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ろまけん - ロマンシング剣闘 -  作者: モノリノヒト
第伍部
33/37

第33試合 - オーディン

「お前の事はよく知っている。

 多分、お前以上にな」


「あ、光栄デス……」


「お前の蒸発した両親についても知っている。

 俺に勝ったら、教えてやるぜ」


「あ、ハイ……。


 えっ?」


「始めようか」


『お待たせしました、ご来場の皆さん!!

 ラグナロクのオーディン主催、剣闘エキシビションマッチ!


 ラグナロク主神オーディン VS チーム蕎麦屋、夜宮天晴!


 まもなく開始です!!』


 ──ワァァァァァァ!!!


「大会形式は初めてか?

 名乗りまでは同じだ。

 開始はアナウンサーが「剣闘開始」と告げてくれるから、それを合図に始めるんだ」

「はい、わかりました」


「敬語は使わなくていいぞ、これから一戦交える相手なんだからな」

「あ、いえ、使おうと思ってるわけじゃないんですけど、なんとなく」


「そうか、まあ、無理に正す必要もない。

 存分に力を発揮してくれ、存分にな」


 ──ガァァシュゥゥ!

 ──ヴァァァァァン!


「ギアの調子はいいようだな。

 色々と話したい事がある。

 程よく観客に見せながら、聞いてもらうとするよ」

「えっ、はい……」


(なんだろう、調子が狂うな)


「俺はチーム・ラグナロクの主神。オーディン。

 流派は朱雀飛天流」

「チーム蕎麦屋、夜宮天晴です。

 流派は、とわり流」


『さあ、お互いの名乗りが終わったところでェェェ!!


 いざ!!! 剣闘開始ィィィ!!!』


 ──ワァァァァァァ!!!!


 ひと際大きな歓声。


(しまった!)


 開幕に先制攻撃を仕掛けるはずが、歓声に気を取られてしまった。

 オーディンは、余裕のある笑みを湛えて、天晴の出方を伺っている。


(今更仕掛けても奇襲にはならない。

 おじさんが見せてくれた瞬歩は、機先を制するから意味があるんだ)


 オーディンはカードすら挿入していない。

 その姿に違和感を覚えながらも、無難にカーリッジのカードを挿入していく。


 ピピッ。


 舞台装置がギアブレードに挿入されたカードを読み取り、モニターにその効果を映し出す。


『夜宮天晴! カーリッジのカードを挿入ッッ!!

 いや!? あれは新型のギアブレードだ!

 カードを挿入するのではなく、スキャンするタイプだッッ!!

 これは期待!!』


 ──ワァァァァァ!!


(……!)


 天晴から、どっと汗が出る。


 これが大会形式。


 どんなカードを使ったかが瞬時に読み取られ、モニターに映し出される。

 使った本人はもちろん、観客にも、対戦相手にもカードの効果は丸わかりである。


 おまけに解説が煽る煽る。

 手の内を全て晒されているかのような気恥ずかしさが天晴を襲う。


「あ……」

「カーリッジか。

 お前はまず様子見にそのカードをよく使うようだな。

 恐らく、カードに不慣れである理由から、少数のカードをパターン化して使っているのだろう」


 まさにその通りであった。

 耐久性の高いディフェンスタイプを使う天晴は、まずは耐久力を底上げし、相手の出方を伺うスタイルになっていた。


 よく言えば新型に慣れて洗練されつつあるが、オールドタイプを使っていた頃のような荒々しさはもうない。


「では、俺のカードはこれだ」


 ──ピッ。


『対するオーディン! ハイディングのカードを挿入ッッ!?

 どういう意図だぁぁぁ!?』


(な、なんだ、ハイディングって? し、知らないカードだ……!)


 完全にオーディンの手の内に取り込まれつつある天晴であった。


 * * *


「ハイディングだって、オーディンってば、ふざけてるの?」


 観客席から見ていたユッコが憤慨する。


「仮にも第5神だった奴がそんな事を言っててどうする……。

 オーディンのやる事には必ず意味があるって知ってるだろ」


 鏑木が呆れつつ言う。


「へぇ、あいつがオーディンかぁ、確かに強そうだ。

 俺より強いかは断言できないがな」

「店長さん、結構負けず嫌いですよね?

 もしかして俺がオーディンの方が店長さんより上って言った事、根にもってます……?」


「それについてはもう殴ったからオッケーだ!

 で、ハイディングってなんなんだい、鏑木くん」


「ちょ……あれってやっぱりわざと……!

 ……はぁ、ハイディングですね。


 ハイディングはですね、ギアブレードの情報を隠す為に使うカードです」


「情報を隠す?」

「はい、カード情報は隠せませんけど、何タイプを使っているのかとか、モニターに表示されてる残り耐久力だとか、そういう情報を隠すカードです」


「なんだそりゃ、意味あるのか?」


「ないですね。

 大体、形を見たり、音を聞けば何タイプなのかおおよそわかりますし、耐久力についても、隠したところでカードなしで戦うのと同義。

 使うだけ無駄、圧倒的に不利になるマイナーカードです」


「ねー、バカみたいですよねー」

「いやいや、ユッコちゃん。俺はさすがデータ派だと思ったね。

 天晴がカードに疎い事を知っててあんなカード使ったんだな。

 何をされるかわからない天晴にしてみれば、気が気じゃないはずだぜ」


「ええ……あんなこけおどしに騙される天晴くんじゃないと思いますけど……」


(こいつ本当に第5神だったのか……?)


