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ろまけん - ロマンシング剣闘 -  作者: モノリノヒト
第壱部 
5/37

第5試合 - 剣豪のギアブレード

 ──クゥゥゥン……。


「う、ウソだろ……」

「トモ先輩、どうしたんですか!?」


 天晴のギアブレードの駆動音を聞いたトモの顔が明らかに青ざめる。

 その顔には期待を裏切られた事と、不安が色濃く反映されていた。


「天晴のギアブレード……オールドタイプだ。

 しかも、ド・ノーマルの……」


「ヒェァッ!? ドノーマルの、お、オールドタイプ!?」


「俺の親父がギアブレードマニアでさ……、一本だけあるんだ。

 ああいう音を出すオールドタイプのギアブレードがさ……」

「ま、待ってくださいよ!

 オールドタイプの正統発展形であるアドバンスドタイプが出たのが8年前っす!」


「その1年後には、現在主流となっているカードが挿せるタイプの高性能ギアブレードが誕生したんで、短い命だったけどな」

「オールドタイプって、もはやアンティークっすよ! 9年以上前じゃないですか!」


「9年なんてもんじゃねぇんだ。

 あの静かな駆動音ってさ、16年くらい前に販売された"静音"とかいうシリーズのやつなんだよ。

 あんまり流行らなかったから、すぐ絶版になったらしいけど」

「静音って、性能に全く関係ねーー!!

 そりゃソッコー販売中止になりますよ!」


「対してあの偽物が使ってるギア、調べたところによるとアタックタイプらしい」

「アタックとオールドなんて、かすっただけでコアごとバッキバキになるんじゃ」


 さすがに大げさだが、比喩表現としては正しい。

 それほどまでに両者のギアには差があった。


「ギアブレードにここまで差があると……。

 天晴、やばいかもしれないな……」


 * * *


「カードは使わねぇのかぁ? オラァ!」

「使えない」


 塚原の豪快な振りも、よく見ていれば回避できる。

 何度か見た店長の動きに比べれば無駄が多く、直線的だ。


 我流と呼ぶには相応しいが、荒々しさだけが目立ち、剣術として完成しているとは言い難い。


 半身を逸らし、豪快な振り下ろしを回避。 間合いを詰める。

 だが、相手のギアブレードが巨大な分、通常よりも間合いが広く、すぐに距離をとられてしまい、反撃に転じる隙がない。


(大丈夫だ、店長の言う通り、相手の攻撃には対応できている)


 後はいつ、攻撃に転じるかだけ。


 * * *


「店長~、天晴くん、大丈夫なんですか~?」

「あのねえユッコちゃん……呼んでもいない日に開店前の店に来て何やってんの」

「私、この職場好きなんですよ~」


「それならもっと遅刻せずに来てもらいたいなぁ」

「今日は遅刻してないですよっ、天晴くんのデュエル、もう始まってるでしょ?」

「そうじゃなくて……」


 店長こと伝説の剣豪、塚原日剋が困ったように頬をかく。


「そうそう、店長、聞きたかったんですけど、この一週間、天晴くんに何を教えてたんですか?」

「ん~? 空手の足さばきだよ」

「空手!?」


「立ち技最強はムエタイってよく言うけどね。格闘技はもちろん、柔道、剣道、テコンドーも、すべての基本は足腰なんだ」

「今の韻を踏んだつもりですか? 上手くないですよ」

「ああ、もう、茶化すならほっといてくれ」


 * * *


「すげぇ……」


 天晴はほとんど退く事なく、相手の攻撃を紙一重でかわしていく。

 不意の横薙ぎにも不思議な足さばきで対応している。


「なんかよくわかんないけど、天晴のやつ、やれてますよ先輩!」

「ああ……、ああ……!」


(天晴の動きは、はっきり言えば地味だ。

 俺達はドーンと派手な動きで回避したり迎え撃ったりしていたが、本当に強い奴の動きは、こうやって小さくコンパクトにまとまっていくものなのかもしれない)


