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ろまけん - ロマンシング剣闘 -  作者: モノリノヒト
第弐部
7/37

第7試合 - 新たなる強敵達

 衝撃的なデュエルから一夜が経った。


 新進気鋭のルーキー、夜宮天晴よみやてんせいの名は、一部のデュエリスト界隈では、にわかに知れ渡っていた。


 天晴は……。


(昨日の感覚がまだ離れない。

 あの時、最後の一撃を放った時、自分がギアブレードと一体になったような感覚になった。

 実際、ただの体当たりだった気もするけど、あのバカでかいギアブレードから、コアを排出させる事に成功したんだ)


「天晴ーーー! いたいた~」


 ゆっくりと天晴が向き直ると、そこにはいつもの調子の友人の姿。

 天晴に向かって歩いてくるその姿をつぶさに観察すると、確かに歩様に乱れが見えるような気がする。


(おじさん、すげえな……)


「よう、カイル」

「昨日は大活躍だったな! 俺、もう信じられなくてよぉ!

 お前があんなに強かったなんてさ!」


「違うよ、俺は強くなんかない。

 昨日のは、運が良かっただけさ」

「運も実力のうち!

 だけど、その運をつかむだけの地力はいるんだぜっ」


「やべー、カイルの頭がマジでおかしくなってる」

「おかしくなってねえよ!」


 天晴がよく来る屋上は、この時期、とてもやさしい風が吹く。

 天晴は、それがとても心地よかった。


「カイル……あのさ」

「なんだよ、改まって」


「ぶっちゃけ、俺から見てもお前って剣闘に向いてないと思うんだ」

「ズガーーン!!」


「知識は凄いけど、身体が追い付いてないし、振り方も雑だし……。

 あ、あと、先天的に足と腰が曲がってる」

「な、なんでその事を……!

 というか、言いにくい事をズバズバ言ってくれるじゃねえか!

 でも俺は剣闘を諦めねえぞ!!」


「悪い、諦めろって話じゃないんだ。

 ミナギっているだろ、四天王の」

「おう、ミナギちゃんな。可愛いよな、みんなの妹って感じだぜ」

「……俺達より年上だけど」


「まあ、気にするなって。

 で、そのミナギちゃんがどうしたんだ?」

「お前が剣闘、続けるって言うなら、ミナギって人を参考にした方がいいと思うんだ」


「どうしてだ? テクニカルタイプは打ってもダメ、受けてもダメって感じで扱いがすげえピーキーなんだぜ?

 そんなんだから人気もいまいちだし、自分で言うのもなんだけど、俺みたいな、すっとろい奴には向かないと思うんだけど」


「えーと、何て言うのかな……。

 剣闘が好きで努力するなら、型にこだわらなくてもいいって感じでさ。

 テクニカルタイプって、そういうのを言うんじゃないか?」

「おおー……、デュエルの勝者が言うと、なんか妙な説得力があるな。

 天晴、ついに剣闘に興味が出てきたか!?」


「いや、興味は相変わらずないけど。

 でも、お前の事は応援したいから、ちょっと……調べたり、聞いたりした」

「ありがとう、天晴!

 やっぱお前いいやつだよ」


「やめろよ、気持ち悪い。

 ところで、元々はどんなギアブレードを買おうとしてたんだ?」


「前にお前に話した30万のやつは、ディフェンスタイプだな。

 ディフェンスタイプはガチガチに硬いから、相手の攻撃をガンガン受け止めていける。重量があって取り回しは悪いけど、初心者でも扱いやすいし、使い手の多いアタックタイプに対して、意外なジャイアントキリングもいけるんだぜー」

「ふーん……」


(おじさんと、ユッコねーちゃんが話してた内容と少し違うな……。

 神威って人は防御技術が凄いとか、ディフェンスタイプで名の売れた人は凄いとか、もっとセンスが必要そうな話をしてたけど)


