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ろまけん - ロマンシング剣闘 -  作者: モノリノヒト
第壱部 
3/37

第3試合 - 伝説の剣豪

 翌日、カイルは普通に登校してきた。


「いやー、凄かったなぁ、昨日は!」

「お前、よく無事だったな。顔面の横から、ばちーんっていっただろ」


「そうそう! 軽い脳震盪だってさ!」

「のうしんとう」

「そう! 生死の境をさ迷ったぜぇ。

 黄泉の門をくぐって、なお生還した俺、もはや一流のデュエリスト、いや、グラディエーターなのでは!?」


「……生きてて、良かった」


「何か言ったか?」

「……いや。あんな目に遭ったのに、まだデュエリストとか言ってんのかって」


「……ああ、まあ俺はなー。

 ……えっとさ、トモ先輩のチーム、解散することになったって」

「解散?」

「うん……方向性の違いだってさ。楽しく遊びたいトモさん達と、ガチで悔しがってる人達に分かれてさ。

 あと、理不尽にボコされたくない人が離脱しまくった」


「カイル、俺さ。

 プロじゃない非公式の剣闘士のことをデュエリストって勝手に名乗ってるだけだと思ってた」

「天晴、その通りなんだよ。元々デュエリストに明確な定義なんてなかったんだ。それを誰かが勝手な尺度で定義づけして、デュエリストを減らしてるんだよ」


(……)


「なんだよ?」

「急に難しい話するから、頭でも打ったんじゃないのかって」

「打ったのは顔面だぜ、わはは」

「……笑えねー」


「天晴」


 ふと、カイルが真面目な声色になる。


「俺、トモさんのとこで鍛えるよ、真面目に」

「鍛えるって……」

「トモさんのチームを解散に追い込んだ剣豪、塚原日剋……。

 許せねぇよ、俺」


 今にも泣きだしそうな、悲壮感の漂う雰囲気で、カイルはそう言った。

 この時の天晴は気付かなかったが、それは本気の決意だったのだ。


 * * *


「トモ先輩! トモせんぱーい!」

「カイルか……! もういいのか?」

「ばっちりっす!」


 トモとカイルが熱い抱擁を交わす。


「すまねぇ、カイル。俺達のデュエリストごっこに、お前達を巻き込んだばかりに」

「何を言ってるんすか! 俺、トモ先輩のチームに入りに来たんですよ! 本気でデュエリスト、目指します!」


「いや、カイル。俺のチームはもう」

「だからこそ大チャンスっすね! 今入れば、俺が最古参のメンバーってことっすよ!」

「カイル……」


 底抜けにポジティブなカイルに、トモの気持ちも少しずつ前を向いていく。


「……ああ、そうだな。お前がナンバーツーだ」

「よっしゃあ!!」


 そしてトモは自分の掴んだ情報を話し始める。


「カイル。実は俺の方で、ある情報筋から情報を掴んでるんだ」

「それって、あの伝説の剣豪ってやつの情報っすね!」

「ああ」


 トモは悔しさに唇を噛む。


「俺達の呼んだ剣豪……いや、あの男はな、偽物の剣豪だった」

「えっ、偽物!?」


「本物の剣豪、塚原日剋は"カードを使わない"んだ」

「カードを使わないんすか!」


 二人の脳裏をかすめる、かの男の言葉……。


 ──ケッ、カードを使うまでもねぇ──


 だが、本物はカードを使わない。


「あいつは、カードが使えるような言い方をしていた。

 あの時点で違和感は覚えていたんだ。俺は割と日剋のファンだからな」

「さすがトモ先輩っす!