 だが、敵にも切り札はある。

 高性能ギアブレードであるがゆえの、切り札が。


「チッ」


 先ほどから、ことごとく攻撃を回避されている。

 その事にイライラしている事を塚原は感じ取っていた。

 そのフラストレーションを、ここに来て解放しようとしている。


「へっへっへぇ、ザコギア相手にカード使うのは趣味じゃねぇんだがよ。さっさと帰りてぇからな、遠慮はしねぇ!」


 大振りの横薙ぎ。

 当然こんなものは天晴に当たらない。


「でかい剣には、でかいなりの使い道があるんだよなぁ!」


 大振りの攻撃はかわしやすい代わりに空間支配力が高い。

 当たらないように回避をすれば、少しずつ距離が開く。


 そしてその時が来る。


 ──ピッ。


 天晴、瞬きの刹那。

 塚原、カードを挿入。


「ああっ! あいつカード入れましたよトモ先輩!」

「見えてるよ! どうする、天晴、大丈夫なのか?」

「くそっ、大会じゃないから何のカードなのかわからない!」


「オラァ!」


 ギュガギィィィ!

 カードを挿入したギアブレードが異音を上げる。


「ひひひっ、終わりだぜ、小僧!」

「知ってるか? 本物の塚原日剋はカードを使わないんだってよ」

「それは古い情報だぜぇ、ギアが進化するように、使い手も進化するんだよッ!」


 一瞬の刹那、予備動作なく放たれる斬り、突き、払い。


(──速いっ!)


 寸でのところで回避する天晴。

 店長の動きを見ていなければ、とっさに回避することは難しかったかもしれない。


 ──天晴、カードってのは、常識外の効果を生み出すものだが、使い手が人間である事に変わりはない。

 ありえない事は起きないが、緩急の変化には気をつけろ。

 例えば、こんな感じの──


(おじさん、わかったぜ……これが、カードの効果かっ……!)


 * * *


「相手の人、体格に恵まれてるそうですよ。

 天晴くんは普通だから、力負けしないか心配だなぁ」

「力でぶつかったら負ける。その心配はいらないよ」


 ユッコは掃き掃除をしながら。

 店長は蕎麦の仕込みをしながら、それぞれ天晴への思いを語る。


「すごく改造してあるけど、アタックタイプのギアなんですって」

「詳しいねえ、ユッコちゃん」

「え、まあ、それなりには。えへへ」


「どんな改造をしてあろうと、アタックタイプは当てれば勝つ、当たらなければ負ける。そういう基本があるんだ。

 だから、相手がカードを使ってきても、行動に関するバフしか使わないと見るね」

「ははぁ~、デバフはない、と」


「ない。四天王クラスでも、アタック使いは120%、ビートダウンで勝ちにくる」


 * * *


「わかったぞ、あれは……無拍子むびょうしのカードか!」

「な、なんすか、無拍子って!?」


「ギアブレードを振るう時、どうしても、振り戻しが存在するだろう? その振り戻しをCPUが感知して、機械が補助してくれるんだ」

「それってつまり……」


「予備動作の動きをギアブレードがカバーしてくれるから、すげえ手数の攻撃ができるようになる!

 それなりにレアなカードだから、俺も初めて見るぜ!」

「あんな一瞬で攻撃動作に入られたら、俺なら近づけねぇっす!!」


「ほらほらぁ!」


 次から次へと繰り出される連続攻撃。

 下ろした剣を持ち上げるまでの動作が異様に早い。


(これがカードの力……。

 凄い、凄く強い"カード"だ!)


 だが、そのカードを、引いてはギアブレードを操るのもまた、人間である。

 人間の関節が不可能な動きはできない。


 特に、塚原のように体格に恵まれているものは、体が硬かったり、低い位置への攻撃が苦手だったりするものである。


(読める……)


