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赤ずきんとオオカミくんはハッピーエンドを果たしたい!  作者: 黒昼
1冊目『白雪姫』──Snow≠White──
15/22

No Re:flection 6

 ◇


 カタリナとの話が済んだあと、瞭雅たちはジンに話を聞くため、ダニエルの案内のもと彼の部屋を訪れていた。


「この部屋だ。俺は外で待っていよう。何かあったら呼んでくれ」


「わかりました。ありがとうございます」


 室内に足を踏み入れると、ベッドや机などの必要最低限なものしかない殺風景かつ簡素な光景が広がった。ジンはベッドで横になりながら読書に耽っていたようで、本越しに森林を思わせるグリーンの瞳と視線が合致する。


「お前さんたちが例の探偵か? 随分と若いな」


「はじめまして。赤ずきんと申します」


「ウォルフです」


「赤ずきんにウォルフか。よろしく」


 さすがフィクションと言うべきか、やはりジンもイケメンだった。毛先を遊ばせたアップバングの赤髪に、清涼さを感じさせつつもどこか威厳のある目。瞭雅と年はひとつしか離れていないはずなのに、どこか男の色気を感じる。ダニエルさんもイケオジだし、スノウを筆頭にどこもかしこも美形揃い。モブ顔に厳しい世界だ。


「それで、ハンスさんのことを聞きにきたんだろ?」


「えぇ、詳しくお伺いできたらなと」


「りょーかい。ベッドの上にでも座ってくれ」


 ジンはベッドから降り机の椅子に乗り換え、開いたそこを瞭雅たちに勧めた。言われた通りにそこに腰掛ける。


「そんじゃ、最初から話そうか。ハンスさんが死んだのは骨董品置き場だ。アンネリーゼ様が集めてたもので、今は開かずの部屋のひとつだなー。オレはメイド長の指示でそこからある彫刻品を取ってくるよう言われた。んで、部屋でそれを探してたらハンスさんが入ってきたんだ。オレはなんの用かって尋ねたんだが、お前と同じようなものって言ってたな。多分、嘘だろうけど」


「嘘?」


「ああ、だって顔色が心配になるぐらい真っ青だったんだぞ? 大丈夫かって訊いても、答えずになんかぶつぶつ唱えているし……そんで聞き耳たててみると、『嫌だ』とか、『許してください』とか言ってるしさ……」


 まるで、これから殺されることを知っているような、そういう発言ばかりだったらしい。


「気味が悪かったから、速攻で用済ませてハンスさんに鍵押し付けて部屋を出たんだ。けどよ、やっぱ気になってトト様に頼まれたもの渡してから部屋に戻ってみたんだよ。そしたら明かりは扉の下から漏れてたのに何故か鍵かかってて、声かけても返事ないし……ハンスさんが消し忘れただけかもって思ったけど、どうしても嫌な予感がして、通りかかったトト様に鍵を開けてもらったら……」


「ハンスさんは亡くなっていた、と」


「ああ」


 密室のトリックを解く鍵があったわけではないが、だいぶ捜査に役立ちそうな情報がつまった証言だった。


「『許してくれ』……ですか。ハンスさんは過去、何か罪でも犯したのでしょうか?」


「いーや、王妃殿下が権力にものを言わせて素っ裸にしたようだが、真っ白だったそうだぞ」


「じゃあ、何に対して許しを乞いたんだろうな……そもそも誰に? 犯人なのか?」


 三人揃えば文殊の知恵というが、さすがに今の情報量では厳しい。


「まあ、まずは事故現場に行ってみましょうか。何かわかるかもしれませんし、そこで貴方の証言の真偽もつきますしね」


「疑ってるのか? ひどいな、ガラスのハートに傷がついた」


 オーバーリアクション気味に左胸を抑えるジン。


「ご安心を。疑ってはいませんよ、信用していないだけで。それに、自分からそういう輩のハートは大体防弾加工済みです」


「おい、お前さんのガールフレンド塩対応過ぎるぞ。どうにかしろ」


「恋人じゃないし、アレが素なんでどうにもできません」


「マジか。顔に似合わず中身は可愛くないな」


「可愛くないっすよね」


「ほんっと貴方たち失礼ですね! くだんないこと言ってる暇があるなら行きますよ!」


「うい」


 悪ふざけをしている男二人組を置いて、赤ずきんとダニエルは一足早く事故現場へと向かい始めた。訊きたいことがあったので瞭雅は少し足速になり、赤ずきんの隣につく。


「そういや、なんで証言の真偽がそこに行けばわかるんだ?」


 さっきのことを根に持っているのか、じろりと一倪されたが、大きな溜め息をついて説明をし始めた。


「前に、この『世界』に来るときに能力が宿ると説明しましたよね?」


 瞭雅が《すべてを喰らう者(オムニ・グラトゥン)》の副作用で苦しんでいた時の話だろう。あちらの人間が、こちらに来る際に授かる力。今まで考えが及ばなかったが、赤ずきんもそうなのだから当然持っているはずだ。


「なるほど。お前の能力を使うのか」


 瞭雅は能力の恩恵をほとんど感じていない。確かに身体能力が向上したことで身体は軽いが……食っても食っても常に微妙な空腹感に襲われ続けるので、むしろ悪影響だ。赤ずきんの能力は捜査に活用できるということは、きっと利便性があるものなんだろう。羨ましい限りだ。


「ええ。私の能力は《再演リヴァイバル》。条件付きですが、『世界』の巻き戻し────時空の移動が可能です」


「……チートじゃね?」


「そうですか? 私からしてみれば、よっぽど貴方のほうがデタラメだと思いますがね」


「どこがだよ……まだなんの役に立ってないぞ」


 項垂れる瞭雅に慰めはかけず、赤ずきんは含みのある微笑みだけを残していった。

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