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赤ずきんとオオカミくんはハッピーエンドを果たしたい!  作者: 黒昼
1冊目『白雪姫』──Snow≠White──
12/22

No Re:flection 3

「やあ、驚かせてすまないね。ボクはトト、よろしくお願いするよ」


 そんなこんなで瞭雅たちの背後から登場したのは、ぱっちり二重ではっきりとした顔立ちをしている女の子。女性にしては少し高めの背に、青みがかった黒のボブカット。漆黒を基調としたマント付きの服に、彼女の身長ほどある木製の杖と、主張の激しい三角帽子──いわゆる魔女っ子というやつ。

 彼女の出現とともに犬が消えたので、おそらくは魔術とやらを使ってずっと犬に変身していたのだろう。普通に肝が冷えるので、こういうサプライズはやめてほしい。


「彼女はトト。王宮魔術師兼、呪術師兼、私の護衛よ。少し性格に難があるけど……腕前と知識量は凄いものよ。私も魔術や呪術は全然わからないから、それについては彼女に訊けばいいわ」


「魔術に限らず、何でも訊いてくれていいんだよ? 特別に知ってることは包み隠さず教えてあげるよ。お客様のご要望なら、ボク個人のことでも……ね」


 トトが腕で自分の腰あたりを抱き、そのまま上に持ち上げると、年齢にしては豊満なそれが強調された。よく高校生に見えないと言われるが、これでも瞭雅は十七歳だ。あんな言い方をされると、サイズとかが気になってしまうお年頃。だがそんな煩悩も、苛立ちがこもった舌打ちで一掃された。


「一切興味ないので結構です。どうぞ座って」


 赤ずきんと相性悪そうだなとは思ったが、初対面で舌打ちとは……相当馬が合わないようだ。


「つれないなあ」


 だいぶ失礼なはずの赤ずきんの態度にも、トトは笑って受け流してカタリナの隣に座る。そして瞭雅の方を、じっとりと獲物を見るような目つきで眺めてきた。わかりやすく反応したのは軽率だったかもしれない。正直めっちゃ怖い。トトもだが、真横から感じる圧が超怖い。


「さあて、ボク()何が訊きたいのかな?」


「まずは魔術と呪術の違いを」


「キミに訊いてないんだけど……まあいいや。そのふたつの違いは簡単だよ。発動に自身の魔力しか使わないのを魔術、魔力以外に供物が必要となるのが呪術。呪術はその性質上、魔術より強力だけど儀式が必要となる」


 ひとことだけ苦言を呈しつつも、トトは惜しみなく答えてくれた。呪いと聞くとどうしても悪印象を抱いてしまうが、違いは発動方法だけで、呪術が悪というわけではないらしい。


「では次、今回の殺人に魔術を使うのは難しいと聞いたのですが」


「うん、難しいよ。《死の舞踏(メメント・モリ)》っていう魔術で殺すと、あんな風に綺麗に殺せるんだけどね……あれは両手で対象の首に触れている状態じゃないと発動しないんだ。対象を黒焦げにしてもいいんだったら、色々とやりようはあるんだけど」


「なるほど、密室だからその魔術は使えないと……密室の方をどうにかする方法はないんでしょうか?」


「鍵開けの魔術はある。けどまあ、もちろん全部屋対策済みだよ。解除された痕跡もなかったし……あと考えられるのは瞬間移動とかだけど、術はまだ編み出されていない。研究も行き詰まってて実現には程遠いようだし、除外してもいいだろうよ。だから密室をつくるのも多分無理」


 早々に白旗をあげるトト。瞭雅には何でもできそうな万能な力に見えても、やはり魔術にも色々と制限があるみたいだ。


「ただ、さっき話したのは全部一般で知られてる魔術を使った場合の話。もし犯人が自分で魔術を開発してたら、流石のボクにもタネはわからない。まっ、個人で術の開発をしちゃうなんて、偉大なる大魔女アンネリーゼ様ぐらいじゃないとできないだろうし、これもボクは正直ないと思ってるがね」


「……アンネリーゼって誰だ?」


 赤ずきんが尋ねる様子がなかったので瞭雅が訊いたら、それだけで宇宙人を見たかのような顔をされた。どうやら知っていなきゃ不味いくらいの知名度をお持ちの方だったらしい。


「嘘だろ、知らないのかい⁉︎ この国の元王妃様だよ。もう十年以上前に亡くなってしまったけどね。生前はいくつもオリジナルの術を編み出し、予言すらできたそうだ。ああ、ボクも会いたかったなあ……それにしてもキミ、アンネリーゼ様を知らないって、山にでもこもってたのかって感じだよ!」


「いやあ、ちょっと常識には疎くて……」


「そうですよ。彼はこの国の名前すら昨日まで知らなかったアホの子なので、あんまり常識攻めしたら可哀想です。泣いてしまいますよ」


「うぉい!」


 紛れもない事実だが、それでは瞭雅が本格的にヤバいやつになってしまう。あちらの世界で例えたら、日本に住んでるくせに日本の名前を知らないようなもの。記憶喪失を理由にしたほうが、まだマシなレベルだ。


「ぎっ、義務教育の敗北者……? これほどひどいのが実際にいるとは……」


 やめろ、ガチめのトーンでドン引くな。目を逸らすな。さっきまでの舐め回すような視線はどこに行ったんだ。……いや、そこまで熱烈なものはいらないが。


──そしてカタリナさん、アンタはなんで静かにツボにハマって痙攣してるんだ……。


 赤ずきんの余計な横入りのせいで微妙な雰囲気になってしまった。元凶に顰めっ面で睨んでみるが、余裕の笑みで返される。これをやったら大半の女子は涙目になるのだが、やっぱりコイツには効かないようだ。まったく、憎たらしいほど清々しい笑顔だ。一発ぶん殴ってやりたい。


「さて、話を戻しましょう。結局は魔術や呪術を使ったかどうかもわからないと?」


「……いや、大規模の術を使えばボクが寝てても察知できるだろうから、結局ボクにバレない程度のものであんな死に方になるのは《死の舞踏(メメント・モリ)》ぐらいなんだよ。以上が難しいって言った理由」


 そもそも魔術なんてものに通る筋があるかは微妙なところだが、聞いた限りでは道理にかなっていたと思う。かなっていたからこそ、ヤバい現状が浮き彫りになっていく。


「つまりはマジモンの密室殺人やんけ」


「かもしれませんねぇ」


 あくまで瞭雅たちは設定上の『探偵』であって、頭が良くなったり勘が鋭くなったりするわけではない。一介の学生には荷が重すぎるように思える案件だ。こんな依頼、本当に受けてよかったのだろうか。フレンドリーに接してくれているが相手は王族だ。解決できなかった時にごめんなさいでは済まないはず。そこんところ、赤ずきんはどう考えているのやら。

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