 最小限の動きでかわし続ける天晴。


「天晴、かわしてます!」

「だが、攻撃の機会がない!」


 * * *


「5分経ちましたね。決着、ついたでしょうか?」

「今の剣闘ならもう終わってるだろうけどね。

 昔は30分ぐらい平気でギアブレードをぶつけあったもんだよ」

「なんか落ち着かないなぁ、何か起きるんですかねぇ、店長」


「何も起きないって。ただの予定調和だから。

 あと50分で店を開けるのも予定調和だよ」

「でも、剣闘シーンを一変させた大発明がカードですよ?」


「わかってる、でもそれは力の差を広げたわけじゃない。

 引き出しの多さを増やしただけだ。

 だからアタックタイプがどんなカードを使ってきても、真にアタック使いなら、基本動作は変わらない」


 言ってから首を振る店長。


「いや、むしろアタックタイプだからこそカード効果はシンプルな方が強い。

 相手がアタック使いとしてそれなりの領域にあるのなら、決して基本を外してこないはずだ」

「なるほど……。じゃあ、相手がカードを使ってきたら、天晴くんは我慢の時ですね」


「へぇ。ユッコちゃん、案外剣闘に詳しいね。

 我慢して耐え、相手の疲労を待つ、それもいい戦略だ。

 でも天晴はそうはしないだろう。あれで負けず嫌いだから、自分が一方的に押し込まれる状況は望まない」


「あはは……って、攻め返すんですか!?」


「俺の予想通りなら、その反撃が膠着こうちゃく状態を破る、引き金になるね」


 * * *


 天晴はイライラしていた。

 回避はできる、当たらない。

 だが攻め込めない。


 巨大なギアブレードによる圧倒的リーチ差、カードによる振り戻しの速さ。

立ち位置こそ変わっていても、実際の距離は開始時からほとんど詰まっていない。


 なぜ攻め込めないのか、理由は単純明快、恐怖であった。

 天晴は、体であのギアブレードの威力を知ってしまっている。

 あのギアブレードで殴られた痛みが、そして恐怖が身をすくませている。


 手持ちのギアブレードで受ける事は許されない。

 相手は高性能アタックタイプのギアブレードだ。

相手のギアブレードを破損させ、コアを排出させる事に特化した攻撃タイプ。

当たれば勝つ、というシンプルさを極限まで追求したギアブレードなのだ。


 堅いという評判のディフェンスタイプですら、カードなしで受ければ2発ともたずにコアを排出してしまうだろう。


 ならばオールドタイプのギアブレードでは、なおのこと。

真正面からの打ち合いは誰が見ても不利であった。


「くぅ……! 天晴のやつ、攻めあぐねてますよぉ」

「アタックタイプ相手に防御を強いられるなんて、負けパターンそのものだ。このままじゃまずい」


(こんにゃろうっ!

 ぶんぶんブンブン振り回して、疲労ってものがねーのかよ!)


 心の中で不満を吐く天晴。


 答えは、否。

塚原にも疲労はある。

 だが塚原とて、数多くのチームを潰してきた有力デュエリストの一人。

今の天晴に気取られる程、疲労を見せたりはしない。


「でも、れて攻め込んだら負ける!」

「耐えろ、天晴ーー!」


(冗談じゃない、さっきから敵の攻撃が少しずつ鋭くなってきているんだっ……。

 俺の動きが読まれ始めてる? 違う、俺の足が……鈍くなってるのか……?)


 天晴が焦りを感じ始めていた頃、余裕を見せる塚原も内心焦っていた。


(冗談じゃねぇ、柳のようにひらひらと攻撃をかわしやがる。

 こっちも反撃が来ることを覚悟で、目いっぱい攻め込んでるってのによぉ!)


 鋭い攻撃を仕掛ければ仕掛ける程、カウンターを貰うリスクが高くなる。

 それを承知で、塚原は攻めに比重を置いていたのだ。


 巧みにフェイントを織り交ぜながら、天晴の態勢を崩そうと攻撃を仕掛ける。


(一発でいい、あんなオールドタイプのクソザコギア、一発いれれば再起不能な程バッキバキにしてやる……。

 いい加減、ギアブレードで受け止めやがれ!)


(いい加減、こっちにも反撃させろよなぁぁぁ!)


 塚原の突きをかいくぐるようにして、接近する天晴。

 その時、勝利の女神のため息が、戦場を通る。


 ──ずるっ。


(滑った!?)


 体勢を崩す天晴。


(もらったぜ小僧!)


 無防備に晒された天晴のギアブレードに向けて、塚原の無慈悲な一撃が飛ぶ。


(ギアブレードだけは……守らなきゃ……!)


 ──バキィ!!



