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赤ずきんとオオカミくんはハッピーエンドを果たしたい!  作者: 黒昼
1冊目『白雪姫』──Snow≠White──
20/22

No Re:flection 11

「おい、赤ずきん! こっち来てみろ」


「なんでしょうか……あれ?」


 ある可能性が浮かんだ瞭雅は、それを裏付けるために赤ずきんを呼んだ。案の定、赤ずきんも同様に鏡から存在を無視される。


「やっぱり、映んないか。俺たちが登場人物キャラクターじゃないからか?」


「いえ……設定上は同じ人間なので、それ自体の判別はつかないはずです。そもそも、人間を映さない鏡なのかもしれません。ダニエルさんを呼びましょうか」


 そうして外で待っているダニエルに赤ずきんが説明し、鏡の前に連れてきた。彼は少し困惑とした表情を浮かべている。


「鏡の前で立つだけでいいのか?」


「はい、それで構いません」


 やはり登場人物キャラクターであるダニエルが前では、鏡は正常にその役目を果たした。


「本当にこれだけで調査の役に立つのか?」


「ええ、大収穫ですよ。ありがとうございました」


 怪訝そうに首を傾けながら、再び外へ向かうダニエル。ただ鏡の前に立つだけで大収穫なんて言われたのだから、至極当然の反応だろう。しかし、こちらとしては本当にそれだけでだいぶ進展があった。


「何が違いなんだろうな」


「私たちと登場人物キャラクターの、根本的な身体の違いが影響しているのかもしれません。私たちにあって、登場人物キャラクターにないもの。あるいはその逆……」


 ふたりともその違いに気づいたのか、視線を交差させ、答え合わせをする。


「魔力!」


 設定上は同じ人間であったとしても、ここだけは明らかに違う。


「これが『魔法の鏡』だとしたら、魔力がない私たちが映らないというのも合点がいきます。明日小人の家に持っていきましょう。この仮説が正しければ、小人たちも映らないはずです」


「そういや、小人ドワーフ症候群は魔力がない病気なんだっけか」


 それならば証明するのに願ってもない人材だ。


「……で、誰が運ぶんだ?」


「むしろ貴方以外の誰が運ぶとお思いですか?」


「デスヨネー」


 およそ全長二メートルはあるだろう。背負うだけなら今の瞭雅には問題ない。だが動きづらさはどうにもならない。これを長時間、さらには山道を歩くことも考えると、明日のことだがもう嫌気がさしてくる。


「よし、ここでやることは大体やりましたね。事故現場のハシゴに行きましょうか」


「鏡探しか? やっぱ事件に関係あんのかな……コレ」


「ええ。これが被害者が出た全部屋にあったら、それはもうこの鏡が密室の鍵と言っているようなものでしょう。ミスリードの線も一応はありますが、偶然と説明するにはあまりにも都合が良すぎる」


「ミステリーにご都合展開はご法度ってか」


「はい、この『世界』はすべて予定調和ですから。偶然は必然であり、多くのことを偶然で済ませてしまう物語は駄作です。さらには腐らせないためにも、無駄な設定や物、人は極力ないように創られているはずですからね。当てが外れていたとしても、何かわかることはきっとあります」


 この世界は予定調和。言い得て妙だ。外の世界での日常会話なんて、何ひとつ実にもならなそうな中身のないものばかりだが、ここでは登場人物キャラクターの一挙一動が解決へ導くヒントになっていたりするということだ。


「それではジンさんが戻ってきたら鏡探し、早速始めましょうか」


「あの人、潔白はもう証明されたのに調査に加えて大丈夫なのか?」


「ええ。今のところ唯一信頼できる人ですし。それに……」


「ただいま」


 赤ずきんの発言を遮ったのは、開閉音と帰宅の挨拶。扉からひょっこり顔を出したのは、手洗いから帰ってきたジンだった。


「次はどこ調査するんだ?」


 訊いてきたのは調査にこのまま加わっていいか、ではなく、既に次の段階に進んでいた。もはや、調査を続けることはジンにとって決定事項のようだ。


「……勝手に付いてくるでしょう」


 赤ずきんはジンには聞こえない声量で、さっきの言葉を続ける。瞭雅は深く頷き、「確かにな」と返した。

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