 でも、カードを使わないぐらい古い人ってなると……。

 モノホンの塚原日剋って、相当のおっちゃんか爺さんなんじゃないですか?」


「ふっふっふ、それについては、会って確かめてみようぜ」

「えっ!?」

「これも、ある情報筋からなんだけどな。本物の塚原日剋は、今、この町に住んでるらしいんだ」

「おおお、この町に!!」


「しかもそいつは……」


「そいつは……?」


 長い溜めに、思わず唾をのみ込むカイル。


「……蕎麦屋を経営しているらしい」


 * * *


「いらっしゃいませ~」


 店員のお姉さんの可愛い声がこじんまりとした店内によく響く。


「二人です」

「二名様でーす!」


「……じゃなくて! トモ先輩!」

「なんだよ、せっかくだから剣豪の打つ蕎麦を食べてみたいだろ」

「そうじゃなくて! ここ! この店!」


「知ってるのか? 意外と近場だったろ、灯台下暗し、ってやつだな」


 口をぱくぱくさせていたカイルだが、蕎麦を食べてみたい気持ちはあったので、とにかく食べてから言う事にした。

 トモ先輩の奢りであったことも、より食を優先させた理由だ。


「お待たせしました~」


 湯気のたつ蕎麦が二杯、目の前に置かれる。


「当店の蕎麦はお店の名前の通り、十割とわり蕎麦粉で打っております。芳醇な香りと、独特の食感・舌触りをお楽しみくださいませ」


 店員のお姉さんがにこにこしながら説明してくれる。

 全てのお客さんに毎回同じ説明をしているのだろうか。


 トモが蕎麦を口に含み、飲み込むと。


「んんっ!」


 目をカッと見開き、店員のお姉さんを呼んだ。


「この蕎麦を打った職人を呼んでくれたまえ」

「えっ、あの、何か失礼でも……」

「逆だ、うまい、うますぎる。これがトワリ蕎麦かとお礼を言いたい」


「ありがとうございます。そのように伝えておきま」

「ぜひ! 直接! お礼が言いたい!」


 強引な客である。

 こういう自称評論家のような面倒な客は、長く相手をしなくていい事になっている。


 店員のお姉さんことユッコはすぐさま、奥へ引っ込んだ。


「店長、お客さんがお呼びです……」

「はいよ、また二八にはち蕎麦との違いについて語らないといけないのかね」

「あ、それは大丈夫だと思います、多分」


「トモ先輩、蕎麦、マジ、うめぇっす」

「うん、これは、いける」

「この強い蕎麦粉の香りが、好み、分かれそう、だけどな」

「ずぞぞぞぞ」


 蕎麦をすする二人の客に、店長と呼ばれた男が近づいていく。

 ゆっくりと、その気配を消しながら。


「ぷはぁ~! うまかった!!」

「ごちそうさまでした!!」

「そりゃ良かったです」


「「うわぁっ!!」」


「どうも、とわりの店長です」

「あ、あなたが店長さん?」


「はい。……って、隣の君は、カイルくん、だったかな」

「あ、どうも、お久しぶりでぇ~っす……」

「何っ、知り合い!?」


 三者三様の驚きが場を支配する。

 最初に口火を切ったのは、店長だった。


「で、何か御用で?

 うちの天晴が何かやらかしましたか」

「いやぁ、天晴くんは特に……むしろ巻き込んでしまって申し訳ないことをしました」

「長い人生、色々ありますよ」


「そうですよね、伝説の剣豪と呼ばれた人が、蕎麦屋になるぐらいですもんね」

「そうですね、ハハハ」


「ははは、じゃないですよ! 天晴のおじさん、めちゃくちゃ若いじゃないですか! 伝説の剣豪感ゼロですよ!」

「カイル、剣闘は子供からでも挑戦できるんだぞ。

 伝説と呼ばれた人物が若くても不思議じゃない」


「立場上おじさんと呼ばれているけど、実際のところ、俺は24歳なんだよなぁ」

「わっっっか!! おじさん、わっっっか!!

