No Re:flection 4
「呪術で人の体質を変えたりすることはできるんでしょうか?」
どうやら赤ずきんは事件のことは一旦置いといて、次はスノウの呪いについて訊くことにしたようだ。
「変なこと訊くね……結論を言うと、できるよ。でもまあ、その類のほとんどは禁術だけど」
「禁術?」
「供物に人の血肉が必要なものだよ。使うだけでお縄についちゃうだろうね」
「他人にそういった呪術をバレずにかけることはできますか?」
「無理。どんな呪いによりけりだけど、基本儀式には時間がかかる。儀式中は魔方陣の上にずっといないとだから不可能だよ。寝てる間にやろうとしても、体質を変えるからかなり痛いらしいし……」
スノウが最初に死んだのは六歳のとき。おそらく十年ほど前のことだろう。それより幼い頃に無理矢理かけられたのなら、その記憶がないのもおかしいことではない。
ただ留意しておかないといけないことは、スノウの発言はすべて裏付ける証拠がないものだということ。話を聞いてる時は信じきってしまっていたが、すべて虚言だったのかもしれないのだ。
その場合はスノウが自分自身で呪いをかけた、あるいは他の人にかけてもらったということになるだろう。あまり考えたくない話だが。
「生まれつき呪われている場合もあったりしますか?」
「そういう家系はあるらしいけど……それ以外だと聞いたことないかな」
王族が呪われた家系だなんてことはないだろう。つまりは生まれつきという説は完全に否定された……いや、もうひとつあった。
「生まれる前は? 母体にかけた場合、腹の子供はどうなんだ」
「前例はないが……ふむ、子供も呪いにかかることは、あり得ない話でもないかもしれないな」
「本当か⁉︎ あっ、でも……」
新たに可能性を見つけ、一瞬浮かれる瞭雅だったが、すぐに先程のトトの発言を思い出した。原作通り、白雪姫の実母であるアンネリーゼはもう死んでいる。
「ありがとうございました。今訊きたいことは以上です」
「そう? お役に立てたようで何よりだよ」
一通り質問が終わり、トトは凝り固まった身体をほぐすようにグッと背を伸ばした。その勢いのまま立ち上がって出口へと向かっていくが、瞭雅の横を通った際、膝にそっと何かを落としてきた。覗いてみると紙切れが置いてある。
トトに疑問の表情を浮かべたが、返されたのは口に添えた一本の人差し指だけだった。
「さて、これでボクはお役御免だね。というわけで、ここで退場するよ。ではでは失礼」
「ほら、主人に許可も取らずに勝手に出ていっちゃうの変でしょ? まあ、そういうところも気に入ってるんだけどね」
トトは簡単な挨拶を残して部屋を後にし、カタリナは家臣とは思えない彼女の行動に苦笑した。瞭雅の手には謎の紙切れ。周囲に怪しまれないよう視線だけ紙に落とすと、裏に何かが書かれていることに気づいた。
『赤ずきんの赤は嘘の赤。気をつけなよ』
どこか既視感のある字で書かれた意味深な言葉と、それに添えられた警告。この短時間で赤ずきんについて何か気付いたとは考えづらい。ということは、トトと赤ずきんは以前から面識があったのだろうか。そして、この警告……彼女が嘘をついていると示唆しているのか、それとも……
「どうかしましたか?」
「えっ、いや。なんでもねぇよ?」
反射で紙切れは握りつぶしてしまったが、そうじゃなくても赤ずきんに見せることはなかっただろう。
──そういや、コイツのことホントに何一つ知らねぇんだな。
本名、年齢、出身。何が目的でここにいるのか、こんなにもこの世界に詳しいなぜなのか、ルージュの脚本という攻略の鍵をなぜ持っているのか……赤ずきんは本当に『人』なのか。
『赤ずきんの赤は嘘の赤』
赤ずきんはこの世界を『真っ赤な嘘』だと言った。それなら嘘色の頭巾を被る彼女も、嘘の一部なのではないか。
そんな妄想の域を出ない推測が頭を過ったが、すぐに霧散していった。




