『剣神』と謳われたラデリア初代国王と共に肩を並べた最強の剣士であった、初代アヴァンティ家当主が生みだした剣術であり、最強の剣術である。
『剣神流』が最強たらしめる理由は、状況によって剛にも柔にも、正にも変にもなるという点だろう。
剛柔正変は一長ならず
敵に随い転変し
いずれにも長ず
いずれにも偏らず、いずれにも長じて、その場に適した剣を振るう。
そういう教えである。
そして、この世界には前世と違い“魔法”というものが存在する。
魔法は火・水・風・土の四大属性に加え、光・闇・雷・氷等、多くの属性が存在する。
この世界の生き物は必ずどれか一つの適性を持って産まれてくる。稀に二つの適性を持って産まれてくる者がいる。
俺は闇の適性を持って産まれた。
魔法を発現させる根幹となるものは、想像である。そのため創作物によくある詠唱は、言葉によってイメージを固定するサポートをするもの――つまり道具だ。
そのため上位の実力者ともなれば詠唱破棄をして魔法を行使することが出来る者が多くいる。
しかし例外も存在する。それは超越級魔法である。
魔法は、初級から中級、上級、そして超越級と別れている。
超越級魔法は、行使するにあたって詠唱が言霊に成り代わり、その言霊によって『世界からの制約』という枷を外して生物という範疇を超える力を行使することが可能になる。超越級魔法の行使には詠唱が不可欠なのだ。
超越級魔法とは御伽噺の中の魔法と世間では認識されているらしいが、本当に実在する。
何を隠そう、母親であるマリアが超越級魔法を一つ行使することが可能だからだ。
そして母が言うにはほかにも極わずかだが、超越級魔法を行使することが出来る者は存在するそうだ。