 鏑木が少々疑いの目を持ち始めてしまう程、ユッコの色眼鏡は曇りまくっていた。


 * * *


「さて、一合も打ち合わないうちから話すのも観客に悪い。

 軽く手合わせをお願いしようか」

「え、あ、はい?」


『おーっと、オーディン! まさかの真っ向勝負!!

 頭脳派とは思えない脳筋プレイに出た!!』


 オーディンがギアブレードを大振りに振るう。

 このぐらいなら、回避できると高をくくった瞬間。


(えっ)


 オーディンのギアブレードが"しな"った。


 目測を誤った天晴はオーディンのギアブレードの攻撃を、まともに身体で受けてしまう。


「くっ」


 だが、さほどの威力はない。

 わざとらしい大振りであったことや、オーディン自身が加減している事がダメージから察する事ができた。


「ほら、打ち返してこないと」

「いきます!」


 だが天晴に手加減など器用な真似はできない。

 確実にオーディンのギアブレードを狙い、袈裟斬りを一閃。


 ──シャシャシャシャ!


(当たった! だが、浅い! 受け流されてる!)


「そうそう、その調子だ。

 ある程度観客に見せておかないと、話もできないからな」


 オーディンの反撃。

 緩慢とした動きの大振り、今度は大きくバックステップする。


 だが。


(伸びた!?)


「うっ!」


 ギアブレードの先端が腹部を突く。


「あまり離れると逆に危ないぞ。

 死中に活と言ってな、危険な状況でこそ活きる道を探すのが正しい行動だ」


 まるでレクチャーでもするかのような物言いであるが、着実に天晴のダメージは重なっていく。


『一進一退の攻防!!

 だが、お互いのギアブレードにダメージはゼロだぞぉぉ!!』


「はあっ!」


 ──シャシャシャシャ!


(まただ! タイミングをずらしても、確実に受け流されてる!)


「今度はこっちの番だな」


 オーディンの攻撃に合わせて思い切って近づく。

 それすら読んでいたかのようにオーディンの斬撃が身体にヒットする。


「ぉぐうっ!」


「こう見えて、俺はお前の事を買っているんだぜ、夜宮天晴。

 俺の考案した"剣闘士の可能性と育成理論"には、お前をサンプルとしたケースも取り入れてあるぐらいだ」

「な、なんですかそれは」


 ──シャシャシャ……!


「俺の考える最強のグラディエーター論。

 一口に最強と言っても、どのような定義で最強を決めるのかは議論が分かれる」

「ぐうっ!」


(見えているのに、かわせない……!)


「単純に考えて、総合力で強い四天王・シュンが現在の最強だろう。

 だが、俺の理論では、彼は最強候補でしかない。なぜなら」


 ──シャシャッ!


(段々、当たらなくなってきた……!?)


「総合力とは何か? という課題が降りかかるからだ。

 肉体的な鍛錬、精神的修養、カードの扱い、知識、IQ、センス、体格……」

「うぐっ!」


「考えられる要素は無限にある。

 そこで俺は、多角的にどのような要素が有効かを確かめるべく、いくつかのサンプルを人選した」

「くそっ!」


 ──シャリッ!


「何が成功して、何が失敗で、どこでどうつまづいたのか。

 それらを明確に理論化する事で、剣闘のレベルは大きく引き上げられるはずだ」

「……くっ!」


 ──キィン!


「剣闘のレベルが引き上げられると何が起こるか、わかるか夜宮天晴」

「わっ……かりませんねぇっ!!」


 ──シャシャッ!


「時代の遡行そこうが起こると俺は考えている。

 つまり、今のカードを主軸にしたバトルから、昔のオーソドックスな斬り合いに戻ると踏んでいる」


「えっ!? でも、カードは強いですよ!?」


「動きを止めるな、夜宮天晴」

「ぐはっ!!」


 いつの間にか話に引き込まれていた天晴は、返事をした隙に良い一撃をもらってしまった。


「げはっ、がはっ!」


『息もつかせぬ攻防にぃぃぃ!

 見事な一撃が決まったぁぁぁ!!

 さすがはオーディン!!』


 ──ワァァァァァァ!!

 オーディン! オーディン!


 * * *


「うわぁ……みんなオーディンコールしてますよ、店長」

「この観客みんなサクラなのか? 金かかってんねえ」


「オーディンはあえて完全アウェーな空間を演出したんだと思います。

 全部サクラじゃないでしょうけど、きっと大半は金で買ってる観客ですよ。

 色んな意味でやばいやつなんです、オーディンってやつは」


「ほえ~、それにしても、ぬるい剣闘してんなぁ」

「そういえば、天晴くん、オーディンと何か話してるっぽいですね」

「何を話してるかはわかりませんけど、不気味ですね。

 何せ、あのオーディンですから……」


「いつまでもくっちゃべってるようなら野次っちゃおうかな?」

「店長、恥ずかしいんでやめてください」

「店長さん、ここアウェーなんで、俺ら総スカン食らいますよ」


「そういう意図もあるわけか~、やらしいねえデータ君は」


「それにしても、お互いの耐久力が全くと言っていいほど減ってないわ」

「夜宮は身体にダメージを受けてるから、ギアにダメージはほとんどない。

 対してオーディンは受け流しを主軸にしてるから、多少なりともダメージは……あっ」



「「ハイディング!?」」


 

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