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赤ずきんとオオカミくんはハッピーエンドを果たしたい!  作者: 黒昼
1冊目『白雪姫』──Snow≠White──
2/22

童話のifは異世界で 2

 信じ難い話だが、そう考えると色々と辻褄つじつまが合った。少女の『人なんて殺してない』という発言も今なら理解できる。少女が撃ったのはおそらく、この物語の主役である白雪姫。架空の登場人物であって、瞭雅や少女と同じ『人』のくくりには入らないということだろう。


「もうここがどこか、わかりましたよね」


「白雪姫の世界、なのか?」


「当たりです」


 少女に肯定され、もう疑いの余地はなくなった。ここは白雪姫の世界。信じるほかないだろう。


「じゃあ、あの女は本物の白雪姫か。どっかに行っちまいそうだけど……」


「構いません。彼女の行き先は分かっている上、今追ってもできることは特にないですから」


「……お前、何者?」


 今まで会話から、瞭雅と同じ外の人間だということはわかる。だが、なぜこんなにもこの世界の情報を持っているのだろうか。


「自己紹介から始めても私は構いませんが……それでいいんですか?」


「なにがだよ」


「いえ、帰り方とか気にならないのかなぁと思いまして」


「……あ」


 たっぷり数秒を費やした贅沢な静寂。それがもたらした成果として、焦燥感しょうそうかんと絶望感が次第に頭を埋め尽くす。


「そうだよ、ヤベぇじゃん! 授業が始まっちまう‼︎」


「授業第一ですか。その(なり)で勤勉なんですね」


「悪かったなぁ! 目つき悪くて図体デカくて‼︎」


 少女の何気ない言葉にコンプレックスをぶち抜かれる。ツーブロックに刈り上げられたベリーショートの黒髪に、精悍せいかんな顔つき……と称すれば聞こえはいいが、実際は目立つ八重歯に目つきの悪い三白眼という悪人顔御用達(ごようたし)のコンボ。いわゆる強面というやつだ。

 そして一九〇センチ近い身長も悪さをして、一見するとチンピラだ。事実、去年のことも相まって学校では不良扱いされていたりする。本当に不本意ながら。


「てか、んなこと今はどうでもよくって……早く俺を向こうに帰してくれ!」


「どうどう、落ち着いて」


「落ち着いてられるかっ!」


 時間的にもう授業は始まってしまっている。今まで皆勤だった上、ただでさえ悪い噂が立ってるんだ。サボるなんて絶対にありえない。


「大丈夫ですよ。ここにいる間、あちらじゃ時間は進んでないんですよ。なので、授業には絶対間に合いますから」


「マジで⁉︎」


 どういう仕組みかはわからないが、そういうことらしい。もはや思考停止して受け入れているが、超常現象を解明しようとするなんて天才か馬鹿のすることだ。つまりは疑問なんて抱かないのが吉だろう。


「いや、ホント良かった。一生帰れないとか言われたらどうしようかと思ったわ」


「ご安心を。ちゃんと帰れますよ」


「帰れんだったら、ちとこの世界で過ごすのもアリだよな。今思えば、俺めっちゃ貴重な体験してんじゃん」


「そうですね」


 瞭雅は現在進行形でフィクションの世界に入り込んでいるのだ。今まで幽霊や魔法といったオカルトの類とは無縁だった瞭雅には、この世界の何もかもが新鮮に感じられた。


「……まあ、それもすべて帰れたらの話ですが」


「え?」


 ギリギリ聞き取れるほどの小さな声で、少女はボソッと呟いた。聞き逃しても仕方ないほど、他愛なく吐き捨てられた言葉。だが、聞こえなかったフリをするにはあまりにも不吉なそれに、瞭雅は少女に目を向けた。ちょうど少女もこちらを見ていたのか、視線が交差する。


「ふふっ、そんなに私を見つめてどうかしたんですか?」


「いや、なんか不穏な言葉が聞こえた気がすんだが……『帰れたら』って言った? えっ、なんかやんねぇと帰れないのか?」


 瞭雅の発言で少女の顔に帯びていた笑みが一瞬消え、嘲るような姿に変わって再び帰ってきた。


「いつでも帰れると思っていたのなら、暢気がすぎますよ。顔面は凶悪なのに、頭の中ではお花でも咲いているんですか?」


「顔は関係ねぇだろっ! ……じゃなくて、どうしたら帰れるんだ。俺もなんか、しなきゃ駄目……なのか?」


 判決を待つかのように、恐る恐る尋ねる瞭雅。そんな彼の様子に、少女はおかしな刑を言い渡した。


「貴方には……ハッピーエンドのために命を賭してもらいます」


「パードゥン?」


 しまった。あまりの突飛さに、得意でもない英語がつい出てしまった。


「だから、ハッピーエンド(・・・・・・・)です! バッドエンドを阻止し、物語をハッピーエンドに導くために、貴方には粉骨砕身で働いてもらいます!」


「お、おう」


 何が「おう」なのか自分でもわからないが、少女の意気込みに押されて思わず頷いてしまった。


 了承とも取れる瞭雅の言動に満足がいったのか、少女もひとつ頭を大きく上下させ、赤頭巾を外した。長らく隠されていた栗色の髪が風になびく。三つ編みのハーフアップに、少女の腰ほどあるウェイブかかった長髪は、傾き始めた陽に透かされて紅く煌めいた。


 そして瞭雅を力強く射抜く、大きな焦茶色の瞳。薔薇のように美しさがありつつもどこか危険な香りのする容貌と小柄な体格、ゴスロリチックな服装も相まって、西洋人形を彷彿とさせる可憐さがあった。


「まあこれから色々お世話になりますし、まずは後回しにしていた自己紹介から始めましょうか。貴方のお名前は何ですか?」


「……お、大神 瞭雅だ」


「オオカミくん。ピッタリなお名前ですね! 私は赤ずきん。冒険譚の譚、訂正の訂と書いて、『譚訂たんてい』というものをやっております」


 明らかな偽名を名乗りながら、そして瞭雅の名前を盛大に間違えながら、両手でスカートの端を持ち上げて上品にお辞儀をする譚訂『赤ずきん』。


「私が推理するのは原作とはまったく違う、この『世界』のハッピーエンド。そして帰る方法は、私たちがそのエンディングへと導くことです。絶対にバッドエンドを迎える、この『世界』を……ね」

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