No Re:flection 2
カタリナの丁寧な挨拶に対し、赤ずきんがお辞儀をしたので慌てて瞭雅も深く頭を下げた。
「ご依頼承りました。探偵の赤ずきんと申し上げます」
「助手のおっ……ウォルフと申します」
思わず本名を名乗りそうになったが、なんとかとどめた。赤ずきんにはジロリと睨まれたが、カタリナには不審に思われていないようで、何事もなくテーブルへ招待される。
「ささっ、座って座って。長旅の後すぐで申し訳ないけど、依頼について話しましょう。大体はダニエルから聞いた?」
「えぇ。大まかな概要なら既に把握しております」
「ハンスに関しては他と違って色々あったから、そのことは後でちゃんと話すつもりだけど……ほかに聞きたいこととか、お願いとかあるかしら」
「被害者についてもう少し詳細にお聞かせいただければと」
「被害者についてね。まず最初に亡くなったカールだけど……」
それからカタリナはカールから順に説明し始めた。
カール。五十八歳男性。副執事。柔和な性格で、他の使用人との仲は良好。仕事も有能で、頼られることも多い良い上司だった。
アンナ。四十二歳女性。侍女。仕事にストイックで、そのことで揉めることも多々あったらしい。
モニカ。三十三歳女性。パーラーメイド──接客を専門としたメイド。働き者で、人間関係もこれと言った問題はなし。
ハンス。三十一歳男性。ハウスボーイ。仕事に関しては能力はあったが、それ故に手を抜くことも多かった。だいぶ大雑把な性格だったらしいが、人当たりが良く快活だったのが受け、人望はかなりあったらしい。
出身地も教えてもらったが、それも全員見事にバラバラ。ここまで聞いた情報には確かに共通点がないように思える。
「副執事に、侍女ですか……」
「それが何か気になるのか?」
「えぇ、まあ。使用人の中でもそこそこの位のはずなので……彼らの勤続年数、教えていただきますか?」
「少し待ってて。それも調べたはずだから」
カタリナは後ろで立っていた侍女に目を向け、彼女は了解の言葉を言い残し、粛々と部屋を出ていった。それから一分もかからない程度で戻ってきて、カタリナに耳打ちをする。
「カールは三十二年、アンナは二十年、モニカは十二年、ハンスは十三年ね」
「全員そこそこの古株になるん……すかね?」
基準がわからないから疑問形になったが、二桁勤めてたらなかなかに古参なじゃないだろうか。
「王城務めは長くなるからそこまで珍しいことではないけど、そうね」
「なるほど、ありがとうございました」
どこか満足げに頷く赤ずきん。瞭雅にはさっぱりだが、何か手がかりでもあったのだろうか。
「他にはない?」
「大変恥ずかしながら、私たちは魔術や呪術に関してはからっきしでして……その分野に詳しい人から色々と伺いたいのですが」
「あら、ちょうど良かった。後で紹介しようと思っていたのよ。……もう、姿を現していいわよ」
──トンッ
誰か来るのかと思い扉に目を向けたが、カタリナは変わらずこちらを──ではなく、それよりもさらに奥を見通していることに気づいた。そして部屋に響き渡った、床を叩くような音。その出所は真後ろからだった。