 * * *



「オーディン」

「トールか、どうした。

 というか、あまり日中にその名で呼ぶな、少し恥ずかしい」

「そう言うな、ラグナロクとしての話なんだ。

 新しい情報が入った。

 例の塚原日剋に育成されたという剣闘士が、パルテノンの塚原とやりあっているらしい」


「ほう、それはそれは」

「どっちが勝つと見る?」

「情報が少なすぎて、予想にもならんがな。

 そのルーキーは、偽塚原とは経験が違うんだろう?」

「そりゃあな、ルーキーについては、つい最近ヨルズから入ってきた情報だし」


「偽塚原は大した男じゃない。ラグナロクに来たら、片手でノせる程度の戦闘力だ。

 そんな奴に負けるようなら、俺達が気にしても仕方がない」

「ヨルズは随分肩入れしてるみたいだけどな……。

 そうそう、情報によればルーキーが使うギアは、アドバンスドかオールドだって話だ。

 育成期間は1週間程度。それまでは独学で振ってたらしいが」


「独学か。遊びでやってる小僧と変わらんな。

 塚原が目をかけるぐらいだから、それなりにやるんだろうが……」

「旧式の非高性能ギアじゃな」


 トールが肩を落とすようにコーヒーを飲む。

 だが、オーディンの目は、一縷いちるの期待に満ちていた。


「違う、トール。むしろ俺はそこに着目しているんだ。

 現代のカードを入れ替える頭脳戦でないからこそ、アタックタイプとの闘いにはアドバンスドタイプなどの旧式が適していると考える」

「……マジで言ってんのか」


「アドバンスドタイプの利点は、ディフェンスタイプと同等の耐久性にある。カードを挿せばディフェンスタイプの耐久は飛躍的に向上するが、カードを挿すという動作は、どんな達人でも必ず一拍の隙が出来る。

 そこを無視できる旧式ならではの利点は、決して無視できない」

「凄いな……旧式に利点があるなんて、考えもつかなかった」


「俺も旧式を極めようとした時期はあった。だが、あれは一般的じゃない。理屈では理解できるが、身体が追い付かないんだ。

 だから、手数の引き出しを、カードで手軽に広げられる高性能ギアが強い、と結論づけた」

「だけど本質は体を動かすデュエルだってことに変わりはないってわけだ」


「その通り。ルーキーのそれまでの鍛え方と、センス次第では……

 面白いどんでん返しになるかもしれないぜ」



 * * *



「うわぁぁぁぁ!!」

「すげえ音がしたぞ、天晴、大丈夫か!!」


 天晴はあおむけに倒れていた。


 あの瞬間、咄嗟とっさにギアブレードを守った天晴。

 それに対し、攻撃がギアブレードに当たらないとわかった塚原は、怒りのあまり、うつ伏せに倒れ込もうとしていた天晴の顔面をつま先で蹴り上げたのだ。


 ──クゥゥゥン……。


 天晴のギアブレードは稼働している。

 コアは排出されていない。

 まだ、勝負はついていない。


 だが。


「天晴ーーーー!!!」


 天晴は起き上がらない。


「チッ、思わずやっちまったぜ。

 まあいい、これはデュエルだからな。

 てめーの命よりギアブレードが大事なら、そうやって抱えてな」


 不本意な決着に言い訳をするようにして塚原が天晴に近づく。


 巨大なギアブレードが大きく振りかぶられ、天晴ごとギアブレードを両断しようとする。


「うわぁぁぁ、もうダメだぁ!!」


「オラァ!」


 ──ガキィン!!


 ギアブレードとギアブレードがぶつかる金属音が体育館に響く。

 反響する音が脳に達した時、全員がその音の違和感に気付く。


 ──クゥゥゥン……!


「な、なんだとぉ……」


「ヒェッ! ギアブレードが!」


「折れてねぇ!!」


「天晴! まだ負けてねえぞ!!」


「……はっ!?」


(お、俺、気絶していたのか!)


 衝撃と金属音で目を覚ます天晴。

 飛び跳ねるように起き上がる。予想外に絶妙の間合いになっている。


 コアは排出されていない。

 ギアブレードが手に吸い付く感触はある。

 静かな駆動音と共に、ギアの稼働する僅かな振動が心地よく手に伝わってくる。


 その振動は、天晴にはギアブレードが「まだやれる」と言っているように聞こえていた。


「ありえねえ! 今ので折れない旧式があるなんて!」


 動揺する塚原のギアブレード目掛けて、一直線に突き進む天晴。

 ギアブレードと共に、一筋の光となって、塚原のギアブレードを貫く──!!


 

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