 というかさっき、さり気なく認めましたよね! 伝説の剣豪だってこと!」

「んなこたぁない」

「モノマネ似てないですって!」


 * * *


「まあ、落ち着こうや」

「すみません、カイルがテンパってるだけです」

「そりゃ、ああ、もう!」


「改めてお伺いしたいんですが……

 あなたが、伝説の剣豪、塚原日剋さんですね?」

「違います」

「息を吸うように嘘をついていくぅ!」


「ゴホン、そうだ、俺が塚原日剋だ。

 伝説の剣豪かどうかは定かじゃないが、確かにそういう名前をしている」

「それならあなたが、伝説の剣豪ですよ」

「どうかなぁ、世の中には同じ名前の人が3人はいるっていうから……」

「顔! それは顔! 名前だけでいいなら、もっといるっすよ!!」


「店長、そのくだり、もうやりましたよねー?」


「ユッコちゃんは耳聡みみさといなぁ」

「地獄耳って言いたいんですか?」

「やだなぁ、ちゃんと言葉は選んだじゃないか」


 店員のお姉さんまで現れて余計に場は混乱した。


「店長の秘密には興味あるんですよ。伝説の剣豪なんですっけ?」

「うん……。まあいいけど、天晴には言わないでくれよ。何か色々面倒なことになりそうだから」


 既に十分面倒事になっている。


「俺達、チームを組んでデュエリストをやってたんです。

 所詮はごっこ遊びの延長といわれても仕方ないけど、仲間内で十分に楽しんでたんです。それを……」

「おじさんの偽物が現れて、チーム解散まで追い込まれたんすよ」


「ああ……あの日か」

「天晴くんのお腹が紫色に腫れてた日ですね」


「お願いします、俺達の、チームの仇を討ってくれませんか!」

「おじさん、お願いします!」


「えええ……ちょっと待てよ。

 それは筋が違うんじゃないか。

 俺自身は何もされてない」


「店長、やられたのは天晴くんですよ?」

「それはちょっと腹に据えかねない事もないんだが、俺が出張るのは違う。

 仮に一時的に仇を討ったとしても、新しい敵が俺を襲うだろう。

 そうなると店はどうなる。ユッコちゃんもバイト先なくなるよ?」


「えぇ? それは困ります」

「そうだよ~、ここぐらいだよ、ユッコちゃんの度重なる遅刻を許してあげられるの」

「はい店長、いつもありがとうございます」


「じゃあせめて、戦い方を教えてくれませんか!」

「今の剣闘は、カードをカシャカシャするやつだろ?

 わからねーよ」


「アドバンスドタイプで戦える方法でもいいんです!」

「カードの効果って凄いんだろ?

 あいつ……昔の友人も、今はカードなしの剣闘はありえないって言ってたぐらいだし……。

 それに、アドなんたらとかのカードなしの剣闘技術なんて、それこそ一朝一夕いっちょういっせきで身につくものじゃない。基本がしっかりしてなきゃな。

 それこそ飽きずに何年も繰り返すぐらいの」


「そう、ですか……。

 じゃあ、せめて、基本の型だけ、見せてもらえませんか」

「君もしつこいね。そのしつこさは、とある子を思い出すよ。

 ……まあいいや、ギアブレードはないけど、あるものとして、見てなさい」

「はい」


(うおお、伝説の剣豪の型が見られるなんて!

 天晴、お前のおじさん、すげえ人だったぞ!!)


 店長はゆっくりと構えを取る。

 構えといっても、仰々しいものは一切ない。

半身になり、足は軽く開き、脱力。

腕はだらりと垂れ下がった状態だ。


 果たして、これを構えと呼べるかは、難しいだろう。

 そして一歩、踏み出す。


 ──スッ。


「!!!!」


 一歩踏み出された。


 いや、踏み出したと言うのも語弊ごへいがある。

 店長が膝を曲げたかと思えば、いつの間にか、一歩進んでいたのだ。


 続いて、二歩。


 風などない店内だというのに、あるはずのない風圧でその場から転げ落ちそうになる。


 そして、三歩。


 時間にして、一瞬。

 トモ達にとっては、長い、長い三歩だった。

 本物の圧に触れ、背筋にどっと汗をかく。


 最後に。

 店長は手を振り下ろしていた。


 知らぬ間に。

 三歩目に目を奪われている間にだろうか。


 正しく、それは誰の目にも見えていなかった。

 もし敵が店長の目の前にいれば、一刀にて両断されていただろう。


「どうだ? 少しは何かつかめたか?」


 店長のその言葉で、ようやく面々は我に返った。

 だが、各々の思いは、バラバラだった。


 ──次元が、違いすぎる……。

 ──動きは普通なのに、汗やっべ。

 ──店長、よくわかんないけど迫力あるー。


「あ、ありがとうございました」


「ま、そこそこ弱い方が人生長く楽しめるよ」

「おじさんって、おじさんみたいな発言しますね」

「カイルくんよりは、おじさんだからね」


 あまりの次元の違いに、トモは心底落胆していた。


 敵討ちは不可能。

 今からでもカイルと共に、見せてもらった基礎の型をやり続けるべきか。

 それとも有名な四大道場に入門すべきか。


 あるいは、危険を回避してチーム復活をあきらめるか。


「店長、今のやつって、どこかで習ったんですか?」

「いや、独学だよ」


 トモは二度衝撃を受けた。

 独学かつ、この若さで、ここまでの域に達する事ができるのか、と。

 同時に、本気で剣闘に打ち込んだ者と、遊びの延長としてしか楽しめなかった自分の差を思い知らされた。


「じゃあ、誰かに教えたことは?」

「一人だけ教えたことはあったけど、あいつは物覚えが悪くてなぁ。結局独学で四天王になっちまったよ」


「ええっ、おじさん、四天王とも知り合いなんですか!?」

「まあ、な。でもあいつは特別だ。

 剣闘が好きで好きでたまらないんだろうな。いつも楽しそうに何かを試していたよ。

 ……まあ、10個試したら9個は自爆するようなものだったが。

 強くなるには、そういう道もある」


 やはり無理だ、とトモは悟った。

 そこまで剣闘に打ち込めるかといえば、答えはNoとなる。

 そもそも正道であるグラディエーターを諦め、邪道であるデュエリストとなる道を選んだのだ。

 今更、正道は眩しすぎて渡れない。


「んー……」

「ユッコちゃん、さっきから何考えてんの?」


「んーとですね、もしかしたら敵討ち、できるかもしれないですよ」


 

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