「ああ~、話してたらやっぱディフェンスタイプが欲しくなってきたな~!」

「まあ、お前の金だから無理強いはしないけど、一応考えておいてくれよな。テクニカルタイプ」


「おう! 親友のアドバイスも真摯しんしに受け止めるぜ、俺様は!」


──キーンコーンカーンコーン。


「あ、あとな、天晴」

「ん?」


「こないだの天晴のデュエル見てたら、オールドタイプも悪くないって思ってさ。

 オヤジにオールドのギアブレード借りて、トモさんに相手してもらってるんだ」

「……そっか」


「行こうぜっ! 授業が俺達を待っている!」



 * * *



 日の光が屋根の隙間から漏れる、ある種神秘的な印象を与える廃工場。

 そこには昼間だというのに、三人の男たちが顔を突き合わせていた……。


「……塚原の処分は済んだか」

「ああ。所詮は偽物、このパルテノンの面汚しだ」

「もう奴はパルテノンじゃない。

 処分が済んだなら対外的なメンツは保てただろう。

 ザコは許さない、それがチーム・パルテノンだってな」


鏑木かぶらぎ、傘下のチームはどうなったんだ。

 塚原のバカが潰しまくったせいで、あまり増えてないんじゃないか」

「そっちはぼちぼちかな。傘下のチーム自体は増えてる。

 上納金もレアカードを買えるぐらいの額にはなってるぜ」

「ヒュゥ、7桁は超えてるわけか」


「ザコチームはザコなりに使い道がある。

 だが、大元である俺達パルテノンは、選ばれし三人だけで構成されていればいい。

 無駄金をかけてるラグナロクの連中とは違う」

「俺達三人が中心となって、中核であるお前を徹底的に強化するスタイルのワンマンチーム」

「無駄を削ぎ落すと、チームってのはこうなっていくもんだよな」


「俺達パルテノンは」

「「「オールフォーワン。全ては一人の為に」」」


「……だけど勘違いだけはするな。

 もし、お前達二人のうち、どちらかが俺を超えたら、その時は俺も全てを差し出す覚悟だ。

 二番手に甘んじるな、研鑽けんさんしろ」

黒澤くろさわ……」


「……ああ、そのつもりだぜェ」


 パルテノンの中核を担う黒澤の檄に、本気度の計れない返事をする男、国生こくしょう

 その国生に対し、鏑木はわずかな疑念を抱いていた。


(国生……食えない奴だ)


「……ところで黒澤、塚原をヤった奴も探そうと思えばすぐに見つけられるが、どうする?」


「塚原の敵討ちなどどうでもいい。だが……」


 黒澤が、闇を貫く鋭い眼光を見せる。


「無名の新人が塚原をヤったというところに興味が湧いた。

 ラグナロクの連中も新人を嗅ぎまわってるらしいしな」


「いきなりお前が出る気か……」


「塚原なんぞの妄言に付き合って、パルテノンの名声を落としたのは俺だ。

 お前達に期待はしているが、今パルテノンで一番強いのは俺。

 これ以上パルテノンの名声を落とすわけにはいかない、だから俺が行く」


「……手配は任せろ」


 鏑木はすぐさま動き出す。



 * * *



「何? パルテノンの黒澤が夜宮を探してる?」


 研究室の一角。

 パソコンと向かい合っていた男が、思わず向き直る。


「ああ、ブラギからの情報だ」

「あいつはよくやってくれてるな、ナンバーを与えてやりたいぐらいだ」


「オーディン、ブラギは諜報員としての腕は確かだが、デュエリストとして数えるのは難しいぞ……」

「わかっている、それぐらい賞賛したいという気分的な話だ。

 しかし、黒澤が動くとは。

 RPGならセオリーを無視した強敵だぞ」


「まずいんじゃないか、夜宮が潰されるのは」

「これから伸びる逸材……確かに俺はそう推測している。

 だがトール、奴がディフェンスタイプの黒澤にどう立ち向かうのか、気になるとは思わないか」


「それは気になるが……そんな悠長な事を言っていられる相手じゃないだろう」

「……現時点での戦力分析では、圧倒的に夜宮が不利。

 ギアがオールドタイプである事を加味すれば、さらに不利な条件が整う。

 黒澤はあれでなかなかの使い手だからな」


「昔、ラグナロクでも通用すると言っていただろう」

「昔、な。

 今の黒澤は実戦から離れすぎた。

 奴にどんな心境の変化があったかは知らないが、後進の育成に力を注いでいる」

「裏方に居過ぎたってわけか」


「カードやギアは以前より充実しているが、本人の腕はどうだろうか。

 特にディフェンスタイプは、使い手の技量がもろに出る。

 テクニカルタイプとは違う意味で、ディフェンスタイプのギアブレードは、わがままなギアなんだ」


「そのブランクが、夜宮の勝機なのか?」

「そうだ。確率にして3%あるかないかだがな」


「SSRの排出率ぐらいだな……。

 それとな、円卓も動いているらしい」

「円卓も? ははっ、凄いぞ夜宮天晴。

 デュエリスト界隈に激震が走っているじゃないか」


「笑い事じゃないぞオーディン……報告をくれたヨトゥンも相当慌てていた。

 よりによってアーサーとランスロットが次のデュエルを見ようとしているらしい」

「そうか……大型ルーキー夜宮天晴を前に、デュエリスト界で指折りのチームであるラグナロク、パルテノン、円卓の騎士の重鎮が勢ぞろいするわけだ」


「夜宮を見に行くのは構わないが、頼むから悪戯心いたずらごころを起こさないでくれよ」

「ふっ、俺も信用がないな」



 * * *



 ──ヴァァァァァン!

