No Re:flection 11
「おい、赤ずきん! こっち来てみろ」
「なんでしょうか……あれ?」
ある可能性が浮かんだ瞭雅は、それを裏付けるために赤ずきんを呼んだ。案の定、赤ずきんも同様に鏡から存在を無視される。
「やっぱり、映んないか。俺たちが登場人物じゃないからか?」
「いえ……設定上は同じ人間なので、それ自体の判別はつかないはずです。そもそも、人間を映さない鏡なのかもしれません。ダニエルさんを呼びましょうか」
そうして外で待っているダニエルに赤ずきんが説明し、鏡の前に連れてきた。彼は少し困惑とした表情を浮かべている。
「鏡の前で立つだけでいいのか?」
「はい、それで構いません」
やはり登場人物であるダニエルが前では、鏡は正常にその役目を果たした。
「本当にこれだけで調査の役に立つのか?」
「ええ、大収穫ですよ。ありがとうございました」
怪訝そうに首を傾けながら、再び外へ向かうダニエル。ただ鏡の前に立つだけで大収穫なんて言われたのだから、至極当然の反応だろう。しかし、こちらとしては本当にそれだけでだいぶ進展があった。
「何が違いなんだろうな」
「私たちと登場人物の、根本的な身体の違いが影響しているのかもしれません。私たちにあって、登場人物にないもの。あるいはその逆……」
ふたりともその違いに気づいたのか、視線を交差させ、答え合わせをする。
「魔力!」
設定上は同じ人間であったとしても、ここだけは明らかに違う。
「これが『魔法の鏡』だとしたら、魔力がない私たちが映らないというのも合点がいきます。明日小人の家に持っていきましょう。この仮説が正しければ、小人たちも映らないはずです」
「そういや、小人症候群は魔力がない病気なんだっけか」
それならば証明するのに願ってもない人材だ。
「……で、誰が運ぶんだ?」
「むしろ貴方以外の誰が運ぶとお思いですか?」
「デスヨネー」
およそ全長二メートルはあるだろう。背負うだけなら今の瞭雅には問題ない。だが動きづらさはどうにもならない。これを長時間、さらには山道を歩くことも考えると、明日のことだがもう嫌気がさしてくる。
「よし、ここでやることは大体やりましたね。事故現場のハシゴに行きましょうか」
「鏡探しか? やっぱ事件に関係あんのかな……コレ」
「ええ。これが被害者が出た全部屋にあったら、それはもうこの鏡が密室の鍵と言っているようなものでしょう。ミスリードの線も一応はありますが、偶然と説明するにはあまりにも都合が良すぎる」
「ミステリーにご都合展開はご法度ってか」
「はい、この『世界』はすべて予定調和ですから。偶然は必然であり、多くのことを偶然で済ませてしまう物語は駄作です。さらには腐らせないためにも、無駄な設定や物、人は極力ないように創られているはずですからね。当てが外れていたとしても、何かわかることはきっとあります」
この世界は予定調和。言い得て妙だ。外の世界での日常会話なんて、何ひとつ実にもならなそうな中身のないものばかりだが、ここでは登場人物の一挙一動が解決へ導くヒントになっていたりするということだ。
「それではジンさんが戻ってきたら鏡探し、早速始めましょうか」
「あの人、潔白はもう証明されたのに調査に加えて大丈夫なのか?」
「ええ。今のところ唯一信頼できる人ですし。それに……」
「ただいま」
赤ずきんの発言を遮ったのは、開閉音と帰宅の挨拶。扉からひょっこり顔を出したのは、手洗いから帰ってきたジンだった。
「次はどこ調査するんだ?」
訊いてきたのは調査にこのまま加わっていいか、ではなく、既に次の段階に進んでいた。もはや、調査を続けることはジンにとって決定事項のようだ。
「……勝手に付いてくるでしょう」
赤ずきんはジンには聞こえない声量で、さっきの言葉を続ける。瞭雅は深く頷き、「確かにな」と返した。