 ──ギュィィィン!


 ガチィ!


 多目的ホール内に、ギアブレードの駆動音と金属のぶつかり合う音が聞こえる。

 デュエルをしている二人の姿を真剣に見つめるつぶらな眼。

 その目の持ち主である、均整のとれた体型をした女性に、背の高い男が近づいた。


「ホントに行くのか? アーサー」

「行くわ。私たちはデュエリスト界の自警団、円卓の騎士よ。

 あの暴れん坊の塚原をやっつけた子がいるなんて、いい子なら勧誘したいぐらいだわ!」


 目線は外さず、発言に過分な自信を漂わせながら、アーサーと呼ばれた彼女は言った。


「いぃえぇーーい!」


 アーサーの視線の先には、軽業師のように空中を回転しながらギアブレードをかすめていく、トリッキーな動きを見せる女性。


「くっ!」


 なかなか相手のギアブレードを狙えず、翻弄される気弱そうな男。


「ガラハド~、もっと頑張ってくれないと練習になんないよ~」

「トリスタン……頑張ってはいるんだが」

「も~、トリスタンじゃなくて"トリスたん"って呼んでっ」


 喋りながら、ガラハドの肩を掴み、上空へ大ジャンプ。

 ガラハドが慌てているうちに、カードをセット。

 そして流れるように、シュート。


「お~わりっ」


 パキン。


「あっ」


 ピーン。


 ガラハドが気付いた時には、既にコアは排出されていた。

 完全にトリスタンに手玉に取られた一戦となった。


 肩を落とすガラハドに近づく背の高い男。


「ガラハド……。お前はテクニカルタイプに弱すぎだ」

「兄さん……」

「一応、円卓の騎士内ではランスロットと呼べって」

「ランスロット……兄さん」


「アーサー、見た~? アタシ勝っちゃったわ~、ガラハド相手なら100戦やっても100回勝てるわ~」

「見てたわよ、さすがねトリスタン!

 次は私とやる?」

「ヤダ、アーサー強すぎるから~」


 唇を尖らせるトリスタンに、くすりと笑ったアーサーは、敗者の元へと向かう。


「ガラハド」

「アーサー……」

「しっかりしなさい、テクニカルタイプは素直な打ち合いに弱いの。

 だから全身を使ってかく乱してくるのよ」

「頭では、わかってるんだけど」


「頭で考えてたら遅いわ。

 とにかく予想外の事をしてくるのがテクニカルタイプだから、経験を積む事!

 予想外という事態そのものがなくなれば全ては予定調和!

 怖いものはなくなるわ!


 次は同じテクニカルタイプだけど、トリスタンとは別の意味でテクニカルなマーリンとやりなさい!」


「うっ、マーリンはトリスタンよりえげつなくて苦手なんだよな……」

「ガラハド、目つぶしと金的には気をつけろよ……」

「に、兄さん……」


 哀れガラハド、君の明日はどっちだ。


「で~、モードレッドとパーシヴァルは何してんの?」


 かれこれ数分はギアブレードで鍔迫り合いを続ける二人の男の元へ、緊張感なくトリスタンが近寄る。


「……」

「……」


 ギギギギ……。


 ディフェンスタイプの二人同士の戦いとは地味なものである。

 こうして鍔迫り合いになってしまえば、先に音を上げた方が負ける。

 二人にとっては、我慢のしどころ、正念場なのだ。


「そ~んなにギアをこすりあわせて何が楽しいのかな~。

 お互い真剣な目で見つめあっちゃって、もしかして、禁断の恋!?」


 そこに、どこまでもかしましい女が割り込んできた。


 モードレッドとパーシヴァル……。

 共にディフェンスタイプの使い手である二人の耐久勝負は、あらぬ珍入者により、集中力を切らせた方が負けるという勝負になってきた。


「おっほぉ~、二人のイケメンの真剣な顔……。

 たまりませんねぇ~! しかも二人の間に漂う、危険なかほり……!

 んんっ、ビィ!エル!!」


「……」

「……」


「待って、思い出すのよトリスたん……。

 ここにはいないけど、もう一人いたじゃない……!

 モードレッドとパーシヴァルという二人を熱く見つめるあの瞳の持ち主が!

 ああっ、ガウェイン! ダメよ、そんな!」


「うるっさいなもう!」

「うるっせぇぞ!」


 パキッ、パキッ。


 ピーーンッ……。


 ほぼ同時に二人のギアブレードからコアが排出された。


「「あ」」


 円卓の騎士は今日も平和だった。


 

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